CM音楽は「音の引き出し」が重要。BISHOP MUSICの多彩なルーツに迫る

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数十秒という短い時間でメッセージを伝えるCMにおいて、音楽が担う役割は大きい。伝えたい情報を、いかに的確に「音」に乗せるか。そこで鍵を握るのが、クリエイターの持つ「音の引き出し」だ。

広告音楽を制作するBISHOP MUSICの武器は、その「音の引き出し」の多さにある。起用できるヴォーカリストは国内外で3,000人。海外アーティストにも強いコネクションをもつことに加えて、プロデューサーは全員、元DJや作曲家といった豊富な音楽的バックボーンの持ち主。みずから作曲することもあるという。

多彩な「音」に触れてきた彼らが目指す「いい広告音楽」とは何か。代表の藤原太郎さんと3人のプロデューサー陣に、広告音楽の理想を聞いた。
  • 取材・文:笹林司
  • 撮影:玉村敬太
  • 編集:立花桂子(CINRA)

プロデューサーは『ドラクエ』の賢者。さまざまな経験を積んでこそなれる

—藤原さんを含め、4名のプロデューサーは全員作曲のスキルをお持ちだそうですね。広告音楽プロデューサーでありながら作曲ができるのは珍しいことではないでしょうか。

藤原:そうかもしれません、ただBISHOP MUSICでは、採用の際に「作曲ができる」「楽器が弾ける」「DJ経験がある」などの音楽経験を重視しています。

プロデューサー / プレジデント / DJの藤原太郎さん

プロデューサー / プレジデント / DJの藤原太郎さん

藤原:私は、プロデューサーという職種を「ドラゴンクエスト」の「賢者」みたいなものだと感じているんですよ。最初から賢者になることはできず、武道家や僧侶、遊び人などを経験する必要がある。プロデューサーも同様に、DJやバンド、アレンジャー、作曲家などを経験して、自分なりの武器を見つけて初めてなれるのではないのでしょうか。

タカラダ:ぼくはオールジャンルのDJ出身ですが、引き出しの多さは強みになりますね。たとえば、悲しいシーンに悲しい音楽を流すのではなく、あえて異なるジャンルの音で引き立てることもできる。そういった提案をする際に、DJならではの嗅覚が役立ちます。

プロデューサー / コンポーザー / DJのタカラダミチノブさん

プロデューサー / コンポーザー / DJのタカラダミチノブさん

—作曲できるプロデューサーには、どんな強みがあるのですか?

藤原:演奏者や作曲家に具体的な指示が出せることです。たとえば「もっと明るい雰囲気で」よりも「コードをCに替えたいです」と伝えたほうが、わかりやすいですよね。

DJに作曲家。BISHOP MUSICプロデューサーの多彩なルーツ

—タカラダさんはDJ出身とのことですが、ほかのみなさんはどのような経歴をお持ちなのですか?

森:私は子どものころからピアノを習っていて、学生時代はバンドも組んでいました。その後はイギリスで現代音楽、アメリカで映画音楽の作曲を学び、帰国後は作曲家として活動していたんです。ただ、作曲家は家にこもりがちで、外の世界との接点が少なくて。違う働き方をしてみたいと思い、音楽プロデューサーに転身しました。

プロデューサー / コンポーザーの森凡子さん

プロデューサー / コンポーザーの森凡子さん

—学ばれていた映画音楽や現代音楽ではなく、広告音楽のプロデューサーを選んだ理由はどこにあったのですか?

森:ひとつは、日本で最も音楽に予算を使えるのが広告業界だったから。映画はある程度の規模でないと音楽に十分な予算をかけられません。ですが、広告音楽なら、自分のつくりたい「質のいい音楽」をつくれると思いました。もうひとつは、プロデューサーとして数をこなしたかったからです。長編映画だと年に2、3本が限度ですが、CM音楽は携われる数も多いですし、さまざまなジャンルの音にも触れることができます。

藤原:森には作曲家として参加してもらったこともあるんですよ。タカラダがプロデューサーを務めたある作品では、一流の演奏者をアテンドすることに予算を割きたかったので、社内の森に作曲をお願いしたのです。こうした座組みができるのも、全員作曲ができるメリットですね。


ドモホルンリンクルCM「今こそ本気で」篇

DJのキャリアを活かして働く。先輩の存在が入社の決め手に

—石川さんもタカラダさんと同じく、DJ出身だとうかがいました。

石川:ハウスミュージックのクラブDJ、作曲家として活動していたのがルーツです。そのうちに、ゲームや映画、CMの作曲も依頼してもらえるようになりました。

プロデューサー / DJ / トラックメーカーの石川快さん

プロデューサー / DJ / トラックメーカーの石川快さん

—なぜプロデューサーに転身されたのですか?

