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「好きこそものの上手なれ」で世界と勝負する

2008年の設立以降、ソーシャルメディアやスマートフォンのアプリ開発を主戦場に、並みいる強豪と渡り合う株式会社エウレカ。クライアントの広告をつくる受託制作と並行して、自社サービスやアプリ開発にも意欲的だ。その邁進の原動力は、弱冠25歳で独立・起業した代表取締役の赤坂優氏。さらに、それを支えるのは大学在籍中のスタッフを含む非常に若いデザイナー、プログラマー集団だというから驚かされる。
会社員時代は大手ファッション通販サイトで若くして大役を任されるなど、「足の踏み外しようがない道」を歩んできたという赤坂氏。あえて強豪ひしめくクリエイティブ業界に飛び込んだ理由とは?
また、自社サービス、アプリの開発にもこだわる彼らが、まだ日本では馴染みの少ないUXデザインに最注力しているという。その想いを聞けたらと、同社オフィスを訪ねた。
  • 取材・文:内田伸一
  • 撮影:菱沼勇夫

常に挑戦者であれ

超若手クリエイティブ集団の「自由と自律」

広々としたフロアにはバランスボールが転がり、スタッフが思い思いのカジュアルな服装で仕事にいそしむ風景。「自由と自律」が株式会社エウレカの社内文化におけるキーワードだ。そこには、赤坂代表がそれまでの順調なキャリアを一度捨て、あえて「本当に好きなこと」で挑戦者になることを選んだ決意が反映されている。

—赤坂さんはかつて、大手ファッション通販サイトの優秀な若手メディアプランナーだったと伺いました。独立し、しかもアプリやサービス開発というものづくり系の事業に挑んだ経緯はどんなものだったのでしょう?

株式会社エウレカ代表取締役 赤坂 優さん

株式会社エウレカ代表取締役 赤坂 優さん

赤坂:学生時代は洋服が大好きだったので、就活ではアパレル企業を志望して内定も頂いたんです。でも在学中にインターンとして通い始めると、違和感をおぼえました。僕が勝手に抱いていた「アパレル=最先端」というイメージが実際は必ずしもそうではなかったり、また自分の興味も仕事においては服そのものより、その流通などビジネス面なのかもと思うようになって。考えましたが結局その内定は辞退して、ファッションの通販業務を行う会社に就職したんです。ここでは入社後、その通販WEBサイト事業に配属されました。

—そこで、ネット広告のメディアプランナーとして台頭してきたのですね。

赤坂:かなり生意気だったので、社内でも気にいってくれる人と、そうでない人がはっきり分かれましたけれど(苦笑)。ともあれ、月に200万ユーザーが訪れるサイトを広告メディアとしてどう活かすかという、やりがいのある仕事です。独立前の最後の1年は、社長直下の新規事業担当もやらせてもらいました。でもやがて、自分で会社を手がけてみたい想いが強くなってきて。そこで勤め先に、「起業するので、いま僕が担当してるメディア事業を任せてもらえませんか」と、かけ合いました。

—それって、この規模の事業ではちょっとあり得ない大胆提案では(笑)?

赤坂:ひとつには時流もあって、こうした業務全般がアウトソーシング型へ移行する時期でもあったんです。ネット広告が不適正な高値で扱われた時期も過ぎ、ニーズに合った広告を求める流れもありました。加えて社長が応援してくれるなど、ある程度の信頼を得られていたからでもあると思います。

「スキル」=「経験の長さ」では必ずしもない

—就職難の世代にあって、かなり華々しい道のりですが、同時に様々な自己探求も経ているんですね。さらに現在のエウレカでは、ソーシャルメディアやスマホのアプリ開発といったクリエイティブを主軸とする方向に変化したようですが、これは何かきっかけが?

赤坂:会社設立後はありがたいことに忙しく、でもいっぽうで「自分はまだ新しいことをやれていない」というコンプレックスがぬぐえなかったんです。会社員時代と同じネット広告業で、しかも元勤務先が取引先。「これで俺はホントの意味で独立したの?」っていう(苦笑)。やっぱり起業したからには面白いことをやって稼ぎたい。イノベーションも起こしたい。それもあって、ものづくりという難しいことにあえて挑戦したい気持ちになりました。

株式会社エウレカ代表取締役 赤坂 優さん

—現在の業務内容は、受託制作と自社サービスの2本柱ですか?

赤坂:はい。いずれもFacebook、Twitterなどのソーシャルメディアや、iPhone、Andoroid用のアプリ開発と企画が中心です。受託系と自社開発、それぞれ約10人のスタッフで動かしています。

—受託業務では国際的な化粧品メーカー、エスティ ローダーのキャンペーン用アプリなどを手がけていますね。先行する競合プロダクションとの闘いも厳しそうですが?

