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日本のドラマが世界で戦うには?BABEL LABEL藤井道人×畑中翔太

株式会社BABEL LABEL

株式会社BABEL LABEL

映画『新聞記者』や『ヤクザと家族』など、話題作を数多く手がける監督・藤井道人さん。彼の所属する映像制作会社が、株式会社BABEL LABELだ。特に2021年は、広告や映画だけではなく、現在放送中の『アバランチ』や、ポッドキャスト番組とコラボした『お耳に合いましたら。』、ABEMAオリジナルの『箱庭のレミング』など、ドラマ制作にも力を入れている。 2021年10月には、これまで外部からBABEL LABELに関わっていた企画・プロデューサーの畑中翔太さんが、クリエイティブエージェンシーの博報堂ケトルからの独立(dea inc.を設立)を機にメンバーに加わった。 「映像業界をもっと夢がある業界に変えていきたい」と語る藤井さん。ドラマ制作をはじめとする映像業界の課題や、そこでイノベーションを起こすためのアイデアについて、畑中さんと語りあった。
  • 取材・文:宇治田エリ
  • 写真:玉村敬太
  • 編集:原里実、佐伯享介(CINRA編集部)

企画や脚本にしっかりと時間をつくるクリエイティブチームへ(藤井)

―映画『新聞記者』(2019)は『第43回日本アカデミー賞』で3部門を受賞し、Netflixオリジナルシリーズとしてドラマ配信が決定するなど、確かな評価を受けています。特に2021年はドラマ制作に精力的に取り組んでいましたが、その理由を教えてください。

『新聞記者』特報映像

藤井:近年、特にNetflixにおいては、数多くの韓国ドラマが世界的に注目されています。一方で日本のドラマは、まだまだ世界で爆風を生み出せる状況にはありません。

しかし、現在制作中のドラマ版『新聞記者』で実際にNetflixのドラマ制作に携わるなかで、しっかりと制作体制を整えれば、日本のドラマにも可能性があると実感したんです。

藤井道人

―日本発のドラマには、どのような課題があると思いますか?

藤井:韓国ドラマと比較した場合、一番の違いは、予算や時間のかけ方です。韓国のドラマは、海外に売り出そうという視点が前提にあって、国家規模で予算をかけている。一方日本のドラマは、海外よりも国内の観客に向けてしっかりとつくるという意識が強いと思います。

また、通常ぼくらがドラマをつくるときは、「この作品でお願いします」とオファーが来て、そこから制作が始まります。そういう流れだと自由度が低く、体制やスケジュールなどさまざまな都合次第になってしまうんですよね。こういった労働環境や制作システムの問題も、今後の日本のドラマ制作における課題のひとつだと思います。

畑中:広告の視点から見ると、韓国ではマーケティング的な考え方でドラマなどのコンテンツをつくっていますね。『愛の不時着』の制作会社として有名なスタジオ・ドラゴンも、一見ベタに見える演出を使いながら、感情のツボをすべて押さえるように引き込まれる作品に仕上げている。すべてが完璧に設計されているんです。

ピクサーやディズニーが完成前から何回も試写をして、「ここは泣けなかったから、つくり直そう」と調整を繰り返すように、韓国ドラマも脚本段階から高いレベルで完成度を高めているのだと思います。このようなつくり方をできる土壌が、すでにできあがっています。

畑中翔太

藤井:根本的には、企画と脚本にどれだけ時間をかけているかが大きく違うポイントだとぼくは思います。そこさえしっかりと固まっていれば、現場に入ってからブレることはないですし、細部までつくりこめる。そうやって海外展開を見据えて戦略的に戦おうとしている組織や人は、日本ではまだごく一部だと思います。

―日本のドラマづくりを変えていくために、BABEL LABEL内でどのような変化が必要だと考えていますか?

