デザイナーが企画、コピー、映像もつくる。KNAP独自のキャリアとは?

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「多くの職業がAI(人工知能)に取って代わられる」。昨今、そんな言葉をよく耳にする。それは、デザイナーをはじめとしたクリエイティブ業界においても同様だ。「AI時代が到来するなかで、デザイナーはどうあるべきなのだろうか」。そんな大きな問いに対し、独自の答えを持つのが、デザイン会社KNAP(ナップ)だ。彼らは企画立案から制作までをワンオペレーションで手がけているが、営業やプランナーを専任で担当するスタッフはいっさい存在しない。そのすべてをデザイナーが担っているという。そこにはいったい、どのような狙いがあるのだろうか。KNAPがたどり着いた、理想のデザイナー像について伺った。
  • 取材・文:村上広大
  • 撮影:永峰拓也

これからの時代、デザイナーには「企画力」が必須

「企画もできるデザイナーへ」——。デザイン会社であれば、企画をプランナーやディレクターに任せることが一般的だ。しかし、KNAP代表の河田慎さんは、デザイナーにこそ「企画力」が必要だと説く。

河田:「WEB 2.0」という言葉が流行した2000年代中頃から、メディアのあり方がものすごいスピードで変化していきました。とくにSNSの普及によって、メディアがユーザーへ一方的に発信するあり方から、ユーザー自らが情報を発信する側へとシフトしていった。企業のコーポレートサイトやブランドサイトにおいても、単に情報を発信するだけでは、ユーザーに届きにくい現状があると思います。

そんな変化のなかで、デザイナーも「インターフェースのデザインをどうするか」を考える前に、「そもそもユーザーへ何を、どう伝えたいのか」という上流部分から考えなければ、デザインが持つビジュアル的な魅力を活かしきれないかもしれないと、危機感を覚えるようになったんです。デザインだけではなく、もう1つ武器があるほうがこれからの時代を生き抜くうえで重要ではないかと。

そこでKNAPはデザイナーがプランニングを兼任するワークスタイルを確立。プランナーがクライアントからヒアリングしたことをもとにデザインするのではなく、デザイナーが直接聞いたことをデザインに落とし込むほうが、よりストレートなものづくりができると考えた。

こうした河田さんの考えはスタッフ全員に浸透している。アートディレクターの後藤優佳さんと南英一さんは、デザイナーがプランナーを兼ねるメリットについて、どのように考えているのだろうか。

後藤:デザイナーが企画に関わることの醍醐味は、まず「企画書そのもの」をデザインできることですね。企画書はクライアントに向けた「ラブレター」のようなもの。もちろん内容も大切ですが、デザインが無骨でワクワクしないものだと、クライアントに振り向いてもらえません。「この企画意図は何なのか」「強調したいメッセージは何なのか」など、誰が見ても理解でき、読んでみたくなる企画書をつくれるのは、実際に言葉やイメージをビジュアル化できるデザイナーがもっとも適していると思うんです。

アートディレクター 後藤優佳さん

アートディレクター 後藤優佳さん

南:それにデザイナーがプランナーを兼ねると、「デザイン配置の理由」「写真ではなく、イラストにする理由」など、一つひとつのデザインにきちんと意味づけをしながら仕事を進められるようになる。クライアントから言われた設計どおりに配置していくのがデザインではありません。むしろ、設計以上のものを生み出してこそデザイナー。企画から関わることによって、クリエイティブ全体をより俯瞰した視点で携われるようになるので、視界がグッと広くなりましたね。

WEBサイトを「人柄」で表現? KNAPの提案術

こうしたマインドのもと、KNAPが企画からデザインまでを手がけたプロジェクトのひとつに、社内イベントのプロデュース事業を行う、株式会社ゼロインのブランドWEBサイト制作がある。コンペに参加したKNAPは、クライアントの要望とは異なった企画を提案。制作を手がけた後藤さん、そしてデザイナーの松井拓実さんは、そのときのエピソードについて次のように話す。

企画・デザインを手がけた、株式会社ゼロインのブランドサイト

企画・デザインを手がけた、株式会社ゼロインのブランドサイト

後藤:コンペについての説明を受けたとき、クライアントからは「カッコいいサイトにしてほしい」と要望がありました。しかしヒアリングを重ねるなかで、既存の顧客は「安心感」や「親しみやすさ」をクライアントの魅力に感じ、仕事を依頼しているのではないかと考えたんです。もちろん、カッコいいサイトにすることもできますが、そうすることで、ちょっと近寄り難い印象になり、顧客が離れてしまう可能性があるのではないかと。

そこで、あえてカッコよすぎず、それでいてユーザーがわかりやすいサイト設計を提案しました。イメージは「エースで四番のようなカッコよさよりも、親身にいつも相談に乗ってくれる一番近い先輩のようなサイト」。実際のプレゼンでも、このように伝えたことを覚えています。

