ファーストリテイリングはなぜクリエイティブに注力するのか。ユニクロなどの制作物をインハウスで手がける理由。

株式会社ファーストリテイリング

株式会社ファーストリテイリング

ユニクロなどを展開するファーストリテイリングは、社内に「Global Creative Lab(GCL)」というクリエイティブ組織を持ち、ブランドとお客さまをつなぐ、さまざまなクリエイティブを自分たちの手でつくっている。

「LifeWear」のフィロソフィーを、フリーマガジン『LifeWear magazine』や、店頭の販促物、デジタル、動画、イベント、パッケージ、さらには服のタグなどの副資材まで、多岐にわたる媒体を通じてお客さまに届けるGCLの仕事。

なぜ、世界規模で事業を展開するファーストリテイリングは、クリエイティブをインハウスで手がけるのか。そして、商品の価値や、ユニクロなどが掲げる「LifeWear=究極の普段着」という考え方を、言葉やビジュアル、体験へとどのように翻訳しているのか。GCLでクリエイティブを牽引する太田祐二さん、岩渕大介さん、デザイナーの谷陽子さんに聞いた。

  • 取材・執筆:松本友也
  • 撮影:豊島望
  • 編集:齊藤大介

INDEX

商品価値を、ブランド価値へ。なぜクリエイティブ組織を社内に持つのか

─GCLは、何を目指して結成された組織なのでしょうか。

太田:「良い服をつくる会社」から「服を通じて世界に新しい価値を届けるブランド」になるためです。つまり、商品価値をブランド価値にも変えるということです。商品をつくるだけではなく、その機能や品質、服づくりの思想を、ビジュアルやコピー、言葉、そして体験に翻訳する。その結果として、「なぜこのブランドを選ぶのか」がお客さまに伝わっていく。それが、社内にあるクリエイティブチームの役割だと考えています。

太田 祐二さん。大学卒業後、メーカーで海外営業などの経験を経て出版業界へ。ファッション誌の編集や編集長を歴任したのち、2019年にファーストリテイリングに入社。グローバルマーケティング部長を経て、2022年よりGlobal Creative Lab Tokyo部長。

─大きな企業では、広告や制作物を外部の広告会社や制作会社と組んでつくるケースも多いと思います。その役割を社内に持つ意味は、どこにあるのでしょうか。

太田:以前は、こうした制作をプロジェクトごとに外部のパートナーへお願いしていました。ただ、ブランド価値の翻訳を続けていくには、ブランドへの理解や判断を社内に蓄積していくことが重要になる。そう考えた結果として生まれたのが、この組織だと理解しています。

背景には、事業のグローバル化もあります。日本で生まれたブランドが、続けるうちにグローバルブランドへ育ち、いまでは26の国と地域に展開している。言語も感性も違うなかで一貫したブランドイメージを保つためにも、クリエイティブの観点で全体を見る役割が社内に必要だったのだと思います。

岩渕:自分たちのブランドのことは、自分たちが誰よりもわかっていなければいけない。外部の方と一緒につくるにしても、深い理解を持った人間が関わったものには、何かしらの差が出てくると思うんです。その差が積み重なって、ブランドになっていく。そのために我々がいるのだと思います。

岩渕 大介さん。大学卒業後、出版業界へ就職。ファッション・ライフスタイル誌の編集経験を積み、2019年にファーストリテイリング入社。2022年よりGlobal Creative Lab Tokyoリーダー。

─皆さんは雑誌やデザイン事務所のご出身です。自社ブランドに関わるいまの仕事は、以前とどう違いますか。

岩渕:雑誌のタイアップのような仕事では、クライアントの課題を解決して一区切りになることが多かったです。しかし事業会社では、その先でお客さまがどう受け取るか、さらにそれが積み重なった先の、長いスパンでのブランドイメージまで考える必要があります。目的と時間軸が大きく違いますね。

