長井短×脇田あすかが語る、仕事で信頼される理想的な「人たらし」とは?

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女優・モデルとして幅広い分野で活躍する長井短さんが、2020年10月に自身初のエッセイ集『内緒にしといて』を発売した。恋愛や日常生活に潜む違和感を綴ったエッセイの面白さもさることながら、インパクトがある装丁や見出しのフォントなど随所にこだわりが詰まっており、視覚的にも楽しめる内容になっている。

そのデザインをまるっと担当したのが、グラフィックデザイナーの脇田あすかさんだ。PARCOの広告や雑誌『装苑』のデザインなどを手がけているが、どういった経緯で長井さんの書籍を担当することになったのだろうか。

今回おふたりを、一緒に仕事がしたいと思われるクリエイターになるための秘訣に迫る連載「誰とするか」の第4回にお招きした。書籍のデザインのこだわりや、「また一緒に仕事したい」と思う人の特徴などを訊くなかで語られた、仕事と私生活の共通点とは……?
  • 取材・文:吉田真也(CINRA)
  • 撮影:大畑陽子

Profile

長井短

1993年9月27日生まれ、東京都出身。演劇活動と平行してモデルとしても活動する「演劇モデル」。近年の出演作品として、ドラマ『時をかけるバンド』『真夏の少年〜19452020』『妖怪シェアハウス』『家売る女の逆襲』、舞台 KERA×CROSS第二弾『グッドバイ』、今泉力哉と玉田企画『街の下で』、映画『僕の好きな女の子』『あの日々の話』『耳を腐らせるほどの愛』などがある。執筆業としては、2020年10月に初のエッセイ集『内緒にしといて』を刊行。また、「AM」「yomyom」「幻冬舎plus」にてコラムを執筆中。

脇田あすか

アートディレクター、デザイナー。1993年生まれ、愛知県出身。東京藝術大学デザイン科大学院を卒業後、コズフィッシュに所属。展覧会や書籍のデザインに携わりながら、豊かな生活を送ることにつとめる。過去の仕事にPARCOの広告、雑誌『装苑』のデザイン、ドラえもん50周年ポスターなど。また個人でもアートブックやスカーフなどの作品を制作・発表をしている。2019年に作品集『HAPPENING』出版。

対面で他愛もない話をしたことが、仕事にも良い影響をもたらした

—長井さんの著書『内緒にしといて』のデザインを脇田さんが担当することになった経緯から教えてください。

長井:装丁のデザイナーを決める際、晶文社の編集者の方から「脇田さんっていう方のデザインが合うと思います」と教えていただいたのがきっかけです。それで、いろいろと過去の作品を見せていただいたんですけど、どれも素敵で。

脇田:わー、嬉しいなぁ。

長井:しかも、そのなかに、高校の同級生ですごく仲良しの伊藤紺ちゃんの短歌集があったんです。「紺ちゃんの本をデザインしているなら間違いない! きっと話が合う人だ!」と思って、デザインをお願いすることにしました。それが今年の4月とかですね。

左から、長井短さん、脇田あすかさん

—では、それまで面識はなかったんですね。

脇田:はい。でも、私はもちろん長井ちゃんのことを前から知っていました。いろんなメディアに出ている長井ちゃんを見るたびに「自分の意見を持っていて素敵な人だな」と感じて、ずっと気になる存在だったんです。

だから、今回の書籍のデザインを依頼いただいたときは、とっても嬉しかったですし、「ぜひやりたいです!」って即答しました。

—知り合ったのが最近にしては、とても仲の良い雰囲気が伝わります。製作中に仲良くなるきっかけがあったのでしょうか?

長井:今年の4月から製作の打ち合わせが始まったのですが、コロナ禍でずっとオンライン会議だったため、最初はお互いのこともよくわからずで。でも、6月の表紙撮影で初めてお会いし、そのあと一緒にごはんに行ったことで一気に距離が縮まりました。

脇田:ごはんに行ったとき、仕事の話はほぼしなかったよね。当時、長井ちゃんが住んでいるお家が傾いていたらしく、「忍者ハウスじゃん」っていう話をした気がします。

長井:そうそう。内見に行ったのは夏だったんですが、暑くて朦朧としていて。でも、いま考えると暑さじゃなくて、傾きによるめまいだった(笑)。

—オンライン上ではできない他愛もない話をしたことで、仲良くなったのですね。

長井:はい。やっぱり仕事以外の話をしたほうが、人と仲良くなれますし、結果的に仕事にも良い影響が生まれることは多い気がします。

イメージは「鍋敷き」になる本? デザインのカギは、著者の強い意志

—あらためて、書籍の製作はどのように進行していったのでしょうか。

長井:基本的には恋愛ウェブメディア「AM」で連載中のエッセイをまとめた内容なのですが、企画もののページや細かい仕掛けなど、新たにやりたいことがてんこ盛りで(笑)。