松井:サイトのトップページは動画をアイキャッチにしています。ゼロインさんの魅力は、「そこで働く人にある」と考えたんです。そのイメージを言葉や写真で表現するのではなく、「動き」をとおして伝えたほうが、より人の表情や臨場感が出ると思って。最終的に、安心感や親しみのある雰囲気を演出できたと思います。

サイトローンチ後、伺った話によると問い合わせ件数が倍増したそうです。もちろん弊社ではローンチまでをサポートさせてもらっただけなので、ゼロインさんの運用によるところが大きいとは思いますが、一定のご評価をいただけたことは、とてもうれしかったですね。

デザイナー 松井拓実さん

デザイナー 松井拓実さん

KNAPだから提案できる「ちょうどいいデザイン」とは?

次に紹介するのは、「Hard Rock Cafe」や「Eggs’n Things」などをはじめ、レストラン事業を中心に展開する株式会社WDIグループのコーポレートサイト制作。KNAPにとって、これまでのノウハウやナレッジをすべて活かせた事例だったと南さんは胸を張る。

南:WDIグループの世界観を伝えるため、まずは「しあわせが出逢うテーブル。」というコーポレートスローガンをもとに、テーブルの上に多彩な料理が並ぶメインビジュアルを提案しました。そこから各レストラン事業、ブランドにアクセスできるようなデザインを設計。でも、それだけでは会社やブランドの価値観を十分に伝え切れていない物足りなさがあったんです……。

後藤:そこで、新たなコンテンツとして「Global」と「Story」というページを提案しました。コーポレートサイトって、どうしても株主さんに向けた固めの内容になりがち。もちろんそれも大切な情報ですが、実際に店舗へ訪れる「お客さま」の視点に立ち、考えてみたんです。

WDIグループのブランドは、世界中に展開しており、ひとつのジャンルにとどまらない料理を提供しています。店舗を訪れたお客さまに「異国を旅しているような体験だった」と感じてもらいたい。そういう願いを込めて、「Global」では、WDIのビジョンや世界観が伝わるコンテンツをクライアントとともに考えました。

また「Story」は、食事やテーブルを介して人が幸せになるシーンを伝えるためのコンテンツ。多様なブランドを持つWDIだからこそ提供できる食事のシーンがたくさんあるので、それを写真と言葉で表現してみました。いずれもお客さまに、WDIグループに対する親近感を感じてもらえるようなコンテンツがつくれたと思います。

株式会社 WDIのコーポレートサイト内にあるオリジナルコンテンツ「Story」

株式会社 WDIのコーポレートサイト内にあるオリジナルコンテンツ「Story」

河田:デザインだけではなく、「Global」と「Story」というコンテンツがなぜ必要なのかについて、きちんとクライアントに伝えられたことで、信頼を勝ち得たプロジェクトになりました。また、コーポレートサイトって、ただ情報を流しているだけの、無機質で難解なイメージがあると思っていて。ぼくらが企画やデザインをするうえで大切にしているのは、情報を入れすぎず、でも充足感がある「さじ加減」。誰が見ても理解しやすい、適切な情報量と伝え方を設計することが、すなわち「ちょうどいいデザイン」になると考えています。

コーポレートサイトのリニューアルと並行しながら、リクルートサイトやウェディング事業のサイトリニューアルにも携わることになったKNAP。彼らの「企画力」と「提案力」がWDIグループのブランディングに一役かったプロジェクトとなった。

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能動的に学びたいスタッフをバックアップ。KNAP流「人の育て方」とは?

能動的に学びたいスタッフをバックアップ。KNAP流「人の育て方」とは?

大学卒業後、印刷会社とデザイン会社をわたり歩いた河田さんが、周囲のクリエイター仲間たちと共にKNAPを立ち上げたのは2011年。それから6年が経った現在、KNAPにはさまざまなスキルを持つ個性豊かなスタッフが集まり、それによって仕事の幅も大きく広がっているという。スタッフの個性を活かし育てることについて、河田さんはどのように考えているのだろうか。

河田:会社の魅力って、自分が持っていないスキルやナレッジをはじめ、多様な分野に精通している人と一緒に働けることだと思うんです。たとえば、この三人にしても、南はデザインセンスに長けているし、後藤は企画をつくるのがうまい。そして、松井はUI・UXに関して豊富な知識を持っている。それぞれ得意な分野が異なっているからこそ、さまざまな領域を横断しながら、ものづくりをすることができると思うんです。

代表取締役社長・クリエイティブディレクター 河田慎さん

代表取締役社長・クリエイティブディレクター 河田慎さん

KNAPではスタッフのスキル向上のため、社外のセミナーや講演会などへの参加を積極的に推奨している。もちろん参加費用は会社が負担。あえて社内の教育制度を整えないのにも理由があるのだとか。

