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「知らないからこそ冒険できる」クロスオーバーが成功するワケ

株式会社ソニックジャム

株式会社ソニックジャム

今、WEBはまさにクリエイティブのスクランブル交差点だ。もっとも多くの人が行き来し、今まで出会わなかったものが出会い、今までに無い体験が高速で生まれ、共有され、こうしている今も広がり続けている。しかし、行き来する人や情報が増えてきた分、そこで生まれる組み合わせも多様化した。そんなWEBの今を背景に、ソニックジャムは、ハイレベルなクリエイターが出会う交差点としてその存在を誇示し続けている。
そこで今回は、ソニックジャム代表の村田健さんが、パートナーとして制作を共にしている2名のクリエイターにお越しいただいた。様々なアーティストの楽曲アレンジやCM音楽を手がける作曲家の山崎功さんと、スピッツやTAHITI80などのPVを手がける映像作家の北山大介さん。異なるフィールドで活躍する3人にとって、クリエイティブのクロスオーバーとはどのようなものなのだろうか?
  • 取材・文:森オウジ
  • 撮影:大槻正敏

ソニックジャム周辺の、最近ホットなこと

上海拠点がまもなく稼働です(村田)

—まず村田さん、今年ソニックジャムではたくさんの目標を掲げておられますが、ひとつ大きいのは上海への海外進出ですよね。

村田 健 株式会社ソニックジャム 代表取締役・チーフプロデューサー

村田 健 株式会社ソニックジャム
代表取締役・チーフプロデューサー

フリーランスとして数年WEB制作に携わった後、2001年9月株式会社ソニックジャム設立。以後、企画、設計、テクニカルディレクション、映像・サウンドディレクションなどさまざまな役割で多くのWEBサイト制作に携わる。

村田:現在最終的な準備段階に入っています。この春には拠点として実際に動かしていきたいと思っていますね。上海のクリエイターのネットワークをつくりながら、日本でお付き合いしているクライアントが海外に出ていく時のサポートをしていくことがミッションです。もちろん海外のクライアントともお付き合いしたいというのもありますね。とはいえ、最も力を入れたいのは中日ドラゴンズの3年連続セ・リーグ優勝ですけど。

—なんでドラゴンズなんですか?

村田:名古屋出身だからですね。

山崎:(笑)。名古屋でドラゴンズ嫌いな人ってむしろいるんですか?

村田:いますよ。アンチジャイアンツ的なノリが東京であるように、アンチドラゴンズはあります。

—はい(笑)、では続いて北山さんにお伺いします。今までCORNELIUSやSpangle Call Lilli Lineなどの独創的なミュージシャンのPV等の作品が目立ちますが、最近の印象的なお仕事はどんなものがありますか?

北山 大介 映像作家

北山:最近はスピッツのミュージックビデオを何本か続けてやってたりと、メジャーなアーティストさんとお仕事をさせていただく機会が増えましたね。今までは少しカルチャー寄りの、それこそ前衛的なアーティストさんが多かったので、とても新鮮に感じています。

村田:スピッツもそうですけど、北山さんはたまに自虐的なくらい手間かけてますよね(笑)。

北山:そうかも知れない…。プロジェクトが始まって、最初に打ち合わせをするじゃないですか。それから僕はしばらく消えるんです。で、その次会うと、げっそりとやつれて現れる。クライアントに「この間いったい何があったんだ?」みたいなことを思われるわけで。でも、作品を見せたら、手間をかけて作っていることが伝わるから、みんな驚いてくれる。それが楽しいんですよ。僕は自分で手を動かすタイプですね。

—最後に山崎さん、最近の活動についてお聞かせいただけますか?東京モーターショウのホンダブースやLEXUS NEW GSのWEBサイトのサウンドなどを手がけておられますよね。

山崎:最近ではモーターショーもそうですが、ReebokのCMなどにも楽曲提供をしています。大きい案件になると曲数も多くなるので、最近は自分でも作りながら、プロデューサーとして関わらせていただくことが多くなってきましたね。

『ねむれんニュース』のつくりかた

“悪い”作品がきっかけで、オファーをもらった(笑)(北山)

—3人がソニックジャムで出会ったのはエスエス製薬の『ねむれんニュース』(※現在は公開終了)がきっかけかと思います。まずこのプロジェクトについてお伺いしたいと思います。簡単にこの『ねむれんニュース』をご説明いただけますか?

