ドラマ漫画アニメの作品から紐解く、クリエイティブ業界の仕事の裏側
- 2020/11/04
- COLUMN
そこでオススメしたいのが、業界を舞台にした「物語」です。クリエイティブ業界の物語は、そのつくり手も同業界の人たち。そのため描写や空気感がリアルで、興味があったり業界への転職を考えていたりする人にとっては最高のサンプルになるはず。
今回は、4作品から4職種をピックアップしました。物語なので誇張や多少の「ありえない」はあるけれど、各業界の仕事を知るきっかけにはなると思います。この記事をとおしてクリエイティブの仕事や作品に興味を持っていただけたら嬉しいです。
- 文・編集:𠮷田薫
①『SHIROBAKO』 職種:アニメ制作進行
アニメ作品のすべてを把握する大事な役割
日本が世界に誇るカルチャー「アニメ」。そんなアニメ制作に関わる人々の奮闘を描いたのが、2014年10月から半年にわたり放送されたテレビアニメ『SHIROBAKO』です。
舞台は吉祥寺にある制作会社・武蔵野アニメーション。主人公の宮森あおいは、新卒で入社し「制作進行」として働いています。主な仕事内容は、制作に関わる予算の把握と管理、作画に関わるアニメーター集め、演出家や監督との打ち合わせへの同席、完成した原画チェック、アフレコの立ち会い……など多岐にわたります。制作進行は、アニメ制作において唯一すべての部署と直接やり取りをする重要な役割なのです。
そのため業務量が膨らむこともしばしばで、「リテイクあと何カット残ってる?」「撮影には何カット入ってる?」と先輩に畳みかけられて目を回したり、立て続けに起きるトラブルに「万策尽きた」と弱音を吐いたりと、テンパることも。しかも、クリエイターたちはこだわりが強く、なかでも監督は絵コンテがなかなか描けず全体の作業を止めてしまったりするような超問題児です。そんな監督をときに叱り、ときに褒めておだてながらアニメの完成を目指すあおいは、先輩曰く、「猛獣使い」「アメとムチを、持っている」とのこと。アニメ制作における他の職種とは違って、進行管理に必須スキルはありませんが、こだわりの強いクリエイター陣を相手取るコミュニケーション能力は重要かもしれません。
アニメ現場のリアルを描いている本作では、制作の大変さだけではなく、「好き」を仕事にする人たちの情熱や、ゼロから作品をつくるやりがいも描かれます。特にスタッフ一丸となってアニメが完成したときの達成感はひとしお。作品の完成を祝う打ち上げシーンには「終わらない青春」が感じられ、アニメをつくる喜びや、チームでものをつくる楽しさを体感することができるでしょう。
ちなみに制作進行のなかにはキャリアアップをして、プロデューサーや監督、演出家になる人もいます。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』などを手がけた長井龍雪監督や、本作『SHIROBAKO』の水島努監督も制作進行からキャリアを積んだ一人。「絵は描けないけど、アニメをつくりたい」という情熱のある人は、制作進行からスタートしてみてはいかがでしょうか。
「アニメ制作進行」お仕事のまとめ
①全制作スタッフをつなぐ大事な仕事
②キャリアップをして、監督や演出家になる人もいる
③絵が描けないけどアニメをつくりたい人にオススメの職種
②『彼女のいる彼氏』 職種:UIデザイナー
日進月歩なIT業界のトレンドをつくる立役者
本作の舞台は、渋谷にある大手IT会社「サイダーエイジジャパン」。モデルとなっているのはもちろん、アメブロやAbemaTVを運営するサイバーエージェントです。著者・矢島光は2015年までサイバーエージェントの制作局でフロントエンジニアとして勤務。そのときの経験をもとに描いているそうです。
主人公はUIデザイナーとして働く小泉咲。ユーザーにとって心地よいサイトになるようシステム・ビジュアルをデザインする仕事です。新メディア立ち上げの際は、イメージに近い資料を読み込んで、サイトをいちからつくるほか、リアルイベントではポップなどのデザインもしています。
IT企業はとにかく回転が早いので、グロース見込みがなく、売り上げが立てられないコンテンツは容赦なくクローズされることも。本作でも咲がデザインを担当するコンテンツがクローズの危機に。咲をはじめとしたデザイナー陣やディレクターが協力して、改善ポイントや、グロース施策を打ち出します。IT企業のデザイナーには、問題をデザインで的確に解決すること、そして数字で結果を出すことが求められます。また、流行り廃りの早い業界なので、デザインの知識以外に、つねにトレンドをインプットし続けることも欠かせません。
