誰もがフリーランスになる可能性がある社会がくる。フリーランス協会の「自律的キャリア」のための取り組み
- 2024/10/17
- FEATURE
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誰もがライフイベントやキャリアステージに合わせて、自由に働き方を選択できる。そんな未来を目指して活動しているのが、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(以下、フリーランス協会)だ。
交流イベントやオンライン学習の機会、各種保険や優待といった会員向けサービスを提供するほか、フリーランスが安心して働けるようになるための環境整備に向けて、現在約11万5千人いるという会員の声を調査によって可視化し、政策提言やメディアへの情報発信などを行なっている。
代表理事・平田麻莉さんは、自身もフリーランス広報として働くかたわら、2017年に仲間たちと協会を立ち上げた。その背景には、「フリーランスという働き方を、自信を持って人に勧められないのがもどかしい」という思いもあったという。
「より多様な、より多くのフリーランスの声が集まる団体になっていきたい」と語る平田さんに、フリーランス協会が、これまでどのような思いで活動をしてきたのかたずねた。
- 取材・テキスト:原里実
- 撮影:豊島望
- 編集:吉田薫
Profile
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会
「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」というビジョンを掲げて2017年に設立された非営利団体。フリーランスや副業ワーカーなどキャリア自律を目指す人々に役立つインフラ&コミュニティとして、サポートや環境整備を行なっている。
協会設立のきっかけは、「フリーランスは社会のなかで規格外」と感じたこと
—平田さんご自身は、どのようなきっかけからフリーランスとして働くようになったのですか。
平田:大学時代、テレビ局の報道部でアルバイトをするなかで、同じニュースでもメディアによって切り取り方が違う、そうすると受け取られ方もぜんぜん違う、ということを目の当たりにして、メディアの背景で情報をインプットしているPR会社の仕事に興味を持ちました。
平田:それで、大学在学中にインターンとしてPR会社に参画し、そのまま入社したのですが、さまざまな取引先の経営者と直接向き合う広報の業務に携わるうちに「広報や世論形成をちゃんと研究したい」という思いが芽生え、ビジネススクールに入学したんですね。学生をしながら個人でもいろいろな活動をするなかで、博士課程に進学するとき、当時の先生に「学生をやりながら、大学の職員として広報の仕事もしてほしい」と言っていただきまして。
この仕事を業務委託として受けることになり、初めて「業務委託」という働き方を知りました。そのうちに本の執筆や翻訳の仕事をもらったり、学外のプロジェクトにも参加したりと、いろいろな仕事を掛け持ちするようになりました。
私は高校でも部活を2つやっていましたし、大学でもサークルに4つ、ゼミに2つ入っていて……要は「選べない人」なんです(笑)。そういう自分にとって、業務委託としていろいろな組織に入って、いろんなチームでお仕事できるというのは、すごくあっていると思うようになりました。
—そこから、どういった経緯で協会の立ち上げに至ったのですか?
平田:2015年に『ワーママ・オブ・ザ・イヤー』という賞をいただいたことをきっかけに、周りのワーキングマザーから「自分もフリーランスとして働いてみたい」と相談を受けるようになりました。
でも、そのとき、自信を持って勧められない自分がいたんです。私自身、フリーランスとして2回出産と保活を経験するなかで、役所の窓口などで自分が社会のなかで規格外の存在なのだと感じることが多々ありました。それに、産休や育休の制度が適用されるのは会社員のみであることなど、セーフティーネットの脆弱さも実感していました。
平田:一方で、政府は「一億総活躍社会」という標語を掲げていて。子育て中の人も介護をしている人も、あらゆる人が働きやすい社会を本気で目指すなら、多様な働き方が選択できるよう、制度も時代に合わせてシフトしていくべきではないかと思うようになりました。
ただ、政策として進めてもらうにしても、フリーランスの実態をきちんと可視化して伝えないと、当事者のニーズに合わない制度ができてしまいかねない。それを避けるには、フリーランスの声を集めて発信する窓口が必要だろうと、協会の設立に至りました。私にとってフリーランス協会の仕事は、フリーランスや副業をする人たちのための広報をする、自主的な社会活動という感覚です。
協会設立から8年、フリーランスへの認識はどう変化したか
—協会が設立された2017年当時、フリーランスという働き方に対する世の中の認識はどのようなものでしたか。
平田:会社に就職できなかったとか、会社員としてやっていけなかった「かわいそうな人たち」というイメージが強かった印象です。協会を立ち上げてからも、「フリーターとどう違うんですか」という質問は何度もされました。
なので協会としては、フリーランスに対するそうしたネガティブなイメージや偏見を払拭していくことにまず取り組みました。働くことに対する満足度ややりがいの高さなどは、データを取れば一目瞭然でした。それによって、「フリーランスとは、キャリア自律を志向し、自らの意思でそのような働き方を選択しているプロフェッショナルである」という認識を広めていくのがファーストステップでした。
