
CM音楽制作を手がけるBISHOP MUSICは、近年映画音楽やゲーム音楽、さらには大阪・関西万博のパビリオン映像など、活躍の領域を拡張している。今回はそんなBISHOP MUSICの躍進の理由を紐解くため、プロデューサーの石川快さんと森凡子さんにお話をうかがった。
石川さんはフリーの作曲家からレーベルスタッフ、ゲーム会社での経験を経て、現在は映画『若き見知らぬ者たち』の音楽監督やRPGゲーム『FINAL FANTASY VII REMAKE』『FINAL FANTASY VII REBIRTH』の一部音楽制作、『サガ』シリーズのライブプロデュースを手がけている。一方、森さんは映画音楽を学んだ経験を活かし、映像と音楽の効果を総合的に考えたプロデュースで万博の大型案件を成功に導いた。
なぜ広告制作からさらに多様な音楽制作へと活躍の場をひろげることができたのか、お二人の仕事哲学とBISHOP MUSICの現在地について聞いた。
- インタビュー:吉田薫
- テキスト:原里実
- 写真:西田香織
強みを活かして、CM音楽からさらに広い音楽制作へ
—BISHOP MUSICは、プロデューサー一人ひとりの個性が立っていると感じます。お二人は、ご自身のプロデューサーとしての強みや特徴について、どのようにとらえていますか?
石川:特に自分の強みを考えたことはないのですが、BISHOP MUSICに入社する以前から、いろいろなかたちで音楽に関わってきました。フリーのDJ / 作曲家としてさまざまなレーベルから自分の楽曲やMix CDをリリースすることに始まり、レコードショップの運営やイベントの企画・運営にたずさわったり、その頃から映画や広告、ゲーム向けにも音楽を制作したり。
そうしていろいろな方々と少しずつ関係を深め、広げてきたことが、いま身を結びはじめていると感じています。これまで取り組んできた経験の「点と点」がつながって、スケールアップした仕事や、新しい領域の仕事につながってきたという感覚です。

石川快さん。音楽プロデューサー/スーパーバイザー。吉祥寺出身、慶應義塾大学経済学部卒。大学在学中よりDJ / 作曲家として活動を開始。自身が担当したゲームのサウンドトラック・アルバムでオリコンデイリーチャート1位を経験。国内外のアーティストとのネットワークを活かした映像音楽のプロデュースを得意とする
石川:現在はBISHOP MUSICを拠点にしながら、映像制作に携わるクリエイターをマネージメントする事務所「solk」と、イギリス / ベトナムに拠点を構える音楽・ライブ制作プロダクション「MEGAMEN PRODUCTION」にも所属しています。
solkの仕事では、広告案件でクライアントとなる映像クリエイターに制作を依頼する機会があったり、MEGAMEN PRODUCTIONでは海外案件の際に協力体制を取ることができたりと、BISHOP MUSICの仕事と相互作用が生まれているように思いますね。
ーつながりがつながりを生んで、お仕事の幅が広がっているのですね。森さんは、ご自身の強みや特徴についてどう考えていますか?
森:私ももともとは作曲家でした。昔から映画音楽が好きで音楽の仕事がしたいと思い、ロサンゼルスで映画音楽を学びました。それもあって、楽曲単独での完成度の高さだけではなく、常に映像が果たしたい目的に合わせて、音をどのように扱うか考えたうえでプロデュースするように心がけていることが、しいて言うなら強みだと思っています。
ーやはり映像を念頭に置いているかどうかで、音楽のアウトプットが変わってくるものなのでしょうか?
石川:そうですね。音楽単体で成立するものを目指して楽曲を制作する場合と、映像に向けて楽曲を制作するというのはそのプロセスや最終的な楽曲の内容は全く異なる物になリます。特に映像に向けて楽曲を制作する場合、時には音楽のルールをあえて崩す必要もあります。

森凡子さん。音楽プロデューサー / 作曲家。幼少期よりクラシックや洋楽に親しみ、高校で作曲を開始。DAWを独学後、英米で映画音楽を学び映像作曲家として活動する。作品に寄り添い、感覚と技法で多彩な音楽をプロデュース
森:あと音響に携わっていた経験があるので、イマーシブサウンドのような没入型の音楽制作の際には、サウンドシステムまで考えるなど、音楽プロデュース以上のことができるのも特徴の一つです。
BISHOP MUSICとしてもVRの音楽制作やライブ制作、空間音響を手がける案件も増えてきたので、会社としても強みになりつつあると思います。
つながりから生まれた内山拓也監督との協業、ゲーム音楽制作
—なるほど。いまお話いただいたようなお二人の特徴が活かされたお仕事はありますか?
