クリエイティブの力で地域貢献するには?茨城県で活動する「大洗カオス」が語る
- 2021/08/20
- FEATURE
PR
- 取材・文:宇治田エリ
- 写真提供:Kenichi Kurosaki(メイン写真)
- 編集:服部桃子(CINRA)
ビーチでテントサウナ、「トゥクトゥク」の導入。埋もれた魅力を企画力で見出す
—if design projectを機にスタートした大洗カオス。3年目となる現在は、どのような活動をされているのでしょうか?
平間:活動当初は自主的に活動していましたが、2020年からは茨城県大洗町の商工観光課、大洗観光おもてなし推進協議会など、行政や大洗町の観光業を担っている中心団体と連携し、町を盛り上げる2つのプロジェクトを進めています。
1つは、「海の新しい楽しみ方、海でととのう」を目的に、大洗のビーチにテントサウナを設置するプロジェクト。大洗町は明治以降から潮湯治(海水浴)の文化が盛んなエリアです。そんな地域の歴史といま話題のテントサウナをかけ合わせました。
2つ目は、新しいモビリティーの導入です。大洗町は南側のサンビーチエリアにはサーファー、北側の水族館や旅館があるエリアには一般観光客、そして商店街がある中心部にはアニメ『ガールズ&パンツァー』の聖地があり、ファンが多数訪れます。しかし、交通の便がよくないので、観光地間のアクセスがしづらい。また、目的地へたどり着くまでには素敵な景色がたくさんある。そこで、トゥクトゥクなどの潮風を感じられるモビリティーを取り入れ、気軽に行き来できるようにすることで、分散している大洗町の魅力をつなぎ合わせようと考えました。「移動」を「感動体験」にできるよう、目的地に向かうことではなく、その過程に着目しています。
—大洗カオスのメンバーは、普段どのようなお仕事をされているのでしょうか?
平間:ぼくはプロジェクトがスタートした当初は東京の会社でシステムエンジニアとして働いていましたが、いまは茨城にUターンして、大洗観光おもてなし推進協議会でイベントの企画や観光コンテンツの制作に携わっています。
石井:ぼくはデザイン会社で働き、BX、UI、ビジュアルデザイナとしてブランドを考えるところから、制作まで携わっています。大洗カオスは、ぼくらのほかに5人のメンバーがいるのですが、仕事のジャンルはバラバラ。コンサル系会社や事業会社の企画をしている人、ファイナンス系や人事系の仕事をしている人、そして地域系の仕事をしている人がいます。
—普段は本業もあり、忙しいときもあると思います。大洗カオスの活動との両立は大変ではないですか?
平間:メンバーがプロジェクトに共感し、心からやりたいと思う気持ちを持ち続けているから、負担と感じていないのかも。なるべくメンバーには、やりたいと思っていることに取り組んでもらいたいし、ぼく自身も楽しみながらプロジェクトを進めていくことを心がけています。
石井:メンバー全員、目指しているビジョンに共感し、熱意を持って取り組んでいます。机上の空論ではなく、実践まで行うことが、強いモチベーションにつながっていると思います。大変ですが、それでも挑戦したいし、楽しく活動していますね。
「地域貢献にチャレンジしたい」。茨城にゆかりがない人も多数参加
—if design projectは、茨城県の魅力を知ってもらい、移住者だけでなく、関係人口を増やすことを目的としています。その内容は、地元企業が出した課題に対し、参加者が6、7人のチームを組み、3か月かけて自治体とともに実践的かつイノベーティブな解決方法を考えていくというものです。おもにどのような人が参加しているのでしょうか?
鈴木:if design projectに参加する方は、大きく分けて3タイプいらっしゃいます。Aタイプは、大学進学を機に地元から出ていて、いつか茨城に戻っておもしろいことをやってみたいと思っている人。さまざまな可能性を秘めた環境で挑戦できることに、おもしろみを感じて応募してくださる場合が多いですね。
続いてBタイプは、場所は限定せず、課題を抱えている地域に対し、自分が社会で学んだことを活かして貢献したいという方。そしてCタイプは、学びのプロセスに興味があり、座学ではなく、実践形式で勉強していきたいと考えている方ですね。
—大洗カオスのお2人は、どういう理由でif design projectに参加したのでしょうか?
平間:ぼくは鈴木さんがおっしゃっていた、Aタイプの典型ですね。地元だというのも大きいですが、就職などで県外に出たことで、茨城にはいい部分が意外と多いと気づいたんです。伝え方や見せ方を変えるだけで、もっと町を盛り上げることができそうだし、自分の力も活かせるのではないかと。そう思っていたとき、SNSでこのプロジェクトのことを知り、応募しました。
石井:自分は、デザインの力で地域に貢献したいという思いがずっとありましたが、長いあいだ海外に住んでいたため、地理的に難しかったんです。そんな思いを抱えたまま、日本に帰ってきて数か月後、友人がif design projectを教えてくれたんです。しかも舞台はぼくの地元である茨城。絶妙なタイミングに運命を感じて、すぐに申し込みました(笑)。
—メンバーはどのように集めたのでしょうか?
鈴木:エントリー段階で事前アンケートを取り、やりたいことや貢献できること、興味があるエリアなどの希望を汲みつつ、さまざまな人と関われるように事務局にてチーム編成を決めました。そこで2人は「海×地域」のチームに割り当てられ、大洗観光協会から与えられた「通年楽しめる海の街、大洗をデザインする」というお題に取り組んでいきました。
—アウトプットはどう決めていきましたか?
