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デザイナーが酪農の未来も考える?「CHEESE WONDER」「スノーサンド」の会社が目指す理想的なお菓子づくり

株式会社COC

株式会社COC

近年、環境問題への関心の高まりとともに、水質汚濁や温室効果ガス排出の増大など、生産過程で環境負荷をもたらす酪農への風当たりは厳しくなっている。そんな産業が抱える課題に取り組んでいるのが、酪農を担う株式会社ユートピアアグリカルチャー(以下、UA)とお菓子の企画開発を担う株式会社COC(以下、COC)だ。

この2社の代表を務めるのは、チーズタルト専門店やアップルパイ専門店で、お菓子業界に革命をもたらした長沼真太郎さん。「環境再生型農業(リジェネラティヴアグリカルチャー)」を掲げ、原材料である乳製品の生産から、お菓子の製造販売まで一気通貫で取り組むことで、人・動物・環境に負荷のないビジネスを確立しようとしているという。

お菓子製造会社としてまったく新しい取り組みを行う同社は、どのような未来図を描いているのだろうか? 今回は、代表の長沼さんと、お菓子のパッケージだけでなく、長沼さんとともに販売戦略やお菓子のコンセプトまでをてがけるデザイナーの貞清さん、千葉さんにご登場いただき、UA と COC の挑戦や、それを具現化するデザインについてまで話を聞いた。
  • 取材・文:宇治田エリ
  • 撮影:kazuo yoshida
  • 編集:𠮷田薫(CINRA)

おいしいお菓子はいい原材料から。「環境再生型」酪農をはじめた理由

―そもそも長沼さんがお菓子づくりだけでなく、酪農に取り組もうと思った理由は何でしょうか?

長沼:もともとぼくの父は、北海道の洋菓子製造販売会社「きのとや」を経営していて、おいしいお菓子づくりのために「いい原材料を使う」「手間をおしまない」「フレッシュな状態で提供する」という三原則を掲げていました。ぼく自身も、お菓子製造業に関わる人間としてその三原則を大切にしていて、いい原材料を突き詰めるのであれば、いつか酪農からやってみたいという思いがあったんです。

そこで、東京の会社の代表取締役を退任した翌年の2018年から1年間、アメリカのシリコンバレーに渡りスタンフォード大学の客員研究員として、最先端のアグリテックやフードテックに触れていきました。

すでに当時のアメリカでは、フェイクミートや植物性ミルクなどのスタートアップが増えていて、牧場をこれからやろうとする人はほとんどいませんでした。というのも、牛はエネルギー効率が非常に悪く、地球に負荷がかかるという考えが浸透しており、「酪農は前時代的なもの」という認識になっていたからです。

株式会社ユートピアアグリカルチャー、株式会社COC代表取締役の長沼真太郎さん

株式会社ユートピアアグリカルチャー、株式会社COC代表取締役の長沼真太郎さん

―最近では環境負荷を考えてビーガンになる人も増えていますよね。

長沼:はい。特にアメリカではその流れが日本よりも強いと思います。酪農への風当たりの強さを肌で感じつつも、ぼくがつくりたいお菓子というのは、仲のいい人に1年に一度渡すような、本当においしくてギフトとなる嗜好品です。そんな特別な日に食べるお菓子だからこそ、代替した素材ではなく、本物の素材を使うべきだという思いが強くなっていきました。

そう思ったときにフィットしたのが、「リジェネレイティブ・アグリカルチャー(環境再生型農業)」という考え方でした。おいしいお菓子を追求するため、本物の乳製品を生産し使用するけれど、自然や動物への負荷を避け、なおかつ環境を回復させる。

それこそが自分がやりたい方向性だと確信し、北海道の養鶏場と牧場を買い取り、2019年ごろからUAとして牛と環境にストレスがかかりにくい放牧式の酪農をスタートさせていきました。

UAが描く循環モデル。放牧で牛を育てることで、ふん尿が土の堆肥となり、さらには牛が歩くことで土壌育成の効果もあるという。肥沃した土壌は温室効果ガスを吸収・隔離し、環境負荷を軽減してくれる。UAではほかにも、北海道大学との共同研究による放牧酪農でのCO2マイナス実証など、未来の酪農のかたちを追求する活動を行なっている

UAが描く循環モデル。放牧で牛を育てることで、ふん尿が土の堆肥となり、さらには牛が歩くことで土壌育成の効果もあるという。肥沃した土壌は温室効果ガスを吸収・隔離し、環境負荷を軽減してくれる。UAではほかにも、北海道大学との共同研究による放牧酪農でのCO2マイナス実証など、未来の酪農のかたちを追求する活動を行なっている

貞清:UAは地球と動物と人の理想形を探るための実験場のような場です。環境負荷軽減の取り組み以外にも、たとえば酪農の運営については、シェアミルカー制度*を取り入れていて、やる気のある若者に牧場を運営してもらっています。

(*シェアミルカー制度:牧場の初期投資はオーナーが担い、実際の運営はミルカー〈牧場主〉が行う経営体制のこと。技術はあるが資金のない酪農家の就農につながっている)

―貞清さんはUAスタート初期から参画されていますが、長沼さんから事業の構想を聞いたとき、率直にどのような感想を持ちましたか?

