
Vaundy"ZERO"のMV、プロeスポーツチーム「REJECT」のプロモーション映像など、インパクトある映像表現で話題の株式会社Cyran。同社は、音楽系専門学校出身の代表・菅井慧太さんが高校生クリエイター・minoさんをはじめ、多彩なクリエイターを集めたことで活動をスタートし、2022年に株式会社化したという。
映像の独自性や専門性の高さから、業界内でも注目を集める同社の強みはどのように培われたのか? 今回は代表・菅井さんとCGディレクター・minoさんに、会社を立ち上げた経緯から、個々人が思い切りクリエイションを発揮できる組織づくり、映像の独自性の裏側にあるロジカルな思考についてまで、お話いただいた。
- インタビュー・テキスト:宇治田エリ
- 撮影:鈴木渉
- 編集:吉田薫
「ものづくり」が好きなメンバーが集まってできたクリエイティブチーム・Cyran
―菅井さんは20代でCyranを立ち上げられていますね。どのような経緯で会社を設立されたのですか?
菅井:元々、僕は音楽系の専門学校に通っていて、レコーディングエンジニアなど音づくりを専門的に学んでいました。クリエイティブの仕事に興味を持ったのは、社会人になってしばらくしてからです。その頃、専門学校時代の同級生から声をかけてもらい、アイドルやアーティストのMV制作に関わる機会が増えていきました。それが非常に刺激的で。「クリエイティブな仕事を本業にしたい」という気持ちが芽生えたんです。
最初の数年はフリーランスの映像プロデューサーとして活動していましたが、取引先に大手が増えてきたタイミングで、一緒にやってきたメンバーとともに株式会社Cyranを立ち上げました。

菅井慧太 Creative Producer。4年前にクリエイティブカンパニー「Cyran(サイラン)」を設立し、CMやミュージックビデオなど多岐にわたる映像制作を手掛けてきた。2025年に同社はeスポーツチーム「株式会社REJECT」にM&Aし、現在も広告やエンタメの分野で活動を続けながら、eスポーツ領域のクリエイティブ全般を統括している
ー会社にする前からクリエイティブチームとして活動していたのですね。minoさんは立ち上げメンバーだと事前にうかがっています。どういった経緯でCyranに参画することになったのですか?
菅井:minoとはコロナ禍に入った頃に出会いました。外出できなかったのでひたすらネットサーフィンをしていたら、「歌ってみた」動画の映像が目について。それをつくっていたのが、まだ高校生だったminoでした。
当時はCyranに動画制作の依頼が増えていたこともあり、SNSでクリエイターに積極的にコンタクトを取っていたのですが、しっかりとしたお返事をいただけない方が多かったんですよね。プロじゃない方にもお声がけしていたからだと思うんですけど……そんななかで、minoからは丁寧な返事がきたんです。「彼なら一緒に仕事ができるかもしれない」と思い誘ったのがきっかけでした。
mino:その頃は高校生でしたし、明確にプロを目指していたというよりは、漠然と「将来、やりたいことができたらいいな」としか考えていませんでしたけどね(笑)。でも、菅井さんに声をかけていただいて「この人と一緒に仕事をしたら、夢が叶えられそうだな」と思ってついていくことを決意しました。
実際に、ビジネスに関して菅井さんが一手に引き受けてくださったからこそ制作に打ち込めたと思いますし、いまやりたいことが実現できているので、すごく感謝しています。

mino。映像ディレクター / VFXアーティスト。監督からVFX・デザインまで一貫して手がける。CGと実写を行き来しながら、独自の映像表現を探っている
メンバーの個性を活かすことで、会社も成長してきた
―minoさんをはじめ、Cyranには多彩なメンバーが集まっていますよね。どのような方々が所属しているのでしょうか?
菅井:創業メンバーは僕を含めた映像プロデューサー2名と、ライブ映像の監督、minoの4人です。現在はアニメーションやリリックビデオを得意とするメンバーも加わり6人になりました。

