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現実世界を、テクノロジーとアイデアで拡張する。XRを軸に進化するflapper3が描く未来

flapper3は、モーショングラフィックスを軸に映像・空間演出を得意とするクリエイティブ・スタジオ。エンターテイメント領域のコンテンツをメインに幅広い分野の案件を手がけている。映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のモニターグラフィックスや、安室奈美恵、Mr. Childrenといった人気アーティストのコンサート映像など、数多くの話題作を生み出してきた。

そんな同社が現在進行形で注力しているのがテクノロジーの領域だ。数年前にテックチームを新設し、リアルとバーチャルをいかにして融合させるかを日々探究している。今回は、このテックチームに所属するテクニカルディレクターの猪股芳樹さんと佐藤豪さん、そしてテックチームと連携を取ることが多いプロジェクトマネージャーの木下七さんを迎え、flapper3の取り組みについて話を伺った。
  • 取材・文:村上広大
  • 撮影:豊島望
  • 編集:生駒奨(CINRA編集部)

おもしろいと思う演出を実現できる場所――気鋭のクリエイターが集まるflapper3とは?

ー映像・空間演出を得意としているflapper3がテックチームを新たに立ち上げたのは、どのようなターニングポイントがあったのでしょうか?

猪股:4年ほど前からテクノロジーを駆使したライブ演出に取り組む機会があったのですが、会社として注力するきっかけになったのは新型コロナウイルスのまん延です。コロナ禍で配信を前提としたライブが一気に増えたことで、せっかくならプラスαでなにかできないかと考えるようになりました。それで会社の転居を機にテックルームを新たにつくり、試行錯誤しながらR&D (*1)を行っています。

テクニカルディレクターの猪股芳樹さん。学生時代からインターンとしてflapper3での業務に携わり、2018年に正式入社。当初はモーショングラフィックスデザイナーとして制作現場の前線で活躍していたが、現在は新設されたテックチームで中心的役割を任されている。

佐藤:この領域って、映像ほど制作手法がまだ確立されていないんですね。マニュアルもないし、誰かの真似ができる状況でもない。だから、機材選定を含めて手探りの状態で。それが大変でもあり、楽しくもありという感じですね。

テクニカルディレクターの佐藤豪さん。もともと個人での映像制作やVJ活動を行なっており、入社以前からflapper3での案件に携わってきた。そのなかでビジョンに共鳴し、2022年4月にflapper3に入社。

―佐藤さんはもともとフリーでも活動されていたそうですが、なぜflapper3に入社しようと考えたのでしょうか。

佐藤:会社という規模だからこそ取り組めるプロジェクトに企画段階から入りたかったからです。どうしても個人だと仕様が決まったあとの実装部分の仕事が多くなってしまうんですよね。自分がおもしろいと思う演出手法を実現できる場にいたかったというか。

猪股:flapper3はほかの会社とくらべるとフリーランスの集まりのような毛色が強いと思います。それに、十数名程度の小さな会社なので、一人ひとりの裁量が大きいのがいいなと。年功序列ではなく、社歴の浅い社員が出したものでもおもしろい企画であれば採用されます。なので、自分が前のめりになれば、好きなことを仕事にできると思うんですね。ぼくたちが使っているテックルームも、こういう部屋がほしいという要望を出したところ実現できたものですし。そうやって誰の話もフェアに聞いてくれるのがflapper3の魅力かなと思います。

オフィス内に新設されたテックルーム。さまざまな機材やハイスペックなマシン、十分なスペースが用意され、社内クリエイターたちが日々新たな表現を試行錯誤している。

ー木下さんはプロジェクトマネージャーとしてテックチームと関わる機会が多いと思うのですが、どのように見ていますか?

木下:みんな個性が立っているというか、それぞれに強みが明確だから、クライアントからなにか依頼があったときに「この人にはこれだね」っていう適材適所な働き方は実現できていると思います。一方で、組み合わせが固定化されて意外性みたいなものがなくなっている気もしていて。これからメンバーが増えていくと、いまとは違ったおもしろいことができるんじゃないかなと思います。

プロジェクトマネージャーの木下七さん。CINRA JOBの求人からflapper3に応募し、2020年3月に入社。業界未経験の状態で入社したが、いまでは社内外の幅広いプロジェクトで活躍。テックチームと密に連携し、制作進行の舵取り役を担う。

曖昧になるリアルとバーチャル――flapper3の技術と好奇心が実現する世界

ーテクニカルチームはどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。実際の制作物を踏まえて、もう少し詳しく教えてください。