—協会が設立されて、2024年で8年目となりますが、世の中の認識はどのように変わったと感じていますか。
平田:フリーランスという働き方が、少しずつ身近な選択肢になってきていると思います。昔から、広告や文化芸術、メディア業界などは、キャリアパスの一環でフリーランスになるという選択肢がある業界だと思いますが、それ以外の業界で働くビジネスパーソンにも業務委託で働く選択肢が広がってきたのは大きな変化です。
平田:また、スキルシェアサービスを使って講師業やパーソナルトレーナー、家事代行などをしたり、ECプラットフォームで自分の作品を売ったりと、toCでお仕事する方も増えていますね。クリエイターエコノミーといわれて久しいですが、情報発信でマネタイズできる仕組みが整ってきたことも後押しになっていると思います。
協会設立の翌年、2018年は「副業元年」といわれ、国が副業解禁を促しはじめた年なんですよ。そういうこともあって、名刺をいくつも持っていたり、ハッシュタグのようにして肩書きが増えていったりするのが「かっこいい」という感覚も広まってきました。少しずつですが、多様な働き方に対する理解が深まってきていると感じますね。
情報のキャッチアップにスキルへの投資……フリーランスとして生きるために必要なこと
—協会の具体的な活動についてもおうかがいできればと思います。協会の活動の柱のひとつとして会員へのサービス提供がありますが、有料会員と無料会員があり、無料会員でも受けられるサービスがたくさんあるということですね。
平田:本当にさまざまな企業さまが、ご厚意で優待やサービスを提供してくださっています。そのなかでも会員の皆さまに好評なのが、「IBM SkillsBuild」、それと連携している「Udemy for SkillsBuild」という2つのオンライン学習プラットフォームが無料で使い放題になるというものです。「IBM SkillsBuild」はIBMが世界15か国で展開している社会貢献プログラムで、当協会は日本での運営パートナーにならせていただいています。
プログラミングやデータサイエンス、グラフィックデザインやWEBデザインといった専門的なスキルから、マーケティングやリーダーシップ、財務・会計といったビジネススキルまで、1,000以上の講座をオンラインで受けることができます。
—フリーランスになると、自分から学びに行かないと学ぶ機会がないのが大きな悩みのひとつですね。
平田:そうなんです。フリーランスは相手の期待値を超えるアウトプットをしつづけなければ次の仕事がないという厳しい世界でもありますから、技術革新やトレンドの変化などをキャッチアップするための自己投資はとても大事です。
最新情報に対してアンテナを張るという意味では、会員向けに配信しているメルマガも人気ですね。週に1回、法改正情報や節税のノウハウといった実用的なトピックに加え、フリーランスにおすすめの映画や本のレビュー記事や、キャリアアップのヒントが詰まったコラム、さまざまな働き方を実践する人のインタビュー記事なども配信しています。「とりあえずこれだけ読んでおけば安心」というメルマガを目指しています。
—そうしたオンラインでの情報発信のほか、『スナック曲がり角』といったオフラインでの会員同士の交流会も開催しているそうですね。
平田:東京はもちろん、北は北海道から南は沖縄まで全国各地で開催していて、おかげさまでこれも大変好評をいただいています。地方で開催すると参加者の方から必ず言われるのは「この街にこんなにフリーランスがいたんだ!」と。普段ひとりで取引先に対峙するなかで、仲間と会って情報交換ができたり、場合によっては何かお仕事やコラボレーションにつながったりというのは、皆さんとても喜んでくれています。
設立初日でメルマガ登録1,500人。人々の声から生まれた保険サービス
—ここまでは無料会員でも受けられるサービスですが、年会費1万円の有料会員になると受けられるサービスとして、各種保険は人気が高いそうですね。提供している保険の内容について教えていただけますか。
まず、賠償責任保険は、業務上でミスやトラブルを起こしてしまったときに役立つものです。例えば、デザイナーの方が制作したチラシに誤植があり再印刷が発生したとか、フォトグラファーの方が撮った写真のデータを紛失してしまって再撮影になったとかで、取引先から賠償請求をされた際に、その費用をカバーしてくれるというものです。
もうひとつの弁護士費用保険は、報酬の支払いについて遅延や減額といったトラブルが起こった際、対応のための弁護士費用が自己負担0円でカバーされる保険です。最近のアップデートとして、報酬トラブルに加えて著作権を侵害されてしまったトラブルにも対応できるようになりました
—保険のサービスは、どのような思いから提供をスタートされたのでしょうか。
平田:当初フリーランス協会の設立発表会の時点では、まだ何のサービスも用意できておらず、「こんなことをやりたい」という思いや構想を語っただけだったのですが、3日間で1,500名くらいの方々からメルマガ登録があったんです。
その備考欄に、皆さんいろいろな要望や期待をびっしりと書いてくださって。その声を見ていくと、大きくふたつの課題があることが浮かび上がりました。そのひとつが社会保障の問題、もうひとつが契約トラブルの問題だったんです。こうした問題に対して、まずは民間保険というかたちでできるところからという思いで提供をスタートしました。