石川:映画監督の内山拓也監督の『若き見知らぬ者たち』(2024年)に音楽監督としてたずさわりました。
内山監督とは広告の現場でご一緒したのがはじまりで、短編『余りある』など、何度かお仕事を重ねてから長編映画の制作にお声がけいただきました。音楽監督兼作曲家として映画全編の音楽制作を担当したほか、最後のダビング作業で、内山監督、プロデューサーと現地スタッフとのミックス作業で、通訳的な役割も担いました。
ーパリで最終作業を行ったのはどのような理由からですか?
石川:本作は日仏韓中の合作ということもあり、当初から音の仕上げの作業をパリで行うことが決まっていたようです。ただ、厳密にどこからどこまでの作業をパリで行う、ということが決まったのが撮影がすべて終わり、編集の途中段階のときだったので、私のチームは制作の比較的終盤から参加することになりました。
連日、日仏英語でディレクションが飛び交い、フランスのスタッフともすごく打ち解けることができて、とても濃密な2週間でした。
石川:そのほかにも『FINAL FANTASY VII REMAKE』『FINAL FANTASY VII REBIRTH』では、作曲家・鈴木光人さんのチームメンバーとして、アーティスト / ミュージシャン、レコーディングスタッフ、スタジオのコーディネート、さらにレコーディングでのディレクションを担当しています。
また、RPGゲーム『サガ』シリーズの作曲家、伊藤賢治さんが率いるバンド「DESTINY 8」のプロデュース・ライブ制作も担当しています。会社としてもライブ制作は初めての取り組みですが、長年ゲーム音楽の制作でお世話になっていたご縁から実現しました。
—盛りだくさんですね。先ほどおっしゃっていたとおりで、「人と人とのつながり」から新しい仕事が生まれているんだと改めて感じました
石川:前職の頃はコミュニケーションが得意ではなかったんです。BISHOP MUSICはプロデューサーが営業もする方針のため、入社直後からさまざまなクライアントとお話する機会がありました。そうした経験のおかげで音楽だけではなく幅広いトピックに触れるようになったので、自分の中の引き出しが増えたと実感しています。
イベント現場に行って音の聞こえ方も調整する。スキルがあるから最後まで音楽にこだわれる
—森さんの最近の事例についても教えてください。
森:大型の案件でいえば、大阪・関西万博の「未来の都市」パビリオンコモン展示2で上映される映像の音楽を全て担当しました。映像ディレクターの池田一真さんが総括演出を務め、4つの映像作品を制作されたのですが、それぞれの作品の監督も違えば、映像内で音楽に求められる役割もまったく異なっていたんです。MVのように音楽が主役のものもあれば、個性豊かなキャラクターがたくさん登場するミュージカルのような映像もありました。
4作品すべて毛色の違う音楽を、それぞれ別チームで制作したのですが、最終的にはパビリオン内の同じ環境下にある4つのシアターで上映される映像のため、聴こえ方に差が出ないように最後の仕上げを入念に行いました。実際に何度か現地まで行って調整作業に取り組みましたね。
ー音の聞こえ方にまで責任を持たれるのですね。
森:やはり自分が作った作品なので、できるかぎりベストなかたちで聴こえるように整えたいという思いがありました。
石川:会場によってどうしても聴こえ方に差がでてしまいます。それをどの位置からでも均等に聴こえるよう調整するという作業は、森が音響に携わった経験と専門的な知識を持っているからこそ実現できたことなのだと思います。
新しい仕事は、地道な信頼の積み重ねと、120%で応える姿勢から生まれる
—CM音楽をベースにしながらも、さまざまな案件が増えてきている背景には、どういった理由があるのでしょうか?
石川:当たり前かもしれないですが、地道な一つひとつの仕事の積み重ねではないでしょうか。広告のお仕事が映画音楽制作につながったり、海外のチームとの協業によって日本以外での仕事が増えたり。
目の前の仕事を通じて、人と人との関係性を広げ、深めていった先に、また新たな仕事につながって……その積み重ねで、少しずつ「自分のかたち」が形成されてきたのではないかと思います。
森:そうですね。先ほどお話しした、大阪・関西万博の池田さんとは、もともと広告のお仕事でご一緒していましたし、万博案件でご一緒した清水貴栄監督からお声がけいただいて、『シナぷしゅ』の新キャラクターぱるてぃのテーマ曲“おどってぱるてぃタイム”の音楽制作に携わることにもなりました。
質の高い仕事を積み重ねていくことで、規模の大きな仕事やずっとやりたかった仕事に手が届くようになってきたのだと思います。
森:あとは、新しい取り組みに対しても、「できない」ではなくて、まずは「どうやったらできるか」を考えるという私たちのスタンスも大きいと思います。
石川:BISHOP MUSICではいただいた相談に対して、120%で応える方法を社員の知識を総動員して考えます。その姿勢を評価いただいたことが、多様なご相談をいただけるようになってきた理由の一つだと思いますね。
業界の変化とともに、音楽プロデューサーの仕事がもっと楽しくなる
—仕事が多様化している背景には、業界そのものの変化もあるのでしょうか?