谷:私はデザイン事務所とアパレルブランドを経て入社したのですが、やはり規模感がまったく違います。この大きさだと、意識しないと目の前の仕事だけになって、お客さま目線を見失いそうになる。だからこそ、俯瞰して全体を見ることを心がけています。その感覚は、小さな規模のなかで全体を見渡しながら働いていた、前の仕事で培われたものだと思います。

谷 陽子さん。大学卒業後、デザイン事務所、アパレルブランドでグラフィックデザイン、アートディレクションの経験を積み、2022年にファーストリテイリング入社。

『LifeWear magazine』は、商品開発とお客さまとのあいだでつくられる

─GCLの仕事には、具体的にどんな領域があるのでしょうか。

太田:チームの大半が関わっている大きなものは、『LifeWear magazine』ですが、それだけではありません。紙だけでなく、デジタルや動画、イベント、広告など、マーケティングに関わる表現全般があります。パッケージや、服につくタグのような副資材のデザインに関わることもあります。

─『LifeWear magazine』は、どんな体制でつくられているのですか。

岩渕:『LifeWear magazine』は半年に一度発行していますが、多くの場合、企画から仕上げまでをすべて自分たちでやります。外部のライターさんやフォトグラファーさん、スタイリストさんと協業することもありますが、どういうコンテンツにしていくかは内部で決めきります。そのうえでスタイリングやキャスティングを決めて撮影し、原稿もインハウスで書くことが多いですね。企画から印刷まわり、そしてお店に届けるところまで関わっています。

『LifeWear magazine』

─特集のテーマは、どのように決まるのでしょう。

岩渕:基本的には、商品のデザインをするR&D部門のコンセプトがベースです。ただ、それをそのまま使うというより、お客さまにとってどういう言葉だと伝わるかを考えて変換していきます。取り上げる商品の特性や、お客さまに伝えるべきポイントは正確に聞き取る必要があるので、社内取材のようなこともしますし、マーチャンダイザーともポイントごとにやり取りをしています。

太田:ファッションブランドには、春夏と秋冬という括りがあります。そのシーズンに売り込みたい商品が特集に出てくることが多いですし、社内のマーチャンダイザーと商売の面で連携しながら、それをお客さまにどう伝えるかという翻訳をしているのがマガジンチームです。

岩渕:編集の会議はほぼ毎日やっています。ユニクロはかなり大きなブランドなので、そのシーズンに起きていることをキャッチアップするだけでも大変で、題材はたくさんあります。限られたページのなかでどれを選ぶかには、とても気を使いますね。「このシーズンはこれをやるべきだ」という議論を重ね、そこから徐々に、個々の企画へ落とし込んでいく流れです。

─デザイナーは、制作のどの段階から参加するのでしょうか。

谷:ファッションシューティングページもあれば、インタビュー形式のページもあり、企画の内容によって入り方は変わります。ただ、どのページも編集者とかなり密に組んで、最初から一緒に絵をつくり、アイデアを出し、すり合わせをひたすら重ねます。同じチームだからこそできる協業だと思いますし、バックグラウンドは違っても、同じことを考えて一緒に走り続ける感覚があります。

岩渕:デザイナーとの距離がすごく近いんです。撮ってきた写真をデザイナーに渡して終わり、ではなく、伝えるにはどういう形がいいのか、飽きられないようにするにはどうするか、というフェーズから職種を越えてディスカッションしています。

谷:何をどこまで伝えるべきかの理解が早くなるので、デザイナーにも商品の知識はあればあるほどいいんです。プロダクトが生まれる背景まで、デザイナー自身が把握している。そういった関わり方は大きく違うところだと思います。

ブランドの意図と、お客さまの実感。そのあいだを「編集」する

─商品部門やマーケティング部門の意図と、クリエイティブはどのようにすり合わせるのでしょうか。

太田:マーケティングでやりたいコミュニケーションとマガジンが連動する施策が、毎シーズン何かしらあります。なので、企画を練る段階から、マーケティングとは密に連携していきます。

岩渕:クリエイティブだけで突っ走れば、ブランドが伝えたいことから外れてしまうかもしれない。一方で、マーチャンダイザーの意図に寄りすぎると、ブランドからの一方的なメッセージに見えてしまうこともあるかもしれません。会社として、ブランドとして伝えたいことでありながら、お客さまに受け取ってもらえる。そのちょうどいいところを探していくのが私たちの仕事です。

