CINRA
|
マイページ「応募履歴」機能追加のお知らせ 詳しくはこちら

インターンシップをきっかけにCygamesへ。『グラブル』背景美術のキャリアとやりがいとは

現在、全国巡回中の展覧会『Cygames背景美術展 2024-2025』。ゲーム美術のなかでも背景にフォーカスした本展の開催に合わせ、今回はCygamesの人気タイトル『グランブルーファンタジー』(以下、『グラブル』)の背景美術を手がけるNozomiさんにインタビューを実施。

学生時代からCygamesのゲームのファンだったというNozomiさんに、ゲーム業界を目指すきっかけになったエピソードやインターンシップでの体験、背景美術の楽しさや難しさまでをお話いただいた。

  • 取材・テキスト:吉田薫

『グラブル』の背景美術はどうやってつくられるのか? 制作の裏側を聞く

ーNozomiさんは『グラブル』の背景美術の制作をご担当されているとうかがっています。まずは背景美術の制作がどのように進むのか、今回の背景美術展の展示作品を例にうかがっても良いでしょうか?

Nozomi:基本的にはメインストーリーの更新や新規イベントなどゲーム内の企画が立ち上がったときに、ゲームプランナーからそのシナリオに基づいたイラストの発注を受けます。その発注書にそって、私たちイラストレーターが制作するという流れになっております。

ただ、『グラブル』の背景美術の制作では例外的に背景チームが独自にテーマを決めて制作するケースもあります。たとえば今回の背景美術展でも展示されている「賑やかな酒場」(下写真)もそういったケースです。

Nozomi:この背景イラストは酒場をテーマにした絵ですが、プランナーから発注があったのではなく、いままでこういったテイストの背景が無かったのでチャレンジしてみたいね、とチーム内で話しあって制作しはじめたものです。

ーなるほど。ご飯から湯気が出ていたり食べ残しがあったり、生活感がすごいでているなと思って、展覧会場で見たイラストのなかでもすごく記憶に残っている作品でした。こだわったポイントや大変だった点はありますか。

Nozomi:この絵は特にモチーフの数が多いので、どうやって「物の多さ」と「見やすさ」を両立させるかというところは、意識しながら描きました。実際に描く前に参考としていろいろな資料を集めて、テーブルの上にどういう物が載っているか、どういう配置にするべきか、などを考えて描いています。

また、グラブルの住民たちがその場にいるような空気感、つまり住人たちの生活感を出すことを大切にしたいと思いながら、イラストチームの監修者と相談して仕上げていきました。

ーどのように生活感を出したのでしょう?

Nozomi:たとえば、少し奥のほうが煙かかっているように見えると思うんですけれども、ここは初期の段階では描かれていませんでした。監修者から料理の温かさを感じられるような湯気や、人々から放たれる熱量みたいなものをもっと表現できるといいのではとアドバイスをもらって、最終的にこのような表現になりました。

ーチームで相談しながら『グラブル』の世界観をつくっているのですね。

Nozomi:そうですね。いまお話ししたように、技術面に限らず『グラブル』の世界観をつくるために必要な演出面も含めて、監修者のフィードバックやアドバイスを踏まえて制作を進めています。

『グラブル』は「ファンタジーの世界であってもリアリティを追求しているタイトル」

ー『グラブル』は憧れのゲームタイトルだったということですが、実際に制作に参加する以前と以後で印象が変わったことなどはありますか?

Nozomi:実際に制作に参加するようになって驚いたのは、ファンタジーの世界であってもリアリティを追求しているタイトルであるということです。たとえば建物ひとつとっても、木の質感だったり傷がちょっと入っていたり、細部にわたるまで一つひとつ丁寧に表現しています。もちろん構造物はファンタジー感のあるデザインが特徴ではありますが、空間表現や被写体などのライティングの表現においては、現実の見え方にかなり忠実に描写しようとしているタイトルだと思います。


Nozomi:光の表現で言うと、「環境光」というものがあるのですが、これは「赤い物体に強い光が当たると周りの空間も少し赤くなる」といった光の表現のことです。学生時代からデッサンをやっていたので、環境光という概念があることは理解していたのですが、そこまで解像度は高くありませんでした。

でも『グラブル』では光の種類一つひとつをしっかりと理解して、空間全体の色を厳密にとらえる必要がある。そういった部分がすごく繊細だなと実感したところであり、難しいと感じる部分でもあります。

ーそういった技術的な部分はどのように獲得していくのですか?