だから、まずは私が思い描く本のイメージや、考えている企画を製作チームの皆さんに説明するところからスタートしました。本当にてんこ盛りだったので、序盤の段階でだいぶ困らせたと思います。

脇田:いや、どの企画も本当に面白いと感じたし、デザインを考えるのも純粋に楽しかった! やっぱり「こういう本にしたい」という著者の気持ちがしっかりあると、デザインも応じやすいです。

『内緒にしといて』のカバー表紙(Amazonで見る

企画もののページ。「いつもの明日」に備える等身大の長井短さんと、明日のデートに向けてウキウキしている女性像を並べ、間違い探しのようなビジュアルで表現。洋服や小物は、ご本人やスタッフの私物をかき集めた

—当初、長井さんが思い描いていた本のイメージとは、どんなものだったのでしょうか。

長井:最初の打ち合わせで、「おしゃれな感じじゃなくて、鍋敷きに使われるようなリアルな本にしたい」っていうのは伝えました。

—鍋敷きですか……?

長井:はい。生活のなかに当たり前にあるというか、雑に使っても大丈夫というか。ただ、ほかの人からしたら「鍋敷き」って言われても、よくわかんないですよね。それでも自分のなかでは「鍋敷き」がいちばんしっくりきていたので、一応伝えました。

そうやってふわっとしたイメージとかを伝えると、すぐに表紙のラフを送ってくれて。そんな感じで、各ページに関しても私の抽象的なイメージをひとまず伝えて、脇田ちゃんがかたちにしてくれる流れで進行していきました。

ふんわりした伝え方でも、否定から入らずにちゃんと「受け取りましたよ!」っていう合図を出し続けてくれたので、安心感がありました。しかも毎回、私の想像以上に素敵なビジュアルに仕上げてくれるので本当にすごいなと思いましたね。

抽象的なオーダーをかたちにするには? デザインの方向性を定めるコツ

—長井さんに限らず、発注者がふわっとしたイメージだけをデザイナーに伝えるケースは結構多いと思います。脇田さんは、抽象的なイメージをどのようにかたちにしていくのでしょうか?

脇田:長井ちゃんが言ってくれたように、最初のイメージを聞いたら自分なりに勝手に解釈してみて、とりあえず描き起こしてみます。そのラフをベースに話し合うことで、具体的な方向性も固めていけるので。

—自分なりに解釈する際、意識していることはありますか?

脇田:連想ゲームのようにイメージを膨らませることが多いですね。たとえば、「鍋敷き→気兼ねなく使える→丁寧にしすぎない」みたいに。そうすると、紙質も繊細なものよりも丈夫なほうが良いねとか、神経質なレイアウトにしないとか、具体的な仕様も決まっていきます。結果的に今回の表紙は、良い感じに粗っぽくなりました。長井ちゃんの絵が素晴らしい(笑)。

長井:これ怖いよね(笑)。カバー表紙とのギャップがあって、すごく気に入っています。

左が本の表紙、右がカバー。本の表紙の絵は、長井さんご本人が描いた自画像

脇田:本の表紙は、カバーよりも「その本らしさ」を象徴する場かもしれないなといつも感じます。カバーは、本屋さんで並べられたときに目立たせたいという意識がどうしても働くから、ほかの本と並んだときを想像して、色合いを気にしたり、帯にたくさん情報を入れたりすることがある。けれど、本の表紙は外的要因を気にする必要がありません。この本も、カバーより表紙のほうが「らしさ」は表れているな、と思います。

長井:ほかにも、この本には細かい仕掛けやこだわりをたくさん詰め込んでいます。脇田ちゃんにまるっとブックデザインしてもらって、本当に大満足な仕上がりになりました。

企画ものページの「写メ日記」。一昔前のガラケー画面の世界観を再現するフォントを採用。絵文字はドコモからデータを借りて、実際に当時のものを使用した

企画ものページの「長井短のひとりごと」。モノクロの写真とインパクトのあるセリフを載せたビジュアルが、数ページにわたって続く。写真は長井さんの夫・亀島一徳さんが撮影

大事なのは「人間力」。仕事もプライベートも充実させるための共通点

—『内緒にしといて』に収録されているエッセイのなかで、個人的に印象的だったのが「完全に気が合う人と一緒にいてストレスゼロの生活は、はたしてほんとに楽しいのだろうか」「わかりあえないからこそ、相手との違いに気づき、初めて出会える自分がいる」というお話。この視点は生活や恋愛に限らず、仕事にも通じますよね。

脇田:あのエッセイ、すごく共感できますよね。私もめっちゃ記憶に残っていますし、たしかに仕事と共通する部分もありそう。

長井:そうですね。仕事においても、すでに知っている人とか同世代の気が合う人と何かをつくるのは、もちろん楽しい。でも、普段は接する機会がないタイプの人や、違う価値観を持った人と仕事することで新たな発見もきっとありますよね。

—実際に、仕事でそういう経験したことありますか?