貞清:長沼さんとはつき合いが長いので、彼が昔から第一次産業に目を向けていたことは知っていました。一方で世間的には、酪農の環境負荷が浮き彫りになり、逆風の強さも感じていて。

そんななか、「おいしいお菓子をつくりたい」という信念を曲げず、これからの時代にフィットする酪農へ取り組もうという志が、素直に面白いと思いました。

ぼく自身、この先自信を持って「いい」と言えるものにクリエイティブの力を活かしたい。そんな思いがあったので、長沼さんの新しい取り組みにジョインしました。

株式会社ユートピアアグリカルチャー、株式会社COCでお菓子の開発からパッケージデザイン、販売戦略まで担当するブランディングデザイナーの貞清誠治さん

株式会社ユートピアアグリカルチャー、株式会社COCでお菓子の開発からパッケージデザイン、販売戦略まで担当するブランディングデザイナーの貞清誠治さん

ー千葉さんはいかがでしょう?

千葉:私も長沼さんとは旧知の仲なので、またワクワクすることが始まりそうと思いましたね。ビジネスとして急速な成長を目指すよりも、酪農をやりながら尖ったお菓子をつくりたいという姿勢にも共感を覚えました。

株式会社COCのブランディングデイレクターの千葉真由美さん。貞清さんと同様にお菓子の開発から店舗デザインや販売戦略まで担当している

株式会社COCのブランディングデイレクターの千葉真由美さん。貞清さんと同様にお菓子の開発から店舗デザインや販売戦略まで担当している

5週間で50万個以上売れた「スノーサンド」が、冬限定のわけとは

―2021年1月にCOCから「スノーサンド」、2月にはUAから「CHEESE WONDER」が登場し、大きな反響を呼びました。それぞれの特徴を教えてください。

長沼:生チョコをサンドした「スノーサンド」は、冬期限定販売のブランド「SNOWS(スノー)」の第一弾商品として発売しました。なぜ冬限定なのかというと、原材料に使う自社牧場で生産した放牧牛乳は、夏と冬でまったく味が異なるからです。冬の放牧牛乳は濃厚で風味豊か。それが生チョコにピッタリ合う。

だからこの時期だけのブランドにしようと、実店舗を持たずに、11月から3月下旬ごろまでの限定商品として、オンラインショップとポップアップショップで販売しています。

「スノーサンド」のほかにも、ナッツとパイをチョコレートに混ぜたバターミルクチョコレート「森ノ木」やマカロン生地でコーティングしたバームクーヘン「森ノ幹」など、冬の牛乳に合うお菓子を続々と開発しています。

千葉:「スノーサンド」を発売した1年目は販売期間が5週間しかありませんでしたが、その希少性とおいしさ、デザイン性の高さがTwitterで話題を呼び、たくさんのお客様のおかげで50万個以上売れました。

ラングドシャで生チョコレートをサンドした生チョコレートサンドクッキー「スノーサンド」。生ホワイトチョコレートと生チョコレートのふたつの味がある

ラングドシャで生チョコレートをサンドした生チョコレートサンドクッキー「スノーサンド」。生ホワイトチョコレートと生チョコレートのふたつの味がある

長沼:一方で「CHEESE WONDER」は、UAで生産される平飼いの鶏の卵と放牧牛乳を使い、素材のおいしさを最大限に活かしたチーズケーキです。こちらもオンラインショップ限定で展開しています。

―牛乳の味に合わせて販売期間を限定しているとのことですが、ほかにも原材料の生産から手がけることでのメリットはありますか?

長沼:お菓子に合う農場生産方式を短期間でアップデートでき、味のコントロールがしやすくなる点です。たとえば牛乳は流通システム上、複数の牧場で採れた牛乳を混ぜて出荷するため、味をこだわり抜くことが難しい。

しかし自分たちで生産すれば、「スノーサンド」のようにおいしい牛乳だけを使うことができます。また卵の場合は、餌を変えることでお菓子に合わせた味の濃度に調整することも可能です。原材料の生産から自分たちでやることで、理解も深まりますし、柔軟性を持って変化できる。

ここまでやっているブランドはほかにないのではないでしょうか。おいしさをとことん追求することが、尖ったブランドをつくることにつながると思いますね。

デザインに合わせてお菓子の形状を変える。「見ておいしい」のつくり方

―「SNOWS」は、版画家の大谷一良さん(1933―2014)の作品がパッケージに落とし込まれ、ブランドの顔になっています。デザインするうえでどのような点にこだわりましたか?