石川:お仕事をいただくなかで、自分が得意としないジャンルの音楽も求められるようになったんです。そこで、そのジャンルが得意な方と相談しながらつくっていくうちに、自然とプロデューサー的な役割を意識するようになりました。何より、チームでつくった音楽を、クライアントに喜んでもらえることが嬉しくて。そのおもしろさを追求したいと思っていたときに、藤原と知り合いました。

入社の決め手としては、タカラダの存在も大きかったですね。もともとDJとして有名人だったので、ぼくも知っていました。音楽に真摯に向き合ってきたDJが、そのキャリアを活かして音楽制作に取り組んでいる。そこに魅力に感じました。

—これまでの経験が、広告音楽プロデューサーの仕事にどう活かされていますか?

石川:ぼくは自分を「BISHOP MUSICの飛び道具」的な存在だと思っているんです。DJとしてアンダーグラウンドな音楽を紡いでひとつの物語にまとめあげる経験をしてきたので、抽象的な映像でも、音を寄り添わせて気持ちよく仕上げることが得意だと思います。

ともに入社して2年に満たないながら、すでに複数の作品で実績をあげている森さんと石川さん。藤原さんも「大型新人」と太鼓判を押す

ともに入社して2年に満たないながら、すでに複数の作品で実績をあげている森さんと石川さん。藤原さんも「大型新人」と太鼓判を押す

—タカラダさんと石川さんはDJ、森さんは作曲家から転身されたとのことですが、代表の藤原さんご自身はどのような経歴をお持ちなのでしょうか?

藤原:私は20代をずっと海外で過ごしました。ワシントン州の大学で音楽理論とアートを専攻したあとニューヨークに移住して、作曲やレコードのリリース、バンドのプロデュース、DJ、リミックスといったアーティスト活動をしていたんです。プロデューサーが全員作曲できることがBISHOP MUSICの大きな特徴ですが、海外の作曲家や演奏者とのつながりが強いことも武器のひとつ。これは、私の経歴とも関係しています。

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音楽にも「餅は餅屋」が当てはまる。海外アーティストを起用する理由とは?

音楽にも「餅は餅屋」が当てはまる。海外アーティストを起用する理由とは?

—海外の作曲家や演奏者を積極的に起用しているのはなぜなのでしょうか?

藤原:「餅は餅屋」ということですね。たとえば「イタリア映画のような雰囲気のCMをつくりたい」とオーダーをいただいたなら、当然、日本人よりイタリア人に曲をつくってもらうほうがいい。カルフォルニアのサーフサウンドが求められているなら、現地の作曲家のほうが雰囲気を出してくれます。国内外で気になるアーティストがいたらすぐに連絡を取り、ここぞというときに依頼できる関係を築いています。

森:海外アーティストは、つくる曲だけでなく、演奏も違いますよね。特にバイオリンなどの弦楽器がわかりやすいのですが、日本人は繊細な演奏を得意とする方が多い一方、アメリカで生まれ育った人の演奏はダイナミック。奏者の個性が顕著に表れます。

藤原:あくまで一般論ですが、日本人は器用な方が多く、一定以上のクオリティーが期待できます。その点、海外のアーティストは大失敗することもありますが(笑)、150点を出すこともあるんですよね。クセをうまくコントロールしながら、ひとつの作品に仕上げる。これは、プロデューサーとしてのやりがいでもあります。

タカラダ:海外アーティストを日本の作品に起用するだけではなく、日本のアーティストを海外に発信することも意識しています。以前、日本航空の海外向け動画で音楽を担当したのですが、このときは日本らしさを表現したかったので、国内外で評価されている日本人アーティストを起用しました。「海外アーティストを積極的に起用する」というよりは、「いい音楽をつくるためなら国境は問わない」という感覚です。


“The Art of J” Vol 1. Precision Long ver.

—海外アーティストを起用した作品の例を教えてください。

藤原:たとえば、食品メーカーであるキユーピーさんのサウンドロゴ。ブランドの持つオーガニック感を表現するうえで、おもちゃの楽器などを使う「トイミュージック」を合わせるとおもしろいのではないかという話になり、その筋の大家であるクリンペライ氏にオファーしました。欧州アーティストの奏でる、どこか文学的なニュアンスを取り入れたかったのです。


キユーピー 100周年CP「オーケストラ」篇

フリーでも働けるクリエイターが、あえてBISHOP MUSICに集う意義

—それぞれフリーランスの経験もあり、じゅうぶんなスキルを持っているみなさんが、会社に集まる理由はどこにあるのでしょうか。

タカラダ:それぞれが、自分の持っていないスキルを持っていることが大きいですね。だからこそ尊敬できるし、一緒に仕事ができる。

石川:音楽を仕事に選ぶ人は、本当に音楽が好きで好きでしょうがない人だと思います。そんな「音楽バカ」にとって、BISHOP MUSICは日々刺激が得られるかけがえのない環境です。その刺激が新しいアイデアにつながっていくことこそ、この会社に集まる強みではないでしょうか。あとは、納期がかなり迫っているときに、みんなで助け合って乗り越えられるのもありがたいですね(笑)。

—藤原さんは、会社というかたちを採り、チームで制作にあたる意義をどう感じていますか?

