CINRA
|
サービス向上アンケートご協力のお願い 詳しくはこちら

『KPOPガールズ!デーモンハンターズ』“Golden”は夢破れた元練習生=EJAEのキャリアチェンジが生んだ

  • テキスト:菅原史稀
  • 編集:吉田薫
  • 画像:Netflix『KPOPガールズ!デーモンハンターズ』独占配信中

2025年6月に配信され、Netflixオリジナルアニメーション映画として史上最多のグローバル視聴回数を記録した『KPOPガールズ!デーモンハンターズ』(8月12月時点)。架空のガールズグループ・HUNTR / Xが物語の中心となり、そのファンダムやスタッフ、競争相手の姿などを通じ、さまざまな角度からK-POPカルチャーが織り込まれる作品となっている。HUNTR / Xが歌唱する楽曲をはじめ数々のオリジナルトラック(そして既存のK-POPナンバーも)によりミュージカルの様相を呈している本作でも、特に際立つのは劇中歌”Golden”。米ビルボード「HOT100」、英国オフィシャル・シングルチャート「トップ100」において首位に輝き、世界の2大チャートで頂点を極めた曲だ。この快挙は、K-POP関連の女性ボーカリストが歌う楽曲として史上初である。

K-POPという文化的現象が、いまやグローバル規模で人々にとってひとつの言語となっていることを象徴する一曲となった“Golden”の背景には、作曲家であり歌唱者でもあるEJAE(イジェ)の存在がある。HUNTR / Xのリーダー・ルミの歌声を担った彼女は、作品の根幹を支えるキーマンとなった。

練習生からソングライターへ。EJAEが歩んだ10年の軌跡

EJAEは1991年に韓国で生まれ、幼少期を米国で過ごし、再び韓国に戻って外国人学校に通いながらアイドルとしてトレーニングに励んだ。大手芸能事務所・SMエンターテインメントの練習生として約10年もの時間を費やし、デビューのチャンスを待ちながら、ニューヨーク大学で音楽産業と心理学を専攻。「大学4年生の頃、再びSMに戻ったのですが、お互いに望む色が違っていて、年齢も高いので、結局デビューできないまま終わりました。本当に憂鬱でした。そして一人で少しずつ音楽を作り始めました」と彼女はのちに振り返っている。

EJAE公式Instagram

だがその道の先は、ソングライターとしてのフィールドにつながっていた。2016年、EXIDのアルバムに収録されたHANIのソロ曲”Hello”で作曲家としての活動を始めると、EJAEはクリエイターとして、韓国音楽業界で存在感を増していく。ターニングポイントとなったのは2019年、Red Velvetへ提供した楽曲“Psycho”だ。当時自身の恋人との衝突を題材に書いたというこの曲は、K-POPシーンで主流となっていた「ガールクラッシュ」コンセプトに基づいた力強く明確な表現とは対照的に、人間の不安定さと矛盾を晒すことでまばゆい異彩を放った。その後もaespaの“Drama”“Armageddon”、TWICE、NMIXX、LE SSERAFIMら人気グループに楽曲を提供し、ファンにも知られる存在となっている。

監督が惹かれたEJAEの歌声と”Golden”誕生の背景

『KPOPガールズ!デーモンハンターズ』への参加は、当初は作曲家としてのオファーだった。しかし監督のマギー・カンが、デモを歌ったEJAEのボーカルに強く惹かれ、主人公ルミの歌声を任せることを決断。EJAE自身も「監督も私の声に慣れて、私も自分の歌は私が一番よく活かせると思いました」と語っている。

EJAE、そしてTHE BLACK LABELやイアン・アイゼンドラスらによって制作が進められた“Golden”は、劇的な曲構成にエモーショナルなボーカルが重なり合うことで生み出されるダイナミクスが聴き手を圧倒する曲調となった。さらに劇中のストーリーでも重要な鍵を握る高音パートには、K-POPの「らしさ」が表れている。

曲中でA5を超えるハイトーンは、韓国のサバイバルオーディション番組や歌番組『覆面歌王』などにおいて、高音パートへ特にフィーチャーする演出に見られるような、K-POPの実力主義的な文脈を思わせる。実際、MAMAMOOのSolar、NMIXXのLILY、IVEのYUJINといった、各グループを支えるボーカリストたちが次々にカバー動画を発表、ファンらがその実力を通じて推しを「布教」するためハイトーン箇所を切り抜いた動画を発信したことで、曲の認知度がさらに拡大された。

劇中歌の中でこの曲は比較的早く完成したといい、トラックを聴いた瞬間に「gonna be gonna be golden」というフレーズが自然と浮かんできたと語るEJAEは、テーマに掲げられた「gold」という言葉に、自身の感情を強く込め、前向きで高揚感のあるメロディを紡ぎ出した。「we dreaming hard, we came so far, now I believe」という歌詞には、練習生時代やソングライターとして歩んできた自身の視点を刻んだという――。

EJAE「韓国にいることや業界にいることの感覚を知っているので、『自分は十分でない』と感じたり、内面で善と悪が戦っているように感じることは現実に存在すると私は思います。どの業界でもそうですが、K-POPアーティストとして本当にそのバランスを見つけることが大切です。韓国は完璧主義の国なので、常に『完璧な自分』でいるようプレッシャーを受けます」(『Genius Korea』「[INTERVIEW] EJAE on Writing the Hits and Singing for Rumi in KPop Demon Hunters」より)

Netflix『KPOPガールズ!デーモンハンターズ』独占配信中

“Golden”の成功は、偶然ではない。架空のK-POPグループが現実世界で快挙を達成できたのは、長年にわたり積み重ねられてきたK-POP文化の広がりと定着があり、アーティストたちによる功績がその礎となっている。そしてその背景にあるのは、K-POPの二面性。煌びやかさ、輝かしさの一方、その魅力を保つために確立された価値観のもと、多くの人の夢がふるい落とされてきたという厳しい現実だ。

こうした世界に身を置きながら、音楽を手放さず歩みを続けてきたEJAEは、自らの軌跡を表現へと刻み、その歌声をもって体現した。「私は長い道のりを歩んできたから、いつか成功できることを信じるための歌が必要だったんだと思う」。“Golden”は彼女にとって、自身の人生を重ね合わせた「マニフェステーション・ソング=願望実現の歌」である。このまぎれもない事実こそ、本楽曲のメッセージに普遍性と切実さを伴わせ、世界中のリスナーに強い共感を呼び起こしている。

気になる

おすすめ求人企業

PR