森:それはあると思います。以前は広告というとテレビCMがメインで、広告代理店、プロダクションといった大きな組織の単位で商流がつくられていましたが、いまは小さな組織や個人で活動する関係者が増えてきていると感じます。それもあって、多岐にわたる制作物が自由度高く求められるようになってきたという印象がありますね。
石川:アーティストも同様で、純粋に一人のリスナーとして聴いて好きになった方に、直接DMを送って仕事につながることもあります。
広告以外の仕事に携わるようになると、組むミュージシャンやアーティストにも多様性が出るので、そうした新しい人脈や経験が広告の仕事にもいいフィードバックを与えているんじゃないかと思います。
—人脈を開拓しながら好きな人と仕事ができることは、プロデューサーとしての仕事の醍醐味のように思います。
石川:まさにそうですよね、仲間が増えていくというか。音楽は心の内から出てくるものなので、お互いの人間性を理解した状態でアウトプットされるものと、初対面の人とつくったものとでは違います。そういう意味では、新しい作曲家さんと一緒に仕事をするのもすごく好きですが、継続して仕事ができる関係も大切にしています。
おそらく、BISHOP MUSICのメンバーはみんなそうだと思うのですが、継続して仕事をしている制作チームの方とは「一緒に生きている」感覚があると思うんです。そうした関係性が築かれることで、ものづくりにおいても、一歩踏み込んだもの、まだ試していない新しい領域にチャレンジができます。だから私は、リモートで会議をするだけではなく一緒に時間を過ごすことも大切にしています。
「会社」というチームがあるから挑戦できる。BISHOP MUSICで働く面白さ
—多様な方とチームになってお仕事をしていく楽しさをお話しいただきましたが、会社に所属しているメリットやチーム感などを感じることはありますか?
森:まず、1人では仕事の幅がこんなに広がることはないです。現在、社内にプロデューサーが8人いるのですが、みんな世代もバラバラで、得意ジャンルも異なります。自分と違う世代のディープな音楽カルチャーは、いくら机上でリサーチを重ねてもたどりつけない部分があるので、そこをシェアし合えるのは本当に助かっています。
石川:広告は特に、案件ごとにターゲットの世代を明確に設定しますから、リアルな肌感覚が重要です。10代向けの広告で、アシスタントから教わったアーティストを提案し、採用されたケースももあります。
森:会社だからこそ追求できているクオリティがありますよね。もしフリーの立場だったら、ここまで大きな規模の仕事はできていないです。コネクションも、フリーの場合と比べて8倍ありますから。
石川:あとメンバーそれぞれが、プロデューサーとしてしっかりと経験を積んできているので、音楽作りの楽しさと同時に、苦労も知っています。なので助け合いの精神もすごくありますね。
森:私も少し前に長めの休みをとったのですが、どうしてもスケジュール上進行しなければならない案件があって。そのときも、長年一緒にやってきて信頼している仲間だからこそ、安心して案件を委ねることができました。
—一人ひとりが自立しつつも、チームとして仕事に向き合える環境なのですね。
森:そうですね。仲も良くて、いまは月に2回程度全員でオフィスに集まる機会があるのですが、みんなワンフロアにいるので、集まるとわいわい話します。
石川:誰かが音楽を流すと「それ誰の曲?」みたいなところから、「最近あの人が新譜出したよ」という話しになったり……音楽の話を中心にずっと話してます。
—では最後に、BISHOPで活躍できる人物像についてお聞かせください。
石川:まずは音楽がめちゃくちゃ好きであること。「音楽が何よりもいちばん好きで、どんなかたちでもいいから携わりたい」くらいの愛を持った人だと、相性がいいと思いますし、そういう人に来て欲しいと思います。
森:オープンマインドであることも大切ですね。特にプロデューサーアシスタントというポジションでは、音楽に直接関係しない、けれど問題解決のために必要な仕事がいろいろと発生します。そこで「音楽がやりたかったのに」と挫折してしまう人もいるのですが、細やかな対応ができることもプロデューサーにとっては大事な資質なので、そこを大事にできる人だと良いと思います。
Profile

BISHOP MUSICは2011年に設立された音楽プロダクションです。
主な事業としてテレビCM、WEBサイト用ムービーなどの広告用音楽の企画、制作をはじめ、企業サウンドロゴの開発、映画用サウンドトラックやSE制作、インスタレーションやプラネタリウム、舞台、VR作品用音源やイベント制作など、アート、エンターテイメントのための音楽クリエイティブ企画、制作を中心に活動しています。
弊社プロデュース作品を実際お聴きになりたい方は下記worksページをご覧ください。
http://www.bishop-music.com/works/