菅井:Cyranでは個性を活かしながら活動してもらうために、いわゆる社内ベンチャーのようなイメージで、特性に合わせてメンバーそれぞれが事業部を持つ体制にしています。
ライブ専門の事業部の「FINDOUT」、アニメ専門の「SAMA」、minoが率いるCG専門の「NANON CREATIVE」というふうに、Cyranを母体にそれぞれの事業部が業務委託のクリエイターの方々とチームを組んでプロジェクトを進めています。
mino:僕はもともとNANONという名義で活動していたので、チーム名を「NANON CREATIVE」にしました。Cyranで事業部をつくってもらったことで、それまで1人でやっていた仕事をチームでできるようになり、できることの幅も量も広がったように思います。
NANON CREATIVE Instagram
―面白い社内体制ですね。クリエイターの個性を立たせた運営がCyranさんの強みにもつながっているように思いました。
菅井:そうですね。多彩な分野の制作に対応できる柔軟性と、クリエイターたちが発揮する熱量がクライアントから高く評価されているのだと感じています。
実際にアウトプットしたものも、所属するクリエイターたちの能力が存分に活かされています。特にミュージックビデオは、演出や表現面で自由度が高く、自分たちの個性を発揮しやすいジャンルでもあります。実績としても出しやすいので、SNSや会社のウェブサイトで露出することで、Cyranのクリエイティビティをいろんな方に知っていただくきっかけになっているように思いますね。
そのおかげもあって、最近は口コミや継続の依頼だけでなく、クレジットを見てご依頼いただくことも増えました。
Cyran Instagram
「プロのCGディレクターとしてやっていく」。転機となった作品とは
―minoさんは高校生の頃からCyranに参画して映像制作のお仕事をされているということですが、どのように経験やスキルを習得していったのですか。
mino:小さい頃からとにかくものづくりが好きだったので、スキルは自然と身についていたと思います。小学生の頃から、ニンテンドーDSの「うごくメモ帳」で簡単な映像をつくったりしていたので。
でも、プロとして「CGクリエイターとしてやっていこう」と決意できたきっかけになったのは、Drive Boyの“Fincher”というMV制作でした。Cyranメンバーの映像ディレクター・安野(莉希)さんと一緒に参加した案件で、企画を練るなかで「CGを使ってみたい」という話が出たんですよ。それまで仕事ではCGを使ったことはなかったのですが、中学生の頃から独学でCGを制作していた経験があったので、「できます」と手をあげて挑戦しました。
このMVではCGやVFXをふんだんに盛り込んで、サイバーパンクの世界観をつくり込むことができました。特にこだわったのが車のCGです。安野さんとワンルームに泊まり込み、カメラワークを議論し続けたのは忘れられない経験ですね(笑)。
mino:精一杯取り組んで出来上がった映像は、アーティストにも喜んでもらえましたし、僕自身の名刺代わりにもなりました。このMVをきっかけに映像監督の大山卓也さんに声をかけていただき、THE ORAL CIGARETTES“MACHINEGUN”のカーチェイスシーンのCGとVFXを担当させていただくなど、一気にCGアーティストとしての活動が広がっていきました。
ロジカルに掘り下げることで、「伝わる」映像をつくることができる
―Cyranの仕事を通してプロとして自立されていったのですね。minoさんが最近制作したもので、思い入れのある作品はありますか?
mino:シンガーソングライターMINAMI MINAMIさんのMVです。普段はCREAMというグループのボーカリストとして活動している方なのですが、ソロ活動として2025年に7曲をリリースし、それに伴い7本のMVを撮るというプロジェクトがスタートしました。現在2曲のMVが公開されています。
このプロジェクトでは、人間が悲しみを乗り越えていくには衝撃・否認・怒り・取引・抑うつ・再構築・受容というプロセスを経て消化されるという、「7段階の悲しみ」をコンセプトに楽曲がつくられていて、1段階ごとに1曲ずつ楽曲がつくられ、MVもそれに合わせて制作しています。
mino:MVは「7段階の悲しみ」を光のスペクトラムに重ね合わせるというコンセプトで、グラデーションで行ったり来たりと揺らぎながら変化していく様子を表現に落とし込みました。例えば1作目の「衝撃」をテーマにした“how could you?”は、白い光が分散するイメージで、光の当て方を変えてみたり、ミラーを置いて空間を広げてみたりしました。また、背景を全部CGにしたりもしています。
2作目の「否認」をテーマにした“in my head”に関しては、悲しみといったネガティブな感情を青い光で表現。プロジェクタで背景に映像を流し、その上からCGを足してステージをつくり出しています。
mino:あとeスポーツチーム「REJECT」のロースタームービー「REJECT EVERYTHING, BUT VICTORY.」も思い入れがあります。去年、ストリートファイターリーグ(※)に親会社のREJECTのチームが初参戦したのですが、惜しくも2位という結果で終わってしまったんです。チームの皆さんから「去年の屈辱を晴らして、王者の座を勝ち取るために相手を全部蹴散らそう」強い意思を感じたので、それを表現した映像に仕上げました。ストーリーになっています。
※対戦格闘ゲーム『ストリートファイター』を使用した、カプコンが主催する日本最高峰の公式チームリーグ戦
―映像の中には水滴や鏡など、さまざまな記号的要素が散りばめられていますね。
mino:「水滴」は去年負けた悔しさという意味で「涙」を表現していたり、ウメハラさんの登場シーンの鏡が割れていく演出は伝説の「背水の逆転劇」(※)を表現していたりします。全体として選手の方々の、ゲームに対する哲学や情熱、崇高さをCGの演出を通して伝えていこうとしました。
また、タイトルの「REJECT EVERYTHING, BUT VICTORY.」も、「今年は優勝以外いらない」という復讐心や熱量の高いメッセージを表す言葉として提案し、それが結果的にチームスローガンに採用されたのも嬉しかったですね。
※2004年、世界規模の格闘ゲーム大会『EVO2004』の準決勝において、梅原大吾が『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』で勝利をおさめた場面
―企画に対する解釈が明確で、表現を実現するために論理的に組み立てていらっしゃるのですね。そのようなスタイルはどのように培われたのでしょうか?
mino:クリエイティブに関してはロジカル思考になれるんですよ。小さい頃から映像作品を見るのが好きで「なぜこの演出なのか」と、意図を探ることを自然に続けてきたからかもしれません。
それから、高校生の頃の経験も大きかったと思います。僕は情報デザイン学科という学部に通っていて、商業デザインを学んでいたのですが、授業でコンペをすることになり、自分としては自信作を提案したんです。でも選出されなくて。敗因は、コンセプトの弱さでした。そのとき「見た目のかっこよさだけではなく意図が伝わらなければ意味がない」と痛感し、その悔しさからテーマを深く掘り下げロジカルに伝える姿勢を大切にするようになりました。
菅井:minoはまだ20代前半で人間的には成長過程にあると感じますが、クリエイターとしては文句なしの存在だと感じています。
テーマに深く向き合いロジックもしっかり組み立てて提案してくれるので、「なぜこれをやっているの?」と聞かれても明確に答えることができる。やはりクライアントとお仕事をする以上、表現をロジカルに言葉で伝えられることは重要です。その点に関して、minoは安心して仕事を任せられていますし、クリエイターとしてのポジションを掴んでいっていると思います。