貞清:ぼく自身、長年お菓子のパッケージデザインを手がけてきましたが、じつは既存の作品をパッケージに落とし込んだのは今回が初めてで。

長沼:「いままでのお菓子パッケージにないアプローチをしよう」という方針がありましたからね。

貞清:「SNOWS」を立ち上げる際、長沼さんが「北海道を代表するお菓子ブランドをつくる」という目標を掲げ、ブランドをゼロからつくるため「山とスキー」をキーワードにデザインを進めていったのですが、どうも深みが出なくて。

長沼:そんなときに千葉さんから「版画を使ってみてはどうか?」という提案があったんです。いろいろと調べてみたら、大谷さんの版画を貞清さんと見つけて。みんなで「まさにこれだ!」となりました。

千葉:大谷さんの版画によって、時間の重みやお菓子の温もりが伝わってくるようになりましたよね。

長沼:ぼくらがつくりたいのは、「北海道の次世代を担う、100年続くお菓子ブランド」。「北海道らしさ」や「冬らしさ」を可視化する大谷さんの絵は、「SNOWS」のイメージにすごくフィットすると思いました。そこで、大谷さんの作品をベースに、ブランドとして一貫した商品やデザインなどを考えていく方針にしました。

「スノーサンド(生チョコレート)」のボックスには、大谷一良の版画『早暁の谷』(2003年)が起用された

「スノーサンド(生チョコレート)」のボックスには、大谷一良の版画『早暁の谷』(2003年)が起用された

―UA、COCのクリエイティブの特徴は何ですか?

長沼:商品開発とデザイン開発を並行して進められるところですね。商品の方向性を決めるところからデザイナーも関わっていくので、「見ておいしい」を設計できる。

商品ありきでパッケージをつくるのではなく、「こうやって商品を見せたいから、お菓子の形状を変えたい」というデザインに沿って商品を変えていくこともできます。

たとえば、2シーズン目に発売した「森ノ木」は、商品そのものが大谷さんの『森の見る夢』(2009年)という作品に描かれた木を模しています。

貞清:この商品は、ポエトリー的なところから始めて、名前を決め、商品のかたちやパッケージに落とし込むことで、ブランドの世界観を強めました。このように、既存の版画とブランドをイーブンに寄り添わせるためにも、商品開発の初期段階からクリエイティブチームが関わる意義があると考えています。

大谷一良『森の見る夢』(2009年)

大谷一良『森の見る夢』(2009年)

バターミルクチョコレート「森ノ木」

バターミルクチョコレート「森ノ木」

千葉:版画に合うように商品ロゴをつくったり、版画の要素を抜き出してパターン化したり。印刷も細かいところまで貞清さんがこだわっていますよね。

貞清:ぼくらが一般的なデザインではやらなそうなことをするから、製造に携わっていただく各メーカーさんも面白がっていろいろと提案してくれるんです。どの工程にも関わる人とのセッションがあり、そこでも試行錯誤しています。

千葉:私は、店舗の運営やお客様目線も考えながらデザインに携わっているので、ブランドの本質や継続性を意識しながら、商品の見せ方や売り方を考えるようにしています。

―ちなみに環境負荷を減らすため、デザイン上で工夫していることはありますか?

貞清:パッケージにおいては、紙や缶など、なるべく再生可能な素材を使うようにしています。一方で食品の個包装に使われるプラスチックは、衛生面で欠かせないものとなっていて。今後はバイオ系のプラスチックにする方向も考えながら、少しずつ変えていければと思っています。

それだけでなく、食料廃棄の削減なども、重要な課題。商品開発においても、北海道の農家と一緒にフードロスを削減する取り組みを考えていくなど、幅広く探っていきたいですね。

商品開発から販売戦略まで。インハウスだから実感できるやりがいがある

―商品開発・製造の拠点は札幌にあり、クリエイティブチームは東京に拠点を置いているとのことですが、普段はどのようにコミュニケーションを取っていますか?