最新の『LifeWear magazine』では、ニューヨーク、ソウル、ベルリンの今のスタイルを取り上げている

谷:依頼を受けてつくるだけではなく、こちらから提案できる余地がある。そこは大きなやりがいにつながっていますね。

太田:大きな組織なので、それぞれの部署が抱えている課題は、イコール会社の課題なんです。それを無視して何かをつくることはないので、さまざまな部署と調整しながら進める場面が多いですね。

─他部署と連携するからこそ生まれるものはありますか。

谷:プロダクトをつくる側とのコミュニケーションが密なほど、伝え方の角度は広がります。実際、誌面の内容が店頭でもより大きく展開されるようになり、直接要望を届けてくれる担当者の方もかなり増えてきました。

岩渕:各部門はスペシャリストの集団です。マーチャンダイザーが考えた商品を売り場でどう見せるとよいか、アイデアを出し合うこともあります。とはいえ、GCLが社内のクリエイティブをすべて担っているわけではありません。

むしろ、そうした対話を通して、我々も会社の全体像をつかんでいる最中です。部署として関われている領域と関われていない領域ははっきりあって、まだ関われていないことのほうが多いんです。

太田:クリエイティブに関わるすべてをGCLが請け負うわけではないです。ただ、各部署が抱える問題や課題をクリエイティブの力で解決していく。それがチームとしての使命なんです。

─その判断の軸になる「ファーストリテイリングらしさ」とは、どんなものなのでしょうか。

太田:固定されたものがあるというよりは、「何がユニクロらしいのか」「LifeWearとはどういうものか」「ファーストリテイリンググループとは」をそのつど考えながら近づけていくイメージです。時とともに、「らしさ」も変わっていく。その変化を察知しながら考え続けていくので、今後も固定化することはないと思います。

世界中に届くクリエイティブでブランド価値をつくる。GCLで働く面白さ

─働く場所として見たとき、GCLの一番の面白さはどこにあると思いますか。

岩渕:ひとつわかりやすいのは、圧倒的にグローバルであることです。私のバックグラウンドは日本の雑誌なので、例えば、イタリアへ取材に行くことはあっても、イタリアのお客さまに届けようと考えることはありませんでした。いまは、つくったものを実際にイタリアはもちろん、世界各国のお客さまにも見ていただける。その圧倒的なスケール感、ダイナミックさがあります。

海外にいる社員から意見をもらいながら感覚を養っていく手探りの部分はありますが、世に出せば海外のお客さまから声が届くこともあり、反響を肌で感じています。

2024年にパリで開催された『LifeWear Day』では、LifeWearのコンセプトを展示やインスタレーションを通じて紹介した

谷:スケールの大きさでいうと、地域だけではなく幅広い年代に届けるということも意識しています。その結果、両親や祖父母のような、デザインに特別興味があるわけではない人の視界にも、自分の仕事が入っていく。そんなスケールの大きさで届けられるデザインの仕事は、あまりないと思っています。

身近な人が喜んでくれたり、一緒に働く社内外のスタッフの方が「家族に見せたい」と言ってくれたり。そんな規模のブランドはなかなかないと思います。

─一方で、その振れ幅の大きさは、大変なところでもありそうです。

谷:小さなデザイン事務所のデザイナーと同じような働き方をすることもあれば、自分が関わっているとは思えないほど、桁違いの規模の仕事が動くこともあります。どちらも面白いし、それぞれにいい部分がある。その両方を一度に経験できる環境は、GCLならではですね。

太田:採用面接でも「一番面白い点は何ですか」とよく聞かれます。やはり、世界中に届けられるクリエイティブに関わって、ブランドの価値をつくれる環境は、なかなかありません。日本ではユニクロを知らない人はほとんどいないかもしれませんが、国外に一歩出ると状況はまったく違います。まだまだ長い道のりがあり、そこへ向けてクリエイティブで道を開いていくイメージです。