藤井:オーダーを受けたものをつくる、プロダクション機能を高めてばかりいてはダメだと思いました。一番必要なのが、「どんなコンテンツをドラマとして届けるか」という企画から、自社で考えられるようにすること。そこでキーパーソンとなった人物が、畑中さんでした。

「広告の考え方を取り入れると、普通のドラマのつくり方ではなくなる」(畑中)

―畑中さんとBABEL LABELは、以前から接点があったそうですね。

畑中:ぼくは博報堂ケトルに9年ほどいて、2018年に広告コミュニケーションの一環でY!mobileの配信ドラマ『恋のはじまりは放課後のチャイムから』を手がけたのですが、そこではじめてBABEL LABELと一緒に仕事をしたんです。広告とは違うドラマづくりの面白さを感じました。

『恋のはじまりは放課後のチャイムから』予告編

藤井:そのときの畑中さんの手腕には、ぼくらも驚かされました。いまは当たり前になっていますが、インフルエンサーをキャストに採用したのは当時画期的でした。実際に蓋を開けてみたら、見てくれる人の数が圧倒的で。時代性を取り入れることで、ここまで受け入れられ方が変わるんだと衝撃を受けました。

畑中:あの作品はソーシャルドラマの走りとなりましたね。当時はとにかく、「どれだけバズるか」という観点を重視していました。広告の考え方を取り入れると、普通のドラマのつくり方ではなくなります。そうした「設計」をぼくが行なって、それに基づきBABEL LABELがコンテンツをしっかりつくりこんでくれたことが、うまく作用したと思います。

―その後、どのような経緯で畑中さんが加入することになったのでしょうか?

藤井:BABEL LABELはもともと、学生時代の仲間が集まってつくった会社です。これまでは、現場のスタッフをまとめて、品質管理までこなせる実力はあったけれど、面白い企画を打ち出す土台がなく、レベル50で頭打ちとなってしまっていた。今後レベル99まで目指すために何が必要で、どうしていくべきか——コロナ禍でさまざまな問題が浮かび上がっていたときに、畑中さんに相談していたことが大きかったと思います。

畑中:外部から見ていても、当時からBABEL LABELはすごく勢いがあって、藤井さん以外のディレクターもヒットするドラマや映画をどんどんつくって、急成長していました。そういうディレクター集団としての強みがあるのに、企画や設計力、ビジネス開発力が足りない。適した人材さえ見つかれば、BABEL LABELはただの映像プロダクションではなくなっていくだろうという話をしていましたね。

といっても2020年の当時は、自分がBABEL LABELに加わるとは思っていなかったのですが(笑)。実際に自分が会社から独立すると決めたとき、BABEL LABELに入ったら業界がますます面白くなるだろうなと直感して。

違うところから引っ張ってきたもの同士を融合し、新しいコンテンツを生み出すことがぼくの職能だからこそ、「このコンテンツ制作費でいいものをつくりましょう」という考え方から業界全体が脱却するために、力になれるはずだと思ったんです。そこで決心して、15年ぶりに履歴書を書いて送りました(笑)。

藤井:「畑中さんから履歴書が来てるよ、入ってくれるかもしれない」と聞いたときはワクワクしましたね。

「ドラマの企画コンペで勝てるのは、他の人の何倍も企画と向き合っているから」(畑中)

―世界基準のドラマを生み出していくために、今後どんな体制を目指していますか?

藤井:まず、プロダクション機能に重きを置きすぎないことを重視しています。労働力が消費され、疲弊しない状況をつくるためです。

プロダクションとして動くときには、オファーされた金額のうち、たとえば9割ほどを制作費に使ったら、1割が売上として残るという考え方。しかし、こういう働き方以外にも、さらに良い方法はないかと常に模索していました。大切なのは、自分たちが企画し、その企画のIP(知的財産権)を持てるようにしていくこと。そうすれば、IPから二次的な利益を生み出せる可能性が生まれます。これが健全な仕組みづくりの第一歩だと思っています。

畑中:IPを持つうえでポイントになるのは、原作のアイデアです。いまは依頼に応えて作品をつくることで精一杯かもしれませんが、BABEL LABELのなかで原作のアイデアを生み出す時間がつくれるように、ぼくからも働きかけていきたいと思っています。そうしてアイデアをストックしていくことが、今後強みになっていくはずです。

ドラマの企画はコンペで決まることが多いのですが、そこでいま勝てているのは、他のプロデューサーやプロダクションの人の何倍も企画と向き合っているからだと思うんです。そうした企画力を組織として強化していくことで、プロダクションからコンテンツスタジオに進化していけると確信しています。

