映像×空間に情熱を注ぐflapper3。貫くのは「主役を活かす」ものづくり
- 2020/01/31
- FEATURE
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2019年2月に10周年を迎え、「これからは映像とリアルを組み合わせた新しい表現方法を追求していきたい」と語るflapper3。作品に対するこだわりと、今後のビジョンについて同社のスタッフ3名に話を聞いた。
- 取材・文:笹林司
- 撮影:種子貴之
- 編集:服部桃子(CINRA)
エンタメがあるから人生は潤う。「時間を割いても良い」と思われるコンテンツづくりを
—flapper3では、どのようなものづくりを行っているのでしょうか?
矢向:エンターテイメント領域を中心に映像演出からインスタレーションなど、表現媒体を問わず、幅広い分野のデザインを手がけています。
—2019年に10周年を迎えたそうですね。これまでの経緯を教えてください。
矢向:「flapper」は、ガリバー旅行記に出てくるキャラクターで、記憶の番人。物事をすぐに忘れる人々が住む国で、彼らを叩いて記憶を思い出させてあげる役割です。その言葉を、ぼくと鈴木、代表の中村の3人が屋号として使っていました。まだ、みんなが個人事業主だったころです。その後、仕事が増えるにつれて会社でないと受けられない案件も出てきたので、2009年に法人化しました。
当初は「映像で見せるウェブサイト」をコンセプトに、サイト制作を行っていました。それが評判を呼び、さまざまな広告の仕事をいただくようになって。そこから、自分たちがやりたかったエンタメ領域に寄せていきました。社外の人に、自分たちが興味のある分野について徐々に知ってもらえたことで、現在は、各スタッフがエンタメ領域で得意分野を活かせる環境になりました。
矢向:とはいえ、広告をやらないという意味ではありません。エンタメ的に見せる広告は結構多い。最近は、空間を構築して、そのなかで商品に触れ合ってもらうPR方法もあります。flapper3も、単なる商品説明的な動画をつくるのではなく、ユーザーが参加し、楽しんでもらえるような広告を目指しています。
—flapper3が考える「エンタメ」とは、具体的にいうとどのようなものでしょうか。
矢向:すごく難しいですね……(笑)。ぼくは、エンタメで最も重要なのは、思い出や記憶に残る時間を提供することだと思っています。エンタメって、極論を言えば、生きるうえでは不要な時間じゃないですか。でも、エンタメがあるからこそ人生は潤う。ぼくたちの仕事は、人の時間を削ってまで何を残せるかですよね。
山本:記憶に残すことは大事ですよね。ライブ作品で全部をお客さんの心に残したいとまではいわなけど、盛り上がった瞬間が心に刻まれて、何かを残せれば良いかな。
鈴木:私は、お客さんが見せたいモノを見せることがエンタメの役割だと思っています。たとえば、怖い思いをしたくてホラー映画を観に行ったのに、内容がコメディー寄りだったらガッカリするでしょう。
それは、アーティストのライブでも同じ。この人のライブだから、こういった映像を観たいとかこういった曲を聴きたいというのは、必ずあります。それに応えるコンテンツが、エンターテインメントといえるのではないでしょうか。
ライブ映像、ゲーム、アニメ……。スタッフの趣味を仕事にも活かす
—具体的に、どのような案件を手がけているのですか?
矢向:案件のジャンルは、映画やゲーム、ライブイベントなど、多種多様。ライブやテレビ番組などのオープニングやエンディングの映像もつくります。あとは、アニメや映画の作中で流れるMVやゲーム中に使われるモニターグラフィックもつくったりします。
ただ、スタッフそれぞれ手がける仕事は多少異なります。ぼくは音楽系、特にライブ系の案件が多いですね。
—特に印象に残っているお仕事はなんですか?
矢向:初音ミクのライブ「マジカルミライ」です。2013年から始まり、これまで7回ほど携わらせてもらいました。
矢向:通常、アーティストとアートディレクターがライブ全体のイメージを固め、それに合わせて必要な映像のイメージを考えます。
しかし、初音ミクはバーチャルアイドルなので、アーティスト本人の意思はありません。楽曲も一般のユーザーが自由につくっている、いわばユーザー参加型のコンテンツです。そういう背景もあり、このライブはいつも以上にアーティストとの一体感や、会場での盛り上がりを重視する必要があると考え、さまざまな提案をしました。
たとえば、「この曲は初音ミクを目立たせたいから、あまり映像に目をいかせたくない」「ここは映像を見せて、ユーザーとの一体感を高めたい」とか。現場での緩急や盛り上がりを想定し、映像で上手く誘導することを心がけましたね。
—なかでも特に印象に残っている映像はありますか?