─『LifeWear magazine』のようなエディトリアルの経験は、そこへどうつながっていきますか。

太田:ユニクロの店内には、ビジュアルがあふれていますよね。あれはグローバル共通でつくっていて、GCLのデザイナーやコピーライターが店頭販促物のアートディレクションやコピーに関わることもよくあります。

シーズンごとに大きなグローバルキャンペーンもありますし、コラボレーションプロジェクトのビジュアルに、マガジンに関わっているデザイナーが入るシーズンもある。マガジンの担当だからといって、ほかの仕事に関われないわけではないんです。

GCLが手がけた『LifeWear magazine』オリジナルグッズ

岩渕:本づくりに特化した人になる、というわけでもありません。本をつくるスキルを入口に、撮影が得意ならコラボレーションや店内のビジュアル制作などといったかたちで、いろいろなキャンペーンにも入っていける。そんなふうに経験を広げられるのは、事業会社ならではだと思います。

─最後に、どんな人と一緒に働きたいですか。

岩渕:大きな会社なので全体像をつかむのは難しい部分もありますが、それでも視野を広く保って、ブランドへの興味を持ち続けられる人に来てもらいたいです。ひとりで黙々とつくるというより、ほかの職種や部署と一緒に考えることを楽しめる人のほうが、この環境には合うと思います。

谷:とにかくいろいろな仕事があるので、変化や幅の広さを、前向きに面白がれる人と働きたいですね。規模の振れ幅に最初は戸惑うこともあると思いますが、どちらにもデザインとしての面白さがある。そこを、ポジティブに捉えてもらえる人がいいと思います。

太田:日本のなかだけ、あるいはひとつの職域だけに閉じず、異なる価値観とコミュニケーションを取りながら仕事をすることに興味を持てる人がいいですね。いま持っている専門性を起点に、まだ知らない領域へ踏み出したい方にとって、GCLは多くの経験ができる場所だと思います。世界中に届けるクリエイティブを通じて、ブランドの価値をつくっていく。そんな仕事に興味を持てる人に、ぜひ会いに来てもらいたいです。

Profile

株式会社ファーストリテイリング

【ファーストリテイリングとは】
ファーストリテイリングは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という企業理念のもと、世界中のあらゆる人々に良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供しています。ユニクロ、ジーユー、セオリー、プラステなどのブランドを世界中で展開しています。

私たちが考える「良い服」とは、シンプルで上質、長く愛用でき、人々の生活をより豊かにする服です。ユニクロのLifeWear(究極の普段着)は、その考え方を体現したものです。素材開発から商品企画、生産、販売までを一貫して手がけることで、高品質な商品をあらゆる人に届けることに挑戦し続けています。また、服そのものだけでなく、その背景にある価値や体験まで含めてお客さまに届けることを大切にしています。

ファーストリテイリングは、長期目標として売上収益10兆円を掲げています。ただし、売上成長が目的ではなく、お客さまの求めるサービスを高い次元で実現し、企業の成長とともに社会をより良くすることができる会社を目指しています。高い目標を掲げ、自ら変革し続けることで、より良いLifeWearをお届けし、世界中で最も愛されるブランドを目指します。

【Global Creative Labとは】
Global Creative Labは、ファーストリテイリンググループのインハウスクリエイティブ組織です。クリエイティブの視点から事業課題の解決とブランド価値の向上に取り組み、世界中のお客さまとブランドをつなぐ役割を担っています。

手がける領域は、広告やコンテンツ制作だけではありません。店舗空間、商品開発、販促物、デジタルコミュニケーション、イベント、コラボレーション企画など、ブランド体験をかたちづくるあらゆる接点が対象です。

東京、ニューヨーク、上海のチームが連携しながら、各国のクリエイターやエージェンシー、プロダクションと協働し、グローバル規模でクリエイティブを生み出しています。

ファーストリテイリングの企業理念
 https://www.fastretailing.com/jp/about/frway/
ユニクロのコンセプト
 https://www.uniqlo.com/lifewear/jp/

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