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ヘラルボニーが障害のある作家の国際アートアワードを創設。「企業の後押しにも期待」

ヘラルボニーが国際アートアワード『HERALBONY Art Prize 2024』を創設。記者発表会が1月31日に渋谷・サクラステージで行なわれた。

ヘラルボニーは、知的障害のある作家と対等なビジネスパートナーシップを結んでアート事業を行なう福祉実験カンパニー。

同社が手がける初の国際アートアワードとなる『HERALBONY Art Prize 2024』は国内外の障害のある作家を対象として開催される。

審査員として金沢21世紀美術館チーフキュレーターの黒澤浩美、東京藝術大学長の日比野克彦、LVMH メティエ ダール ジャパン ディレクターの盛岡笑奈、フランス・パリのギャラリー「Galerie Christian Berst」の創設者Christian Berstが参加。審査基準は「独自の視点を持ち、新たな芸術創造性があるか」「社会に新たな視点や変化を投げかけるような独創性があるか」「多様性を体現する自由な発想があるか」の3点となっている。

公募はヘラルボニーが「異彩の日」としている1月31日からスタートし、3月15日までの応募期間の後、2度の審査を経て8月上旬に受賞作が発表。9月下旬に都内で受賞作と2次審査で選ばれた作品の展覧会が開かれる。最高賞であるグランプリの賞金は300万円。

記者発表会には、ヘラルボニー代表取締役Co-CEOの松田崇弥と松田文登、審査員の黒澤、日比野、盛岡が登壇した。
  • テキスト・撮影:廣田一馬
  • 編集:生田綾

「本当の意味で異彩が放たれた世界を目指していきたい」

会の冒頭では、松田崇弥と松田文登がヘラルボニーの取り組みや『HERALBONY Art Prize 2024』の詳細について「本当の意味で異彩が放たれた世界を目指していきたいと強く思い、今回のコンペティションを開催します。2030年には本当の意味で国際アワードだと言ってもらえるような状況にもっていけたらいいと思っており、世界中の作家さんと連携していけたらと思っています」と説明。

HとAを組み合わせ、スポットライトが当たっている様子を表現したデザインのロゴに込めた想いや今後の展望についても紹介した。

「あくまでも作家が主役で、作家自身にスポットライトが本気で当たり、その先もあるというデザインになっています。彼らの異彩や存在そのものが、本当の意味で賞賛されていくという最高の舞台を作っていけたらいいと思います」

「受賞して、賞を授けて終わりではなく、賞を取った作家さんに色々な形で企業がバックアップしていける体制まで構築していけたら良いと思っております。彼らの異彩や存在そのものが本当の意味で賞賛されていく最高の舞台を作っていけたら良いと思っています」

また、他のアート賞も障害がある作家を排除しているわけではない中で、障害がある作家に特化した賞を作る意義を問われた際には、以下のように回答した。

「障害のある方の中には、賞やアワードに参加するという価値観を持っていなかった人も多いと思うので、そのような方々が参加するきっかけになればいいと思っています。また、ヘラルボニーが旗印として存在することによって、障害のある人が参加しやすくなるという構造を作っていけたら良いと考えています」

「最終的なゴールは『そのまま』を肯定する社会を目指していくこと」

障害のある兄をもつ松田崇弥と松田文登。松田崇弥からは、自身の経験を踏まえた賞への想いも語られた。

「障害のある人たちへの憧れをつくっていくのがすごく大切だと思っています。自分自身も中学校時代に兄貴のことを馬鹿にされるなど、自分の中で葛藤する部分もあった。このアワードを通じて障害のある人たちへの尊敬というものを新しく打ち立てていくことによって、最終的に兄貴にまで尊敬をつくって帰ってくるようなことが起きるというふうに思っています。まずは本当に真摯に毎年、10年、20年と時間をかけて誠実に続けていって、多くの作家が目標にするようなコンペティションに育てていけたらいいなと思います」

松田崇弥

質疑応答では、「障害のある人にどのような視線が注がれるような社会が理想なのか」と問われ、松田文登は「兄の存在について考えたとき、『生きているだけで本当に素晴らしい』と思っているんです」と語りつつ、以下のようにコメントした。

「最終ゴールは本当の意味で、障害のある人も健常者もラベリング関係なく、そのままを肯定する社会を目指していくことだと思います。憧れというものがなかったとしてもありのままを肯定され、そのままの存在が認められていくことが目指すべき社会だと思います」

「いまは『障害』と聞いて『欠落』などを連想する人たちの割合が圧倒的に多いと思うんです。医学モデルや社会モデルによって『障害』が定義されているだけなのに、『欠落』を想像してしまう。そういった状況を変え、そのままの存在が認められる世界をつくっていく段階の一つとして、このアートプライズというものが存在していけたらいいと思っています」

松田文登

アート作品が障害の有無にかかわらず一律に鑑賞される未来については、審査員を務める黒澤も以下のように語った。

「私自身、障害があるのかないのかのキッパリとした境目はないと思っています。いまはまだ、このアワードをわざわざ立ち上げなければいけないときだと思いますが、今後はグラデーションがついていって馴染んでいき、いずれは質問も出ないような世の中になるような期待があります」

「私たちはいま階段を登れたり、歩けたりしていますが、『(このアワードを)障害のある方のためにやっている』というのは少しおこがましい視点です。私も年齢が上がってきて目が見えにくくなったりとか、速く走れなくなったりしています。いままでの社会は効率よく、速く、遠くに、力強くという機運に則って作られていったと思いますが、社会全体で優しさに包まれたシステムを再考し、全員が幸せになることを目指すことに向かっていけるか。表現を入り口にして、アーティストの作品を受容する側の意識を変えていくと、障害の有無に関係なく作品を見ることができるようになると思います」

黒澤浩美

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