佐藤:ぼくたちが注力していることのひとつに「照明同期」というものがあります。たとえばバーチャルシンガー・初音ミクのライブでは、バンドマンたちの生演奏に合わせて、3DCGで表現された彼女が歌うんですね。このときリアルとバーチャルそれぞれの照明の当たり具合をリアルタイムに連動させることで、あたかも現実の照明が実際に初音ミクにあたっているかのように見せています。

YouTube:[ボカロフェス2022] 初音ミク「ヴァンパイア」ARライブ | 夜光音楽スペシャル | NHK
flapper3が演出映像、AR、撮影、照明制作を担当
https://youtu.be/CDWhoB4kQTs

佐藤:こういうのってテクノロジーはおもしろいけど、ライブで見たときの演出が微妙なことが多いのはよくある話で。ぼくたちとしてもそこは絶対に避けたい気持ちが強いので、現実のライブとして成立しているうえで、バーチャルで演出が拡張されるように心がけています。

ーこうしたテクノロジーは日々進歩していると思うのですが、将来的にはどのようなことが実現できるようになるのでしょうか。

猪股:いまは現実をベースにバーチャルをつくっていますが、もしかしたら逆の現象が起きるかもしれないですよね。バーチャルに現実を合わせていくというか。

佐藤:配信ライブって誰か1人がメタ的に見ている視点を共有している状況だと思うのですが、それを現実世界で同時に体験できるようになったらおもしろいですよね。たとえば、実際のライブでゴーグルをつけるとステージ上の演出がデジタルで拡張されるとか。

猪股:現段階ではテクノロジーが追いついていないので難しいこともあるのですが、ボトルネックがひとつずつ外れていくことで次々と新しいことに挑戦できるようになると思います。

ー木下さんはテックチームの変化を感じることはありますか?

木下:そうですね。少しずつ自社でできることが増えている気がします。少し前まで外部のパートナーにお願いさせていただいていたことも、社内でできるようになっていますし。

猪股:基礎は少しずつ固まってきていますね。とくにカメラや照明といったハードウェアに関しては力を入れていて。それを外部に依存したままだと不確実性が高い状態だし、逐一各所に連絡を取らないといけないので、効率性が高まらないままなんですよね。だから、自分たちで制作のベースをつくりつつ、協力していただいているパートナーの方々に力を貸してもらって、さらにいいものをつくっていける環境にしていきたいと思います。

ーそうやって自分たちでできることを増やしていくのは、クオリティへのこだわりがあるからこそなのでしょうか? それとも、単純にいろんなことをやりたがる人が集まっているのか(笑)。

猪股:どちらもあると思います。とくにテクニカルディレクターの立場になると、いろんなことを知っておかないといけないんですね。カメラや照明の機材の知識はもちろん、場合によってはセクションに関する歴史を遡って調べることもあります。そういう基礎教養の有無で、演出の説得力に差が生まれると思うんですよ。

佐藤:CGをつくり込んでいくうえで、カメラや照明をどこに置くのかっていうのは、現実世界と同じようにすごく重要なことなんですよね。絶対にありえないだろうっていう場所に設定してしまうと表現に無理が生じてしまうから、視聴者も「なんだこれ?」となってしまうので。

猪股:デジタルはなんでもできてしまうからこそ、なにをやって、なにをやらないかの取捨選択をすることがけっこう大切で。

ーそのために心がけていることはありますか?

佐藤:つねにインプットをしている気がします。国内事例だけではなく、海外事例も参考にしていますし、メイキング映像を参照しながら機材を確認することもあります。

猪股:メイキング映像に一瞬だけ映った機材を見て、「カメラはこれで、トラッキングの機材はあれだよね」みたいな話はよくしていますね。趣味でカメラをやっているディレクターもけっこう多いですし。

ー興味の振り幅を広く持ち、好奇心を絶やさないことが必要なのかもしれないですね。

猪股:そうですね。多かれ少なかれ、みんなオタク気質だと思います。

「人の暮らしのなかにテクノロジーを」flapper3のさらなる野望

ー今後、観客を入れたライブも増えていくことが予測されます。そのなかでflapper3として取り組みたいことはありますか?