本作では、UIデザイナーのお仕事を軸にIT業界の「あるある」も描いています。「基本アグリーなんだけど(=基本賛成なんだけど)」「ファージビリティ確認してください(=実現可能性確認してください)」など、必要以上の横文字会話が飛び交う様子はかなりリアルです。UIデザイナーを目指す人は、ぜひ本書を手にとって、業界の空気感にも触れてみてください。
「UIデザイナー」のお仕事まとめ
①コンテンツの問題を理解する力と解決する対応力が求められる
②流行をつねにキャッチできるアンテナも重要
③いつも数字で結果が求められる業界
②『地味にすごい! 校閲ガール・河野悦子』 職種:校閲者
コンテンツの正しさを守る、縁の下の力持ち
2016年の秋クールに放送された本作を見て、「校閲者」という仕事を知った人も多いのではないでしょうか? ドラマ曰く校閲とは、「文書や原稿などの、内容の誤りや不備な点を調べ、直し正すこと」。たとえば、「満天の星空をみあげた」という文章の場合、満天には空という意味が含まれているため、正しくは「満天の星をみあげた」(第1話参照)。こういった日本語の使い方の誤りを見つけたり、テキストの内容の正しさを調べたりするのが校閲者の仕事です。
本作の主人公は、ファッション誌の編集者を夢見て6年連続で出版社の中途採用を受けている河野悦子。やっとのことで憧れの出版社に受かったと思いきや、配属されたのは地下1Fに追いやられている校閲部で、しかも採用理由は河野悦子が略して「コーエツ」だからというしょうもなさ……。普通だったらへこたれてしまいそうな状況ですが、コーエツは持ち前の行動力と好奇心で校閲部に新しい風を吹き込みます。
たとえば第1話、大御所文芸作家の新作を校閲することになった際は、小説の舞台である東京都武蔵野市周辺に実際に足を運び、作中の風景描写の信ぴょう性を一つずつ確認。「デスクではじまりデスクで終わる」という校閲の仕事のセオリーを壊していきました。実際の現場でここまでやっているかどうかはさておき、コーエツの「疑問を持ち、正しさを追求する」ことは、校閲者にとって不可欠な資質。「これって本当?」という鋭さと、答えがわかるまで探す粘り強さがなければ、著者ですら気づかなかった誤りを発見するのは難しいからです。
校閲者の仕事は、コンテンツのクオリティーを支える大切な仕事である一方、人目には触れない「地味」なものでもあります。「どんなに苦労して緻密な確認作業をしても、結果間違っていなければ、その苦労は誰にも知られず褒められることはない」(10話より)。それでも「正しさ」にプライドを持てる人だけが、一人前の校閲者になれるかもしれません。
校閲者のお仕事のまとめ
①日本語能力は必須
②正しさは「疑うこと」からはじまる
③「地味」な仕事の重要性を理解できる人が向いている
③『サプリ』:CMプランナー
創造力だけでは務まらない。交渉力も忍耐力も人並み以上であれ
著者・おかざき真里が博報堂で11年間働いていたときの経験が詰まった本作は、広告代理店のリアルが描かれています。
主人公は、CMプランナーとして働く藤井ミナミ。彼女の仕事は企画を生み出すところから作品の完成まで、すべてのフェーズに関わります。
なかでも重要なのは、企画立案。予算や商品内容などスポンサーの依頼をもとに、出演者のイメージやコンセプトなどを決めていく作業です。3巻で藤井が演出家と徹夜で企画を練るシーンでは、「ネーミングの訴求をまず考えたんですけど」「ターゲットは……」「こういうのを空撮で……」など、多角的な視点で企画についてブレストしている様子が描かれます。プランナーには、面白い絵をつくるクリエイティブな思考と、市場を把握するマーケティング力の両方が求められます。
また、撮影現場では舵取り役として、各クリエイターとコミュニケーションをとりながら制作を進めるほか、クライアントやタレント事務所とのあいだで交渉を請負うのも仕事のひとつ。「約束と違う」と撮影現場で怒り狂うタレントサイドに対してひたすら頭を下げたり、その場で撮影プランを練り直したりする藤井を見るに、トラブルへの耐性と対応力も身につけておきたいところです。
華やかなイメージを持たれるCMプランナーですが、本作でも描かれているように、実際はかなり泥臭い仕事なのかもしれません。面白い作品をつくるために、ずる賢く立ち回ることもあれば、嫌いな相手に笑顔を向けることもある。創造力と政治力、どちらが欠けても務まらないのがCMプランナーのお仕事です。
「CMプランナー」のお仕事のまとめ
①創造力とビジネススキルのバランスが大事
②トラブルはつきものと心得ること
③成功のために計算高く振る舞うこともある