長沼:現在はCOCとUA合わせて全体で十数人メンバーがいて、そのうちの3、4人がクリエイティブを担当しています。クリエイティブチームとは、基本的に定例の打ち合わせをオンラインでやっていて、必要があれば札幌まで来てもらっています。

千葉:私の場合は、グループ会社の「きのとや」のクリエイティブも見ていることもあり、新しい商品を考えたりお菓子の撮影したりする際はかなりの頻度で札幌に行っています。

貞清:パッケージなども、北海道の企業を採用してつくることが多いので、印刷や撮影の立ち合いなどで現地に行くこともあります。

―すべてのブランドで商品開発の段階から携われるのでしょうか?

長沼:メンバーの能力と、状況、プロジェクトによって変わりますね。今後、経験が浅い方が入社される場合、最初のうちはある程度コンセプトが固まった段階で、販促用ビジュアルのデザインから入ることもあるでしょう。経験豊富な方には、ぜひゼロイチから任せたいですね。

これから、「SNOWS」「CHEESE WONDER」のほかにも、関連会社の「きのとや」のお菓子や、業務提携した老舗和菓子製造販売会社「千秋庵製菓」の新ブランドなども手がける予定です。

また、UAは農業生産法人ですから、ゆくゆくはバターや牛乳、ヨーグルトなどの乳製品を販売したいとも考えているので、さまざまなブランドのデザインを手がけられると思います。

貞清:ブランドがどんどん増えていくことは確実なので、ひとつのブランドをずっと大切に育みながらも、いろんなお菓子を生み出していきたいというマインドがある方に入社いただけたらいいですよね。

千葉:販促用のビジュアルもたくさんつくる必要があり、やることは無限です。作業量は多いですが、販売戦略を立てながらデザインを考え、お客さまの反応や売れ行きを実感することのできる面白さがあると思います。

―社員の方々には、どのようなマインドを求めていますか?

長沼:ひとつのことに偏らず、さまざまなことに興味を持つマインドです。お菓子が好き、クリエイティブを極めたい、環境問題を解決したいなど、ぼくたちのやっていることの何かしらに共感してもらったうえで、多様な得意分野を持つ人が集まったらと思います。

貞清:そこにインハウスならではのよさがありますよね。あらゆる人とあらゆることに挑戦していく。そこに楽しさや興味を持ってもらいたいです。

―最後に、入社を検討されている方へメッセージをお願いします。

貞清:デザインして終わりではなく、ものづくりの入り口からお客さんの手元に届くまで、責任を持てる人が向いていると思います。

また、オンラインショップでの販売を今後も強化していくので、パッケージ、グラフィックだけでなく、ウェブデザインとエンジニアの能力を兼ね備えた人にもぜひ来ていただきたいですね。

千葉:経験が浅い方でも、デジタルマーケティング等のデザインが得意な方もご応募いただけると嬉しいです。それぞれのブランドの温度感をつかみつつも、見たことがあるようで見たことないものを生み出せるセンスがあれば、向いていると思います。

ユーザーの気持ちを考えた、一歩踏み込んだビジュアルコミュニケーションに挑戦したい人とご一緒できれば嬉しいです。

長沼:ぼくたちの会社は、手がけられる範囲が幅広いだけでなく、ひとつひとつの内容が濃い。上下関係がなく、フラットな関係性なので、なんでも言えるし、なんでも挑戦できる。

スタートアップの風土が根づく、魅力的な環境だと思います。立ち上げて間もない最初期だからこそ、原点を一緒につくる面白さがあるはずです。

Profile

株式会社COC

私たちは「魂を揺さぶるブランドをつくる」をミッションとした菓子・乳業販売会社です。冬季限定のチョコレートブランド「SNOWS」、D2Cのチーズケーキブランド「CHEESE WONDER」などの新ブランド開発を進め急成長フェーズになっています。北海道の洋菓子きのとやをグループ会社として持ち、北海道のリソースを活かしながらブランド開発・運営を進めています。

■新規立ち上げブランド
・「SNOWS」 
https://snows-winter.com/
・「CHEESE WONDER」
https://www.utopiaagriculture.com/products/cheesewonder/
・「Utopia Agriculture」
https://www.utopiaagriculture.com/

WIREDでの取材記事:環境再生型農業による「チーズケーキ」が、日本の酪農風景を変えていく:BAKE創業者による新たなる挑戦
 
こちらグループ企業を中心としたグループ経営をしており、新規ブランドを産み出すことにもチャレンジしていく予定です。

■グループ企業
• 株式会社Kコンフェクト(洋菓子製造工場運営、札幌農学校などの土産菓子販売)
• 株式会社きのとや(札幌を中心に洋菓子店11店舗運営)
• 株式会社COC(SNOWS等の新ブランド商品企画・開発)
• 株式会社ユートピアアグリカルチャー(農業生産法人、牧場・養鶏場等運営)
• 株式会社Wall(不動産所有管理)

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