平間:まずイベントを企画しようとなり、全員で話し合いながら内容を決め、得意分野に合わせて役割も分担していきました。サイトやチラシ、ロゴなどのビジュアル面は、デザインが専門のショウ(石井)さんが担当。イベントを開催するときは地元の人との連携も必要なので、その部分は、途中で大洗に移住したぼくが担当し、コミュニケーションを取っていきました。
石井:イベント企画は、テーマが決まってから2週間くらいで完成しました。普段と違う目線で大洗を見て、新しい発見につなげたくて、「海を撮ってはいけない海の写真展」という参加者に海以外の写真で大洗の海を表現してもらったんです。こういうテーマにすると普段の町やいつもの風景も違って見えるのではという思いで企画しました。
鈴木:大洗カオスチームは、ギリギリまでかたちが見えてこなかったから運営側としては心配でしたが、企画が固まってからはかなりスムーズに進行していて、頼もしかったです。
—最終のプレゼンテーションでは、クライアントである大洗観光協会に対して、どのようなことを伝えようと心がけましたか?
平間:ぼくたちが大洗町のどこが好きで、そこに自分たちが関わり企画することで、大洗町のどんな新しい魅力が引き出せるかというメリットを伝えました。
石井:その結果、「未知ではあるが、ぜひ取り組んでほしい」と、非常に好意的な言葉をいただくことができました。期待されていると感じましたね。
平間:また発表はしなかったものの、イベントを開催することで起こる不安要素をどのように解消するかまで、チーム内できちんと考えていました。だからこそ、説明に説得力を持たせられたと思います。
鈴木:大洗カオスチームは、非常にいいバランスのチームですよね。活動3年目となるいまも、チーム内のノリが良いと同時に、地域にしっかりと根を張る存在となりつつある。着実に実績を積み重ねているので、地域の人からも信頼されつつあります。
「よそ者」だからこそ、地域に還元できることもある
—if design projectでの経験をとおして得た気づきや、心の変化などありましたら教えてください。
平間:大洗町をさらに好きになりましたし、町をもっといい方向へと変えていきたいという思いが強くなりました。また、チームやプロジェクトをゼロからつくっていけたことは、自身の成長につながりました。
if design projectに参加したとき、ぼくはまだ新卒1年目でした。自分の意思で物ごとを動かすのが難しい時期で、やきもきしていたときに、チーム設計や企画のつくり方などを経験できた。短期間で経験値がアップしたと感じますし、現在の地域コーディネーターの仕事にもプロジェクトで得た知見が活かされています。
石井:地域の人と話してみると、よそ者でもやれることはたくさんあると気づきます。そんな「地域をより良くしていきたい」という前提のもと、自分のパッションを全開にして行動していく。するとまわりも変化し、協力してくれるようになる。志を高く持ち、小さな結果を積み重ねていくことで道は開かれるのだと気づくことができましたし、挑戦することに対する自信もつきました。
—こういったプロジェクトに、クリエイターが参加する意義は何だと思いますか?
石井:日本でデザイナーとして働いている方のなかには、ある程度決まった内容をビジュアライズするような、受注制作メインで仕事をしている人もいると思います。ただデザイナーとして働くうえで、本質をつけなかったり、制作するものが先に決定していたりすると、不完全燃焼というか、自分のスキルを発揮できないのではと思うこともあります。つくることは「デザイン」の工程の一つでしかないので。
その点、if design projectは、要件が決まっていない段階から始まり、自分の目指す方向にプロジェクトを動かせる余地がある。その際、これまでの経験も活かせるし、ほかのメンバーから新しい知見を得ることもできます。クリエイターとしてのやりがいも大きいし、自身の視野を広げられるというところに、魅力があると思います。
平間:ショウ(石井)さんのクリエイターらしい発想の転換には驚かされてばかりでした。そして、好きなものに対して楽しんでアウトプットしようとする姿勢やコミュニケーションの手法から学ぶところが多かったです。話し合いになると、「なぜ?」という本質をつく質問を投げかけてくれて、自分自身の考えを深めることもできました。
—最後に、if design projectに参加したい・興味があるクリエイターの方々に向けて、メッセージをお願いします。
平間:if design projectは、自分自身のやりたいことを、地域課題の解決に結びつけつつ、実現できる場です。ちょっとでもやりたいことがあったらぜひ参加してみてください。必ず将来につながるはずです。
石井:いまいる環境でくすぶっている人こそ、挑戦するべきだと思います。本気で取り組めば、人生が変わる。ぼく自身も大洗との関わりが深まるにつれてどんどん人生が楽しくなっていると実感しています。社会人になって年齢を重ねていくと、夢や強いパッションを持つチャレンジ精神旺盛な人と出会う機会は多くはないと思います。だからこそここに参加したいという人たちとの出会いはとても貴重。ぜひ参加して欲しいと思います。
鈴木:このプロジェクトは、クリエイティブの価値を見出せる場だと思いますし、自分の考えや目標を伝えるということは、周囲にもいい影響を与えるはず。地域の人たちの声を聞き、アウトプットに反映する経験は、クリエイターとしても幅が広がるはずです。
気になるけれど、「茨城に住んだことがない」「スキルを活かせるかわからない」という方は、まずは事前説明会に参加してみてください。これまでやってきた仕事やスキルがどのように役立つのか一緒に考え、紐解いていきましょう。
if design projectの詳しい情報はホームページをチェック!(第4期のエントリー絶賛募集中!9/20まで!)
https://if-design-project.jp/