Nozomi:現場のなかで周囲から教えていただきながら少しずつ成長していっています。Cygamesはチーム全員で技術を高めあって向上していこうという姿勢が強くあります。過去には、2週間に1回ほど勉強会を開いて、技術や知見を共有しあっていました。

また、私は想像して絵を組み立てていくという、いわゆるイラストのデザインの部分に苦手意識があったのですが、背景チームではそういった技術的なポイントがある程度言語化されているんです。知見や技術が言語化されて共有できるかたちになっていることが、チーム全体の技術向上に大きく役立っていると思います。

1冊の本がゲーム業界を目指すきっかけになった

ーNozomiさんがクリエイターを目指したきっかけもおうかがいしたいのですが、いつ頃からこういった仕事をしたいと思うようになったのでしょうか?

Nozomi:ゲーム業界にいきたいと思うようになったきっかけは、高校生のときにあるアーティストのコンセプトアートを見たことです。この本なんですが……。

『Photoshop 幻想風景チュートリアル : PaperBlueの透明感あふれる表現で描く都市、自然環境、乗り物』(ボーンデジタル / 2015年)

Nozomi:高校2年か3年のときに地元の書店で偶然手に取ったもので、いまでも大切にしています。ゲームや映画の環境コンセプトアートを手がけていらっしゃるパク・ジェチョルという方の作品を解説した書籍なんですけれども、この本を拝見して、私もこういう絵の中の世界を歩いた気持ちになれるような絵が描きたいと思うようになり、ゲーム業界を目指すことを決めました。

ー1冊の本が人生に大きな影響を与えたのですね、素敵です。かなり早い段階からゲーム業界を志していたのですね。

Nozomi:そうですね。なので大学も美術系の大学に進学して、美術科の日本画コースを専攻しました。

ー油絵専攻や西洋画などいろいろあると思うのですが、そのなかから日本画を選んだ理由はあるのでしょうか?

Nozomi:当時、美術を学べる高校に通っていまして、そこに美術予備校の先生が出張で来てくださったんですね。その際、日本画で培われる観察力や描写力が、じつはクリエイティブ業界に入ったあとに強く活きるという言葉をいただいて。その言葉を信じて日本画を専攻しました。

背景美術は描けば描くほど自分の糧になる

ー大学卒業後、Cygamesに入社されたのですよね。数あるゲーム会社からCygamesを選んだ理由を聞いてもいいですか?

Nozomi:ひとつは「最高のコンテンツを作る会社」というCygamesのビジョンに共感したことです。イラストでもなんでも、「こだわって徹底的につくる」という自分の目指すところとあっていると思いました。

また、学生時代にCygamesのインターンシップに参加したことも、決め手になりました。

ー毎年、夏から秋にかけて開催されていますよね。

Nozomi:そうですね。インターンシップに参加した際、スタッフの方々から直接、背景制作について教わるという体験をしたのですが、技術が言語化されていることにすごく感動したんです。私もこういう場所で自分自身を高めながら、美しい世界を世に送り出したい、と思うようになり採用試験を受けました。

ーなるほど。現在は、背景美術として『グラブル』の世界をつくっているわけですが、いまはどういったところに喜びや楽しさを感じていますか?

Nozomi:学生のときから、「絵の中の世界にいけるような絵を描きたい」という気持ちは変わらず持ち続けています。なので、描くことで空間ができあがっていくのは純粋に楽しいです。あと、これは先輩と話したことなのですが、背景美術はキャラクターなどと比べて時代による絵柄の変化が少ないんです。なので、描けば描くだけ自分の糧になっていく感覚がストレートにあるのも、背景美術ならではの喜びかと思います。

ー身につけた技術がすぐに作品に反映される感覚があるのはいいですね。最後に、どういった方が背景美術に向いていると思うか、おうかがいできますか。

Nozomi:お仕事として絵を描くことになるので、もちろん発注書にそった絵を描く技術があるということは大前提なのですが、絵を描くことが楽しいと感じられる方であれば、どなたでも向いているのかなと思います。あと、風景を見て感動できたり楽しめたりする方は、そのとき感じた温度感や湿度を絵に活かせると思うので、より背景美術の制作に向いているかもしれないです。

とっつきづらい分野に見えるかもしれないですが、絵を描くのが好きな人にとっては、自分の成長が感じられる魅力的な領域だと思いますね。

【展覧会情報】

『Cygames背景美術展 2024-2025』

東北芸術工科大学:2024年7月23日(火)~2024年7月28日(日)
金沢美術工芸大学:2024年10月2日(水)〜2024年10月6日(日)
九州産業大学:2024年11月14日(木)~2024年11月20日(水)
名古屋芸術大学:2025年1月8日(水)~2025年1月15日(水)
武蔵野美術大学:2025年5月2日(金)~2025年5月13日(火)
※開催場所や開場時間等の詳細は公式サイトをご確認ください。

【入場料】
無料

【公式サイト】

【採用情報】

新卒採用
中途採用

気になる

おすすめ求人企業

PR