河田:いまの時代にそぐわないとはわかっているのですが、「スキルは見て盗むもの」というのが、ぼくのポリシーなんです(笑)。なので、社内で特別な教育は基本的にしていません。昔と違って、デザイナーはデザイン以外のスキルや知識も必要ですし、アウトプットも多様化している。そういう時代のなかで、一方的な教育をしても、受ける側が受動的だと得られることは多くないと思っていて。そうであれば、自分が興味のあることについて能動的に学んでほしい。一人ひとりに学びたい意志と理由があれば、全面的にバックアップするようにしています。

KNAPのスタッフは、それぞれが伸ばしたいスキルを見極め、積極的にセミナーに参加。企画を学ぶスタッフもいれば、なかにはタイポグラフィーを学ぶスタッフも。能動的に学ぶからこそ、成長スピードは格段に早くなる。KNAPに教育制度がない理由は、「よりよいものづくり」を追い求めるクリエイターマインドのうえに成り立っているのだ。

会社員ではなく、クリエイターとしての「個」を大切にしたい

デザイナーの職業領域を広げようとするKNAPだが、彼らは将来的にどのようなキャリアを歩んでいきたいと考えているのだろうか。河田さんには会社のビジョンを、南さん、後藤さん、松井さんには個人的な展望について伺った。

河田:KNAPのスタッフには、ぜひ会社を利用してほしいですね。将来的に独立を考えているスタッフがいるのであれば、それすらも応援したいと考えています。たとえばデザイナーとして独立するとなると、クライアントとの交渉をはじめ、納期やコストの管理など、さまざまなスキルが必要となる。まずはKNAPでアートディレクションを学びながら、その一つひとつを実践し、身につけてもらってもいい。スタッフが独立することに関しては、やぶさかではないんですよ(笑)。

だからこそ、言われたことをただやるだけの人間には、絶対になってほしくない。一人ひとりが自分の意志で動けるように成長してほしいと思います。それが結果的に、KNAPの財産にもなるので。

南:ぼくはアートディレクションに加えて、組織全体の効率性や生産性を高めることに注力していきたいですね。デザイナーがプランニングやライティング、プログラミング、映像編集の仕事もしているので、KNAPの組織編成はとても複雑です。でも、しっかりリーダーシップを発揮しながらスタッフを動かすことで、もっとよい企画やデザインができるはず。スタッフ間のコミュニケーションを円滑にしながら、気持ちよく働ける方法を模索したいと思います。

アートディレクター 南英一さん

アートディレクター 南英一さん

後藤:私は、デザイン領域にとらわれない仕事をもっとしたいです。いまの時代、無料で簡単にWEBサイトを制作できるサービスもありますし、デザイナーという職種は将来なくなるともいわれています。そういう時代でも生きていけるように、「デザインだけ」「企画だけ」と割り切らず、いろんなことを吸収していきたいですね。一見、仕事につながらないようなことでも、きっとデザインに還元できるはず、と信じています。

松井:ぼくもデザインとは別に、もうひとつ専門領域を持ちたいですね。特に興味があるのは映像です。これから先、さらに需要は伸びていくと思うので、いまから技術や知識を深く習得し、デザインや企画に活かしていきたいですね。「広くて、浅い知識」で終わらないように、一つひとつのプロフェッショナルを目指したい。そう考えています。

クライアントの要望を、ただ鵜呑みにするのではなく、「本当に伝えたいことは何なのか?」「それが正しいやり方なのか?」など、企業の魅力と、それを伝える最適な手段を考え抜くKNAPのスタッフたち。「デザイナー」という枠にとどまらず、「企画」をはじめとした多様なスキルを、忠実にデザインへ落とし込めるのは、どんなことにも主体的に学び得ようとする彼らの誠実な姿勢があるからではないだろうか。まだまだ成長フェーズだというKNAPの展開から、目が離せない。

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    株式会社ナップ

    私たちは、KNAP(ナップ)という制作会社です。デジタルメディア(WEB、アプリ、映像)を中心に、印刷媒体などのデザイン業務全般を行っています。社名には「小山」という意味があります。メンバーはもちろん、クライアントとも一緒に、山の頂上を目指して着実に歩を進めたいと思っています。

    また、遊び心やユニークさを、デザイン・クライアントとのコミュニケーションでも大切にしています。クライアントにもそんな心持ちが評価され、 実績に繋がっているのかもしれません。

    そして、私たちは誰かが独断で決定することはありません。例えば打ち合わせにも、社長やディレクターがひとりで行くことはせず、デザイナーも必ず同席します。ひとりよがりにならないように、クライアントの話す様子や温度感をみんなで共有して、コミュニケーションを図りながら進めていきます。

    それは大事なメンバーを採用するときも一緒です。面接官は社員の半数。多くのメンバーの意見を尊重して決定します。それだけ、一人ひとりの社員の考えが尊重される環境です。面接の場では、あなたの考えをたくさん教えてください。私たちも、真摯に向き合います。

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