藤井:制作においてしっかりと主導権を握り、クリエイティブにちゃんと向き合えるような環境をつくっていくことが大事ですよね。

―今後どのようなスピード感で進めていくのかも気になります。

畑中:BABEL LABELとしては、どうしても「藤井さんのコンテンツスタジオ」というイメージを抱かれてしまうことが、2020年から課題に上がっていました。そこで今年、藤井さんがいろんな現場にBABEL LABEL所属の監督を引き連れていったことで、BABEL LABELが「藤井さん『も』いる場所」といった認識に、徐々に変わりつつあると感じています。

藤井:いまは自分自身が最前線を走りながら、全員がバッターボックスに立てるように試行錯誤しています。そこで「BABEL LABELって面白いね」「勢いがあるね」というイメージをつくっていく。どのクリエイターも活躍できるような土台さえつくれば、BABEL LABEL全体で進化していくことができると考えています。

また、今年はさまざまなコンテンツを畑中さんと一緒につくってきたことで、一方では人間の凶悪さを描く社会派の作品、そしてまた一方では、多くの人に求められる生活に根ざしたコンテンツという、まったく異なる2軸が強化できたと思います。BABEL LABELが全体で面白くなっていく流れが、スピード感を持ってできつつあると感じていますね。

『お耳に合いましたら。』予告編

「映像業界をもっと夢がある業界に変えていきたい」(藤井)

―前回のCINRAでの取材以降、この2年間で社内にどういった変化がありましたか?

藤井:BABEL LABELは仲間同士で始めたためもあり、人間関係が圧倒的に良くて。それは10年前から変わらないことですが、一方で切磋琢磨する環境をつくることはなかなか難しかったんです。しかしこの2年で20代の若い子たちが増え、これまでいたメンバーがみんな30代を超えたことで、「自分たちは若手じゃない」という自覚と責任感が芽生えたと思います。

畑中:2020年に相談を受けたときも、「仲が良くて心地良い環境も大切だけれど、成長のためには新しい人を入れてヒリヒリするような雰囲気をつくることも大切。それがメンバーを奮い立たせることにつながる」というアドバイスをしましたよね。

藤井:はい。それでたくさん採用しようとなって。当時200人くらいから応募が来て、こんなにたくさんの人が面白がってくれているんだと驚きました。そのなかから、もといたメンバーたちも嫉妬してしまうような、それぞれの才能やノウハウを持っている人たちが入ってきてくれて。新しいメンバー同士も、活発に交流しているみたいです。

―高い志を持った人がワクワクできそうな環境ですね。最後にBABEL LABELへの加入を考えている方に向けて、メッセージをお願いします。

畑中:映像好きが集まって、30代を越えても情熱を持ち続けている集団こそ、BABEL LABELです。そういうディレクターたちがいま、結果を出し、後進を育てはじめている。ここからさらに企画力やビジネス設計力を伸ばして、世界で戦えるコンテンツスタジオになっていくはずです。

藤井:ぼく自身のディレクターとしてのキャリアも続けつつ、BABEL LABELとしては、映像業界をもっと夢がある業界に変えていきたいです。キツい、安い、汚いという「やりがい搾取」な体質から脱却して、業界全体を底上げしていくことが最終的な目標。そのためにも、まずはBABEL LABELからいままでの当たりまえを覆していきたいです。

畑中さんからもらった、「正のサーキュレーションをつくろう」という言葉がぼくは気に入っていて。良い仲間と、良いお金で、良いものをつくる。そうすることで良い評価を得られる。そんな「正の循環」をつくっていきたいんです。

こうしたBABEL LABELのビジョンに共感する人に、ぜひ集まってきてほしいです。来年以降、さらに皆さんを絶句させるような発表もしていく予定なので、楽しみにしていてください。

Profile

株式会社BABEL LABEL

弊社BABEL LABELは、2010年に藤井道人を中心に発足した映像制作会社です。

プロデューサー・ラインプロデューサー・アシスタントプロデューサーを募集します。

経験者優遇。良いスタッフが良い作品を作るための環境を我々も目指していきます。強い意志がある方のご応募お待ちしております。

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