猪股:大きな規模感で、複合的な演出に取り組んでみたいですね。映像もできるし、空間演出もできるし、テクノロジーも駆使できるというflapper3の強みを最大限に活かしたプロジェクトに挑戦できれば、と。

佐藤:パソコンの性能が向上したことで、これまで技術的に難しかったことがどんどん実現できるようになっていくと思うんですね。そうなるとリアルとバーチャルの垣根がなくなって、リアルタイム性の価値がさらに高まっていくはず。そういう潮流のなかで、最新技術を活かした表現を絶えず世の中に発信していきたいなと考えています。それに併せて、会社の組織体制も映像とテクノロジー、それぞれのチームがシームレスにつながっていければと。そうすれば、flapper3はさらに強くなれるので。

猪股:あとはエンターテイメントだけでなく、人々の暮らしのなかにテクノロジーを役立てるようなこともしたいですね。体験のデザインを変えていきたいというか。たとえば、学校の社会科見学って、担当者の引率のもとに作業風景を見学して終わるのが定番のスタイルになっているじゃないですか。ただ、それだと見て終わりになってしまうので、アトラクション型の体験を用意してみるとか遊びと学びを両立できるような演出を通じて、子どもの五感に訴えかけるようなものをつくれたらおもしろいだろうなと思います。

ー木下さんはいかがですか?

木下:私はプロジェクトマネージャーとして、flapper3に所属するメンバー一人ひとりのやりたいことを実現できるようにしたいなと考えています。以前、社内のCGデザイナーたちにヒアリングする機会があったので深堀りしてみたところ、それぞれにやりたいことが出てくるんですよ。加えて個々に得意不得意があるので、案件ごとにマッチングの精度を高めていけたら、もっと自分のやりたいことができる環境にできるんじゃないかって。

スキルではなく、センスやこだわりを。flapper3を形づくる「本質的なレベルの高さ」

ー最後に、これから先どのような人と一緒に働きたいですか?

猪股:社内の人間がいうと手前味噌になりますが、flapper3って高いレベルで仕事をしていると思うんですね。個々人に求められるクオリティのラインも低くないですし。それについていけなくて挫折してしまう場合もあるので、良くも悪くも飄々と物事に向き合える人がいいんじゃないかなと思います。

佐藤:そういう意味では、スキルに自信がなくても、つくりたいものが明確な人のほうが向いている気がします。

猪股:たしかに。職種によって評価基準が異なるのですが、ひとつ共通項があるとすれば「個人的なこだわりが見えるか」だと思います。たとえ技術が未熟だったとしても、その人のセンスみたいなものが垣間見られるポイントがひとつでもあれば。

佐藤:テクノロジーってどんどん進化しているし、それによって扱う技術も変化していくので、スキルはそこまで重要度が高くないんですよね。だから、表面的な表現に終始するのではなく、自分のセンスを磨くほうがよっぽど大切で。そのためになにができるかを考えてみるといいのかなと思います。

木下:じつは私自身、別職種からプロジェクトマネージャーになったので、まさに未経験からの挑戦だったんですね。でも、flapper3は形式的な仕事が少なく、どちらかというと柔軟に対応することが求められるので、働きながら学べることも多いと思います。

猪股:いまの世の中って個人単位でクリエイティブなことができるようになっていると思うんですよ。パソコンのスペックは目まぐるしく向上しているし、iPhone1台あればなにかしらできてしまうわけですから。それこそ、10代のうちからハイクオリティなものを制作している人もたくさんいますし。そうした環境が整っているなかで、それでもflapper3は会社だからこそできることをやっているし、これからもやっていきたい。たとえば、映像・照明・テクノロジーをトータルディレクションするとか。

佐藤:ぼく自身、flapper3の仕事とは別に個人でアーティストのアートワークやVJ映像の制作をしているのですが、そういう活動も推奨されているんですね。会社という規模でしかできないことをやりながら、個人でもなにかしたい人にとっては、すごくバランスの取れた活動ができるんじゃないかなと思います。

*1:「Research & Development」の略。研究開発のことを指す

Profile

株式会社flapper3

flapper3は、モーショングラフィックスを軸に映像・空間演出を得意とするクリエイティブ・スタジオです。映画、音楽、アニメ、ゲームなどエンターテインメント領域のコンテンツをメインに、広告など幅広い分野の案件を企画・演出からトータルで手がけています。

大切にしているのは、プロジェクトの本質や文脈を理解したうえで最適な表現を提案すること。自分たちのクリエイティブによりコンテンツの魅力を最大限に拡張させることを目指しています。

いま私たちは、映像表現の探求はもちろんのこと、XRやインタラクションを取り入れた体感型の空間演出に力を入れています。年々、プロジェクトの数や規模が大きくなるなかで、より多くの人の力を必要としています。

現在、社員は18名ほど。個人が担当する仕事の幅が広く、さまざまな経験が積めます。映像が好きで自分の可能性を広げていきたい方、映像だけでなく一緒に新しい取り組みへチャレンジしてくれる方のエントリーをお待ちしています!

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