矢向:『39(サンキュー)』という楽曲のためにつくった映像です。「39」の由来は、初音ミクのミ(3)ク(9)で、初音ミクがユーザーに「出会ってくれてありがとう」と伝えてくれる意味が込められています。
その気持ちをどう表現しようか考えた結果、初音ミクのイラストがユーザーにより次々と描かれていく映像を思いつきました。「ユーザーが参加することでつくられる初音ミク」を、うまく表現できたのではないかと思います。
—山本さんの代表作は、どのようなものですか。
山本:ぼくも矢向と同じでライブ案件が多いですね。なかでも、ボーカルとギターの川島道行さんとベースの中野雅之さんがユニットを組んだロックバンドBOOM BOOM SATELLITES(ブンブンサテライツ)の2017年ラストライブが印象に残っています。
ぼくは2012年頃からライブ映像の制作でご一緒させてもらっていて。川島さんは以前から闘病を続けていたのですが、残念ながら2016年、お亡くなりになりました。ただ、ファンのためにラストライブを開催することになり、そこでぼくがライブ映像を担当。メンバーから直接、「ボーカルがいないため、それを映像で補完したい」というリクエストをもらいました。
その結果生まれたのが、ステージの前に幕を置いて、それに川島さんを想起させるシルエットや、言霊的な歌詞の映像を映し出すという手法。現実とは違うレイヤーの世界観とスピリチュアルな雰囲気を醸し出しました。シルエットが映し出された瞬間の客席の盛り上がりを見て、この仕事をやって良かったと感じましたね。
山本:もうひとつ、Superflyのライブで流したオープニング映像も印象に残っています。ライブの始まりで使う映像なので、盛り上がっていく感じを出したかったのですが、曲自体はわりと静かめ。そこで、ベース音に合わせてオブジェクトを出す「音ハメ」の手法を活用。モニターがLED発光だったので、白一色で照明のような使い方を意図しました。
丁寧に音を拾ったからか、終わったあとにバンドマスターがわざわざ挨拶に来てくれて「音の取り方が素晴らしかった」と褒めていただきました。ぼくは個人でVJとしても活動しているのですが、その感覚が活かされたように思いますね。
矢向:こういった手法は現場だからこそ活かされますよね。MVではあまりやらない。
山本:正直、モニターで見てもよくわからない(笑)。でも、ライブ会場では盛り上がるんです。
—鈴木さんはいかがでしょうか。
鈴木:私はゲーム系の仕事が多いですね。代表作はフライトシューティングゲームシリーズの『エースコンバット』で使われた作中のムービー映像です。『エースコンバット』は、戦闘機を操縦して作戦を遂行するゲームなのですが、その作戦内容を伝えるムービー映像の演出と制作を、シリーズのうち2作品で行いました。
鈴木:作戦内容は、地形などと一緒に立体ホログラムのようなかたちで映し出されるのですが、設定の細部までこだわっています。たとえば、正規軍の作戦指令は、新しいOSを使った作戦モニターから映し出されるから、未来的で格好いいものに。一方、犯罪者が集められ決死行で出撃する懲罰部隊には、OSが古く、モニターのグラフィックも昔っぽさを出そう、とか。
そういった設定を自分でイメージし、それに合わせて映像もつくっています。そうすることで、ゲームの世界観へより深く没入でき、プレイを楽しんでもらうことにつながると考えています。
映像は、あくまで主軸のプラスα。「自分が主役になろうとしない」ことが大切
—みなさんが作品をつくるとき、どういったことにこだわっていますか。
矢向:毎回意識しているのは、主役になる映像をつくろうとしないこと。演出のプラスαだと考え、映像があることで、ライブやコンテンツがよりよく見えるように意識しています。
ぼくも個人でVJの活動をしているのですが、「自分の映像を見てくれ!」というVJが一番好きじゃない。上手いVJは、主軸を理解して、そこにどのような映像を使えば空間が盛り上がるかを考えています。仕事にもそういった部分が影響しているかもしれません。
山本:矢向とほぼ同じですが、技術的なところでは、作品をつくるたびに新しいことにチャレンジしたいと思っています。ちょっとした部分でもいいので、新しい何かを盛り込めれば、自分自身が成長し続けられて、仕事に飽きがこない。あとは、単純に動きの気持ち良さは、かなりこだわっている自信がありますね。
鈴木:私はお客さん目線になることです。クライアントが満足するものではなく、つねにゲームのプレーヤーになりきって考える。当然のことですが、毎回、意識して制作に取り組んでいます。
私はとにかくゲームが好きで、実際にかなりやりこんでいます。個人的にボードゲームをつくったりもしている。だからこそ、プレーヤー目線で判断できる自信があります。
矢向も山本も、音楽が好きだからこそ、細かい部分までこだわっている。この仕事において「自分の好きなもの、こと」を自覚していることは、クオリティーを大きく左右することにもつながるので、とても重要だと思います。
—今後はどのような展開を考えていますか?