赤坂:まだこの領域に挑戦し始めて半年も経っていませんが、まず受託系については、ある程度は確実にいける手応えを得ています。なにより僕らは誰よりもインターネット好きな自信がある。よく「好きこそものの上手なれ」と言いますが、うちのスタッフもみんな、オタク的にスマホのアプリに凝っていますから。「ネット上で何か面白いことをやりたい」という漠然としたオファーにどう応えるか、そこではキャリアの長さだけが勝負を制するわけじゃない。若いスタッフを起用するのも、「スキル」=「経験の長さ」では必ずしもないという持論からです。もちろん、優秀であることは前提ですし、開発スピードの面でも自信があります。

—自社開発にも意欲的で、目の付けどころがユニークなものが印象的です。自分以外のiPhoneユーザーがどんなアプリを使っているか知ることができる『peepapp』や、設定時間に起床できないと自分のTwitterアカウントが勝手に恥ずかしいつぶやきをしてしまう、という異色の目覚ましアプリ『OKITE』など。

iPhoneアプリ「peepapp」「peepapp」は、FacebookやTwitterなどのSocial Mediaと連携し、持っているアプリを友達同士で共有することで、友達の間で人気のアプリや未発掘のアプリとの出会いを創造します。 http://peepapp.net/

赤坂:自社サービスの場合は対照的に、正解がない世界ですよね。何をやってもいいし、どこで満足するかのゴール設定も自由。だからこそ大変なのですが、自分たちが成長できるし、やりがいもある。会社運営上も、収穫逓増型(量産にコストがかからず、そのため販売量が増えるほど利益率が増加する)モデルを達成できれば発展させていけると思っています。

—ちなみに、色々なアプリは手がけても、ゲーム制作はやらないという方針でもいらっしゃると聞きましたが?

赤坂:それには3つ理由があります。まず僕もスタッフもインターネットは大好きだけど、ゲームはまた違う世界で、その開発はやはり「何よりゲームが好き」な方々の領域だろうということ。さらに、スマホやケータイのゲームには大手ゲームメーカーも参入してきたので、今後は優良タイトルを持っている会社でさえも非常に厳しい市場になると見ています。そして最後に、これは個人的な考えですが、僕は子どもたちがあまりに携帯ゲームばかりに没入してるのを見ると「子どもはもっと外でも遊ぼうよ」と思ってしまうタイプだからですかね(笑)。

—ゲームでも広告でもない新しい形で、暮らしを豊かにするものとして自社サービスを位置づけるということですかね。そうした新しいビジョンとも関係するのかもしれませんが、スタッフの多くがとてもお若いのも印象です。

赤坂:大学在籍中からインターンとして働く者も多いんです。そこから、卒業後も一緒にやろうと思える場合はまずアルバイト契約を結んでいます。現在そういうポジションのスタッフは全8名。アルバイトといってもみな優秀で、中途採用スタッフと同レベルでとらえています。僕が大学生だったころを思い出しても、みんな圧倒的に自分よりデキる人たちですよ(笑)。

日本は「UXデザイン」後進国?

これからは成長過程に進むのでは

ここで、若手スタッフを代表して、デザイナー/WEBディレクターの亀谷長翔さんにも取材に加わって頂いた。彼は現在、立教大学 経済学部の4年生でもあり、今期からアルバイト契約となったスタッフのひとりだ。

—亀谷さんは、いまどんなお仕事を担当しているのですか?

亀谷:主に自社サービス、アプリ開発のデザイン担当ですね。プロジェクトマネージャーが立案したコンセプトとUI(ユーザ・インタフェース)をもとに、そのデザインを手がけます。さきほどの『peepapp』にも参加しています。

—エウレカの一員になったきっかけは?

デザイナー/WEBディレクター 亀谷 長翔さん

デザイナー/WEBディレクター 亀谷 長翔さん

亀谷:将来のために、在学中にいちど企業インターンを経験しようと応募したんです。社長が面接してくれたのですが、僕の動機の曖昧さを見透かされて、でも逆に、何がやりたいのかと2時間くらいの長時間面接になったんです。いろいろ質問されたり、諭されたり、あとスティーブ・ジョブズの名言映像とかを一緒に見せられて(笑)。そこに出てきた「心に従わない理由はない」との言葉も強く響いて、ここで頑張ってみようと決めました。

赤坂:あったね、それ(笑)。亀ちゃんはとても真面目で優秀で、でも人生をどんどん攻めるタイプではなく、自分の今後にどこか悩んでいたように見えたんです。面接ですからまず「聞く」ことを大事にして、その後で、僕らの意見を言って、お互い共感できる部分があれば一緒に働きましょうって。

—赤坂さんはスタッフに、海外でのソーシャルメディアやスマホの事例を徹底して「見まくる」ことも強く推奨しているそうですね。

赤坂:はい。例えばアメリカではもう、Facebookの利用率は全人口の半数以上で、社会インフラ化しています。だからこそ失敗も成功もあるはずで、幅広い先行事例を知ることが絶対に強味になるんです。また、日本人はUIやUX(ユーザ・エクスペリエンス)のリテラシーが比較的まだ低く、とにかくこれまでのルールで使えるものが良しとなる傾向も感じますが、これからは成長過程に進むのではと見ています。

—UXデザインとは、ユーザーが本当にやりたいことをいかに「楽しく」「面白く」「心地よく」実現できるかという視点からのデザインですよね。例えば、同じ機能でもUI次第で満足度がまったく違うものになる、というような。

赤坂:そうですね。日本でも、たとえばiPhoneそのものがそうであるように、本当に優れたUIなら国内でも受け入れられるものは作れるはず、という気持ちが僕にはあるんです。

「気持ちいい」を求める体験を踏まえたデザイン

—たとえば僕らが使えるスマホ用アプリにも、その良例があるでしょうか?