クリエイティブカンパニーとしてのさらなる成長へ向けて。Cyranが目指すこれから
―では、Cyranの今後についてもおうかがいしたいです。クリエイターの方々の熱量も高いですし、依頼も順調に増えていて、会社として成長の最中と思うのですが、このタイミングで株式会社REJECTと合併したのはなぜでしょうか?
菅井:たしかに順調に案件も増え、安定してきてはいました。ただ僕は経営者としてまだまだ未熟なところがありますし、プレーヤーでもあるので、その両立がなかなか難しくて。Cyranは独創性のあるクリエイティブが強みで、プロダクションとしてその強みをもっと伸ばしていきたいと思っていたのですが、手が回らなくなっていました。
一方のREJECTにはクリエイティブチームのリソース不足という課題があり、2024年ごろから僕らがサポートに入るようになったことで、Cyranがそのリソースを担ってくれないかという打診がありました。
お互いの足りない部分を補いあいながら、Cyranの強みをより伸ばせると考え合併に至りました。

―現在、CG、アニメ、ライブとさまざまな事業部がありますが、現時点で組織としてはどのような成長を目指していますか?
菅井:今はまだ、僕がプロデュースに入る必要がある状態ではありますが、今後はプロジェクトマネージャーやCGプロデューサーにメンバーとして加わってもらうことで、それぞれの事業部が完全に独立してやっていけるようにしていけたらと思います。現にminoも、NANON CREATIVEをまとめる立場として、日々チームメンバーのスキルアップをサポートしています。
mino:まだまだ課題も多いけれど、人に教えること自体はとても好きなので、人が育つ喜びを感じながら自分自身も成長していきたいです。
菅井:それから、やっぱり僕たちはクリエイティブがすごく好きなので、各々が力をつけたタイミングでマンガやキャラクターなど自分たち発信のIPをつくり、アニメや映画をつくるといった大きな企画を、愛を持ってやってみたいですね。
mino:NANON CREATIVEの中でも、CGを受託するだけでなくIPをつくれたらいいなと思っています。最近はminoとして監督案件を多くやらせていただいていますし、将来的には監督がメインでCGはその表現のうちの1つとして使うくらいになっていきたいです。それから、映画のような長編作品にも挑戦できたらと思っています。

―最後に、これから応募される方へメッセージをお願いします。
mino:CGはすごく根気のいる作業ですが、熱量さえあれば身についていくものだと思っています。ぜひ一緒に頑張りましょう。
菅井:Cyranは、僕も含めもともとクリエイティブ職をやっていなかったメンバーもいます。熱量と礼儀さえあれば特別なスキルがなくても飛び込める環境です。ものづくりに挑戦したい方は、僕らと一緒に、新たなクリエイティブに挑戦していきましょう。
Profile

株式会社REJECTは、国内トップクラスの実力を誇るプロeスポーツチームを運営する企業です。国内外の大会における競技活動に加え、ストリーマー部門の運営、アパレル・グッズの企画販売、スポンサーシップやイベント運営など、eスポーツを軸とした多角的な事業を展開しています。競技シーンを牽引するだけでなく、eスポーツをライフスタイルやカルチャーへと広げ、業界の持続的な発展に寄与しています。