一方で、協会を設立した翌年から、フリーランスとして働く人々の実態調査を通じて、「どういったセーフティネットが求められているか」「契約トラブルを経験した人がどれだけいるか」などのニーズや課題を政府やメディアに伝える活動も行なってきました。
—そうした働きかけが実り、2024年11月にフリーランス新法が施行される運びになったということですね。この法律は、フリーランスが安心して働ける環境の整備を図るため、フリーランスと発注事業者の間の取引の適正化や、フリーランスの就業環境改善を目的とした法律とされています。このフリーランス新法のなかで、平田さんとして最もポイントだと感じている部分はどこですか。
平田:「契約の口約束をなくそう」という部分ですね。先ほどお話しした弁護士費用保険を活用いただくにしても、そもそも契約内容の証拠がなければ戦えないため、取引条件をお互いに確認してエビデンスを残すことが義務化されたのはとても大きいと思っています。
必ずしも契約書や発注書の形式でなくてもメールやチャットで箇条書きで示してもらうかたちでも大丈夫ですし、発注者にお願いしづらければ、口約束で言われた内容を自分で箇条書きにして「この内容で進めてよろしいでしょうか?」とメッセージを送り、「OKです」と一言返事をもらえれば、取引条件明示がされたことになります。チャットだと削除されるリスクがあるので、スクリーンショットを取っておくなどの工夫が必要ですが。
—もうひとつの大きな課題である社会保障の問題は、今後どのように改善されていく見通しなのでしょうか?
平田:これまで訴えつづけてきた甲斐あって、政府としても2040年までに「働き方に中立的な社会保険制度」を用意し、現行の制度にある、会社員とそれ以外の働き方をする人たちとの待遇の差をなくしていくという方針を打ち立てています。ただ、既存の年金や健康保険の仕組み、それを支える財源にも影響する話なので、まだもう少し時間がかかるのかなと感じています。
誰もが自分の意思で仕事と向き合える社会に。フリーランス協会が目指す、「働く」の未来
—セーフティネットの拡充は税金の使い道に関わることでもあるため、フリーランスの声を代弁するなかで厳しい反応に直面することもあるのではないでしょうか。
平田:そうですね。私はもちろん、みんながみんなフリーランスになるべきと思っているわけでは決してないのですが、選択肢があるということは社会全体の利益になると思っているんです。
誰しも、結婚や出産や介護のようなライフイベントや、その時々のキャリアのステージによって、希望する働き方は変わっていくはず。そのなかで、会社員という働き方以外を選ぼうとするとセーフティーネットから漏れてしまう、というのはやっぱり健全ではないですよね。多様な働き方の間にある垣根がなくなって、スムーズに行き来できるようになることが理想だと思います。
実際、老後のことを考えると、誰もがフリーランスになりうる時代が来ています。いまの企業の定年は65歳ですが、労働寿命がどんどん伸びていることを考えると、65歳以上は誰もがフリーランスになる可能性があるというのが現実です。
—今後、フリーランス協会として、どのような社会をつくっていきたいと考えていますか。
平田:協会のビジョンとして「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」を掲げています。キャリア自律ってどういうことかというと、「自分の生殺与奪の権を他人に握られないこと」だと思っているんです。これまで多くの日本企業では、一度会社に就職すると、異動も転勤もいわれたとおりにしなければならないという働き方が一般的でした。それで例えば、「小さい子どもがいるのに泣く泣く単身赴任しなければならない」「本当は広報のキャリアを極めたかったのに営業に異動にさせられた」というようなこともあったわけです。
このようなことにならないためには、自分のキャリアの手綱を会社に預けるのではなく、自分で持つことが大切だと思います。何のプロになりたいのか、どういう領域で社会に貢献したいのか、そういったことを自分で決めて働ける人が増えれば、社会全体が明るくなっていくのではないかと思うんです。
—やらされ仕事ではなく、自分の意思で仕事に向き合うということですね。
平田:まさにです。「諸外国と比較して、日本人のワークエンゲージメント(仕事に対する熱意)は低い」という定説があるのですが、2019年にフリーランス協会が法政大学の石山恒貴教授と行なった実態調査では、フリーランスで働く日本人の場合、ワークエンゲージメントの高さがその他の先進国と変わらないということがわかりました。
これはきっと、やらされ感で働いている人が少ないからだと思います。本当は、フリーランスに限らず、そういった仕事に対する自律的な向き合い方が日本全体にもっと広まっていくといいなと思います。
—フリーランスという働き方を安心して選べる社会になれば、会社員という働き方も「自律的に選んでいる」という考え方が広まるかもしれませんね。
平田:そのためにはやはり環境整備が必要で、環境整備のためには、しっかり実態をデータで可視化して届けていくことが大切です。そのためにフリーランス協会も、より多様な、より多くのフリーランスの声を取りこぼさず反映できる団体になっていきたいと思っています。