藤原:たとえば映画のような雰囲気が必要なら森、DJ的な発想が必要ならタカラダや石川と、カバーできるジャンルが広がるのは大きいですね。厳しいことをいうようですが、新しい仲間を加えるときにも、タカラダや石川、森と同じようなセンスの人間は必要ないと考えています。

それから、情報交換ができるのも会社に集まる意義のひとつ。みんなそれぞれのアンテナを立てて新しい曲やアーティストを紹介してくれるので、自然と音の引き出しが増えていきます。

社内の至るところに散りばめられた、古今東西の楽器、CD、レコード。それぞれが持ち寄ってライブラリーに加えているそう

社内の至るところに散りばめられた、古今東西の楽器、CD、レコード。それぞれが持ち寄ってライブラリーに加えているそう

「センス」「スキル」「アイデア」「ユーモア」。いい広告音楽に欠かせない4つの要素

—BISHOP MUSICにとって「いい広告音楽」とは、どのようなものなのでしょうか?

藤原:「目的を遂行できる音楽」だと思います。音自体の質が良いことも重要ですが広告映像は、それ以上にCMとしての目的を遂行することが大事。たとえば、企業ブランディングのためのCMと商品訴求CMでは、アプローチが異なります。音楽プロデューサーはその意図を汲み取ったうえで、どういう音に落とし込むかを考える必要がある。そういった意味では、100のCMがあれば、100の「いいCM音楽」があるべきでしょう。

タカラダ:ただ、「いい広告音楽」をつくり出すには、4つの欠かせない要素があると思っています。それは、「センス」「スキル」「アイデア」「ユーモア」。センスとスキルはものづくりの基本ですが、そこにアイデアとユーモアが加わってようやくクリエイティブになるのではないでしょうか。

タカラダさんの理想は、手品師として活躍するゼンジー北京さん。「バレバレの手品をやって会場を沸かせたあとに、本当にスゴいマジックでキメる。バックボーンがしっかりしているからボケを混ぜられるんです」

タカラダさんの理想は、手品師として活躍するゼンジー北京さん。「バレバレの手品をやって会場を沸かせたあとに、本当にスゴいマジックでキメる。バックボーンがしっかりしているからボケを混ぜられるんです」

藤原:私も曲を提案するときは、あえて外したものをひとつふたつ出します。野球なのに、あえてラグビーボールを投げてみるとか(笑)。クリエイティブにおいて最悪なのは、つまらないと思われること。「この人にお願いするとおもしろい」と思ってもらえると、クライアントを含めた制作チーム自体が盛り上がります。

—最後に、広告音楽のこれからと、BISHOP MUSICが目指す理想を教えてください。

藤原:映像メディア自体はすごく増えていますし、今後も増えていくと思います。そんな状況で、CM音楽だけにこだわるつもりはありません。スマホやデジタルサイネージなどで流れる映像の音楽もあるし、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、プラネタリウムといったコンテンツでもすでに音づくりをしています。まさに、新しいフォーマットに対して試行錯誤を重ねている最中ですね。最近では博物館のBGMも手がけました。

タカラダ:ラジオやポッドキャストなど、映像がない音声だけのメディアも再注目されているので、音の可能性はさらに広がるでしょう。音が必要とされているところであれば、どこにでもチャンスはあると思っています。

藤原:インターフェイス音も私たちがつくれる音のひとつです。じつは、セブン-イレブンでnanacoを使ったときの「シュリン♪」という決済音は、私が手がけたものなんです。インターフェイス音は、人ごみのなかでも聞き取りやすく、何回聞いても飽きないことが重要。そして何より、美しくなければいけない。

私がかつて暮らしていたニューヨークは、街中の音が本当に美しい。しかし日本はグチャグチャで、帰国したときは愕然としました。CM音楽の制作はもちろんですが、さまざまな音の制作にもチャレンジしているところ。まさにいま、進化する時期に来ています。

社名の由来は、斜めにどこまでも動くチェスの駒「ビショップ」。藤原さんは、社名にこめた想いを「広告制作はチームワーク。そのなかで音を担う私たちは、ビショップのようにトリッキーな動きをしたい」と語ってくれた

社名の由来は、斜めにどこまでも動くチェスの駒「ビショップ」。藤原さんは、社名にこめた想いを「広告制作はチームワーク。そのなかで音を担う私たちは、ビショップのようにトリッキーな動きをしたい」と語ってくれた

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ビショップミュージックは2011年に設立された音楽プロダクションです。主な事業としてテレビCM、WEBサイト用ムービーなどの広告用音楽の企画、制作をはじめ、サウンドロゴの開発、プラネタリウム、舞台、VR作品用音源など、アート、エンターテイメントのための音楽企画、制作を中心に活動しています。

弊社プロデュース作品を実際お聴きになりたい方は下記worksページをご覧ください。
http://www.bishop-music.com/works/

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