株式会社エウレカ代表取締役 赤坂 優さん

赤坂:海外の事例になりますが、このiPhone用To Doリストアプリ『Clear』などはそのお手本ではないでしょうか。リストを下に引っ張れば新規タスクを追加、右にスワイプすると完了、左スワイプで削除。面倒な操作は要らず、操作の気持ち良さがそのままタスクをクリアしていく快感にもつながる。公開後わずか1週間で1千万件ダウンロードされたそうです。

—おぉー。操作してる人も楽しそうですね。亀谷さんのおすすめもありますか?

亀谷:このアプリ『Circle』はどうでしょう。Facebookアカウントでログインすると、近くにいる自分の友達や、同じ属性を持つ人の存在を教えてくれます。昔の電話ダイヤルみたいなプロフアイコンの出し方など、ちょっとした部分にも「こういうやり方があるんだな」と感心します

—何より、使っていて「気持ち良さそう」なのが特徴ですかね。こういうのを皆さんで日々チェックしてもいるんですか?

赤坂:注目サービスのまとめサイトもあって、UIデザインを集めた『Mobile Patterns』や、デザイナーのためのコミュニティサイト『dribble』などもみんなでよく見ます。「これまであのサービスの1ピクセルの違いが不快だったけど、これ最高」とか(笑)。それこそ「神は細部に宿る」ですかね。

—誰もが感じられる「心地良さ」が、UXの本来の目指すところ?

亀谷 長翔さん、赤坂 優さん

赤坂:もちろん、ただ操作が気持ちいいだけじゃお金にはならない。でも、無数にあるタスク管理アプリの中で、『clear』の成功例はUXを考える際すごく重要だと思います。日本ではこの分野のUXデザインは発展途上で、だからこそ僕らのような新規参入者が勝負できる部分があるかもと考えています。

—では、通常のデザイナーにとってUXデザインというのは、簡単に出来るものなのでしょうか?

赤坂:デザイナーの人でも静的なデザインが好きなら別かと思いますが、動的な、いわゆるインタラクティブなものが好きなら、この(アプリ)業界は面白いと思いますよ。例えば、キャンペーンサイトで10,000人に見てもらったというのと、10,000人に自分の作ったアプリを使ってもらったとなると、そっちの方が、絶対興奮すると思うんですね。だからB to C で、多くの人に自分のデザインを感じで欲しいと思うなら、この世界で勝負するっていうのは今凄い楽しい時代だと思いますよ。

海外進出は自分の現在地を教えてもくれる

—エウレカ社では、3年以内に本格的にアジア進出もしたいとのことですね。

赤坂:日本から世界で評価されるものを発信したいという気持ちは常に持ってきました。同時に、世界の動きに無知なままでいることへの危険性もよくスタッフに言い聞かせています。それで先日も、うちの自社サービスチーム全員でシンガポールに行きました。日本よりむしろ海外で評判が良い『peepapp』が縁で、アジア発の新興企業や投資家が集まるイベント「スタートアップ・イン・アジア」に参加しました。世界の中で自分たちがどういう位置にいるのか、は常に知っておきたいですね。

—亀谷さんもそのとき一緒にシンガポールに?

亀谷:はい。イベント会場でまずは名刺交換したのですが、僕とそんなに年齢も変わらない方々の肩書きがみんな「CEO」とかなんです。皆さん、もともとデザインなりプログラミングなりの経験者のようでしたが、起業したての大学4年生などもいてかなり刺激になりました。

—代表の赤坂さんにとっても、この数年間は新しい挑戦の時期ということですね。

亀谷 長翔さん、赤坂 優さん

赤坂:最初に起業経緯もお話しましたが、あるときまで僕はどこか「足の踏み外しようがない道」を歩んできたとも言えます。でもいま、そうじゃない道を選んだからには挑戦者。おそらく失敗もあるはずですが、そのためにも簡単にはグラつかない体制をつくりながら進めたいと思っています。だからいま、僕らには受託の仕事も必須なんです。いつかは受託と自社開発、両方をジョイントしたいですね。

—その挑戦の推進力になるのが、若手中心の「自由と自律」体制ということですね。

赤坂:幸い、22〜23歳と若くても、とても優秀なエンジニアたちが一緒です。彼らと話していると面白いんですよ。「この作業、時間かかり過ぎて非効率だから止めたほういいですよ」って提案されて「どれくらいかかるの?」って聞くと、「50分」とか返してくる(笑)。50分あればできるのに、それでは遅すぎる、別の解決策を選ぼうという感覚。僕はそうした彼らをかっこいいと思うし、そんな人たちが集まる会社であり続けたいなって思います。

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