長井:先日、まさにそんな体験をしました。30歳くらい年上の方とラジオ番組をする機会があり、最初はちゃんと話が合うか心配だったのですが、いざ話してみるとものすごく気が合い、番組も盛り上がって。

勝手に「合わないかも」と思っていた人と意気投合したときの感動って、むしろ気が合いそうな人と仲良くなるよりも嬉しいし、自分の視野や価値観も広がります。しかも、異なる個性やスキルがマッチして相乗効果が生まれたら、より良いアウトプットにつながる。

結果的に仕事の幅も広がるかもしれないので、最初から「この人、無理かも」と思って取り組むのはもったいないですよね。まあ、本当に気が合わない「大外れおじさん」もいるけど(笑)。

脇田:大外れ、あるある(笑)。でも、いろんな人と仕事をするのは、良い経験になるよね。私は「人たらし」になりたいなと、つねづね思います。

めちゃくちゃ仕事ができたとしても、イヤな人とは「また一緒に仕事したい」って思いづらいですよね。かといって、性格がどんなに良くても仕事がポンコツだったら困っちゃうし(笑)。友達としてだったら性格が合うだけでまったく問題ないけど、仕事となるとどちらの側面も必要になる。だから、周りに人が集まるような「人たらし」になるには、総合的な「人間力」が大事だと思っていて。

長井:それ、本当に大事だよね。こっちから迎合するんじゃなくて、自分の「人間力」を上げた結果、人から信用してもらえるというか。

脇田:仕事もプライベートも、「人間力」が上がればうまく回っていく気がします。芯がある言動や仕事を少しずつ積み重ねて、理想的な「人たらし」になりたいです。

無理そうなことも、ひと頑張りできる人のほうが一緒に仕事をしたくなる

—お二人はこれまで、数々の表現者やクリエイターの方と仕事をされてきたと思います。「この人とまた一緒に仕事したいな」と思う人の特徴があれば教えていただけますか?

脇田:「良いものをつくりたい」という意欲が高い人ですね。私自身が良いものをつくるためなら、ひと頑張りするタイプなので。

たとえば、「絶対にこうしたほうが良いものになる」と思ってクライアントさんに相談したときに、「いや、決まりなんで無理です」で片づける人と、「無理かもしれませんがちょっと相談してみます」っていう人がいたとしたら、後者の人のほうがありがたいし、「また一緒に仕事したいな」と感じます。

長井:嘘でも「粘ってみます」ってワンクッション入れてほしいよね(笑)。

脇田:そうそう、あくまで互いに「一緒につくっている意識」を持つことが大事だと思っていて。もちろん、明らかにNGな理由があったり、本当にかけ寄っていただいた結果、だめだったりした場合はしょうがないと思います。

ですが、ルールに縛られて、良いものを最初から諦めるのはもったいない。少しのアクションでクオリティーを上げられる可能性があるなら、一緒に頑張ってくれる人が良いですね。

—長井さんは、どんな人とまた一緒に仕事したいと思いますか?

長井:女優やモデルのお仕事の場合は、基本的に「こうしてください」と言われることが多いので決定権がない立場。とはいえ、一緒にものづくりをする仲間として、一方的に指示されるのでなく、対等な目線を持って接してくれるだけで「この人、好き!」ってなります。

逆に極端に言うと「君はこれだけやっていればいいから」っていうスタンスだと悲しい。せめて私をキャスティングしていただいた理由があるとありがたいですね。じゃないと「172cmの女なら誰でも良かったのかな?」と思って、帰り道がさびしくなるので(笑)。

脇田:やっぱり自分に依頼してくれた理由が明快だと、素直に嬉しいよね。求められていることも理解しやすいし。

求めてもらう存在になりたいなら、自分らしさを磨くべき

—最後に、「一緒に働きたい」と思われるクリエイターや表現者になるために、意識すべきことがあれば教えてください。

長井:ありきたりな表現かもしれませんが、人に擦り寄りすぎずに「自分らしく」仕事をすることですね。その積み重ねが、自分のやりたいジャンルの仕事にもつながっていくと思うので。

求められることに寄せるんじゃなくて、求めてもらう存在になりたいなら、なおさら自分にしかない特徴や武器を磨いたほうが良いのではないでしょうか。

脇田:私はさっきお話したことと被りますが、「良いものをつくりたい」という意欲だけは、大前提として忘れちゃいけないと思います。

毎日仕事をしていると面倒なこととか、ルーティン化してしまうこともあるけれど、ものづくりにかける気持ちを絶やしてしまったら良いものは生まれません。

真剣に取り組んで培った経験や実績が、「一緒に働きたい」と思ってくれる人を少しずつ増やしていくはず。そう信じて、私自身も一つひとつの仕事を大切にしていきたいです。