矢向:これまでもエンタメ領域に力を入れてきましたが、メインは外部から依頼された作品をより良くする仕事が中心でした。これからは、自分たちでエンタメの主軸をつくりたい。オリジナルのコンテンツづくりに注力していきたいと思っています。
鈴木:少し具体的に話すと、ひとつは、私たちが得意とする「空間を意識した映像」をさらに進化させて、映像とリアルを組み合わせた表現ができないかを模索しています。空間演出も含めてユーザーが参加できるインタラクティブなコンテンツができれば面白いと思っています。
もうひとつは、まったく新しいエンタメ。既存のものをより掘り下げて、新たな楽しみを見出す。普通の企業でいえば、研究開発に近いもしれません。
大事なのは、インプットの量と質
—10周年を機に、新たな領域にチャレンジしていくflapper3ですが、そこではどのような人と一緒に働きたいと思いますか? 映像制作のセンスも必要になりますか。
鈴木:センスという言葉は抽象的なのでなんともいえませんが、こういった仕事に就いている人には、「好きだからこそ、こだわってつくり込むのが苦にならない」という傾向があります。それをセンスというなら、重要でしょうね。
矢向:ぼくも同じ意見。センスという言葉は、あんまり信用していません。好きだったら大量のグラフィックや映像作品を見て自然と何かを学ぶはず。結局大事なのはインプットの量だと思ってます。そういったインプットから生まれるのがセンスなのではないでしょうか。
—スキルの部分ではいかがでしょう?
鈴木:現実的な話をすると、デザイナーとしてはモーショングラフィックスを中心とした映像制作ができる人が望ましいです。
一方で、映像とリアルを組み合わせた表現を追求するため、机上のイメージを現実にアウトプットできる技術を持ったエンジニアの方にも興味を持ってほしいと思っています。
矢向:では、ぼくはもう少し概念的な話で(笑)。鈴木が話した技術は最低限の入り口で、加えて、いろいろなことに好奇心を持って、自分から率先して動ける人材を求めています。
あとは、興味の幅が広い人が良いですね。ぼく自身、DJのほかに写真だったり音楽のレーベルを立ち上げたりと、いろいろやってます。結果的に仕事にも良いフェードバックがあることも多いですね。
山本:flapper3は、全員が広範囲の能力を持つプレイヤー。業務によって、ディレクターやデザイナーといった役職を使い分けています。特定な業務しかこなさないという社員はいませんね。
鈴木:もちろん、最初からそうでなくても大丈夫です。flapper3は、さまざまな映像制作を手がけているので、今月はライブで使う映像、来月はファッションブランドのPR映像など、つくるものが毎回違います。働いているうちに自然とマルチな能力が身につくはず。興味の幅が広く、いろいろなことをやってみたいとか覚えたいという人は、楽しく働けるのではないかと思います。
Profile
flapper3は、モーショングラフィックスを軸に映像・空間演出を得意とするクリエイティブ・スタジオです。映画、音楽、アニメ、ゲームなどエンターテインメント領域のコンテンツをメインに、広告など幅広い分野の案件を企画・演出からトータルで手がけています。
大切にしているのは、プロジェクトの本質や文脈を理解したうえで最適な表現を提案すること。自分たちのクリエイティブによりコンテンツの魅力を最大限に拡張させることを目指しています。
いま私たちは、映像表現の探求はもちろんのこと、XRやインタラクションを取り入れた体感型の空間演出に力を入れています。年々、プロジェクトの数や規模が大きくなるなかで、より多くの人の力を必要としています。
現在、社員は18名ほど。個人が担当する仕事の幅が広く、さまざまな経験が積めます。映像が好きで自分の可能性を広げていきたい方、映像だけでなく一緒に新しい取り組みへチャレンジしてくれる方のエントリーをお待ちしています!