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睡眠改善薬ドリエル Presents「ねむれんニュース」
クライアント:エスエス製薬(株)
代理店:(株)マッキャンエリクソン、(株)ティー・ワイ・オー アイ・ディ事業部
映像/アートディレクション:北山大介(ORANGE FILMS.)
Flash:茅原伸幸(メディア・パルサー)
サウンド:山崎功(PINTON)
制作:(株)ソニックジャム

村田:これは、眠れないときに飲む“睡眠改善薬”ドリエルという題材を、キャッチーでシュールな笑いを誘うおもしろニュース番組で演出した、プロモーションサイトです。 
この案件は最初に、『ねむれんニュース』というタイトルと、ユーザー参加型の映像ジェネレートWEB番組ということしか決まっていなかったんですよ。最終的にはツイッターとかも使って、おもしろニュース番組になったわけですが、眠れない人が見るニュース番組って、そもそも薬の意義と相反してないか? みたいなことを考えると難しいなとは思いましたけども…。

一同:(笑)。

村田:でも、とにかく眠れずに悩んでいる人の気持ちが明るくなるような、楽しめるものにしようって思ったんです。それで映像作家さんを探していたら北山さんがアンテナに引っかかったわけです。

—でも、北山さんはわりとオシャレというか、あまりこういうおバカ作品は今までにありませんよね?

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北山:きっかけは『TOKYO CULTUART by BEAMS』で作っていた僕の作品でしたよね。これは僕の中でもちょっと異色で、悪い作品なんです。

村田:そう。悪いんですよ(笑)。

北山:「キンダールーム」というタイトルで、「子供に見せられない子供向け番組」をコンセプトにDVDを作ったのですが、例えば“正露丸と下剤をいっしょに飲むとどっちが勝つのか?”とかの、どうでもいいテーマでジョーク作品を作っていました。本当にふざけた作品なので、まさかこれを見て仕事のオファーを出すなんて、変わった人もいるもんだなぁと思った(笑)。

村田:こういうおバカ作品がテイストとして一番いいんじゃないかなと思ったんです。そこで笑いの波長が合う人と、互いにニュースのストーリー案を出し合って、最終的にとりまとめていく作り方をしようと考えました。

北山:そういう話を聞いてようやく、なぜ僕だったのか分かってきましたが(笑)。

村田:ストーリーを考えているときにいろいろ話して、「合うな、この人」という感じがあったんですよ。クリエイティブって、その感覚が持てるか持てないかがすごく大事だと思います。面白さに反応するセンサーが同じところにあるというか。これさえ揃えば、あとは連想ゲームが自動進行していくんです。『ねむれんニュース』はそこに音楽も悪ノリな感じで乗ってきて、作ってて楽しくなってきた。

一発ギャグやれよ、って感じでした(山崎)

山崎 功 作曲家

山崎:音楽は勢い重視で作っていったんです。どこかで聴いたことがあるような、ないような、というギミック感も大切にしました。たとえばニュースの中に80年代風ドラマの新作発表会があり、そのドラマのテーマ曲を作ったのですが、思いっきりバブルの頃っぽい音にしたりとか…。

村田・北山:あった、あった(笑)。

山崎:まぁ、一発ギャグやれよって感じでしたね。だから、いまいちウケずに2発目となると、それはそれで辛いので(笑)、とにかく勢いで乗り切りましたね。

北山:そうなんですよね! 真面目にダメ出しされても、スベってるだけだから恥ずかしい(笑)。

村田:とはいえ、どうでもいいようなギミックを、やたらとハイクオリティーで作り込んで、ギャグにしていくというプロセスをみんなで作っていけたのは面白かったですよね。

北山:思えば最初のプレゼンが一番真面目だったかも(笑)。進んでくると、僕らもたまに怒られながらも、けっきょくエスエス製薬さんもノってくださって。

WEBに合わせるのではなく、自分主義のクリエイションを

みんなでつくるのが好きだし、その方がクリエイティブだと思っている(村田)

—制作会社にとっては社内でクリエイターを抱えることもありますよね。ソニックジャムが社外のクリエイターとコラボレートしていくのはなぜなんでしょう?

村田 健

村田:ひとりでできないものが、たくさんの人とならできる、という楽しさがあるからですね。そして社外には多彩な選択肢がある。それに、ずっと僕は音楽をやっていますが、そもそも一人でやるのは好きではないんですよね。バンドはもちろん、みんなでつくるものが好きだし、その方がクリエイティブを生むと思っていることが根底にあります。

たとえば『ねむれんニュース』も、北山さんと笑いのツボが映像として合って、さらにそこに山崎さんの小技のきいたギャグが音楽として入ってきて高いクリエイティブを生み出すことができた。社内はもちろん、今まで出会ったことの無いタイプの人とコラボしてものづくりをするのが楽しいし、WEBではその可能性はどんどん広がっていくので、積極的にやっていきたいです。そして、そうやって楽しくつくったものは、きっと受け取る人にも同じように感じてもらえるはずなので。

—北山さんは映像作家として、山崎さんは音楽家としてWEBという接点でクロスオーバーをしていく。このときの面白みとは何でしょうか?

北山:僕はどちらかというと、何か斬新な切り口ではなくて、古典的なものを現代風にアレンジする表現が好きでやっています。たとえばアニメーションのコマ撮りとかがそうで、昔からある手法を、今でも手間をかけてやることで、そこにまた新しさが生まれると思ってやっています。
そんなことをやってるくらいですから、WEBに関しては疎いんですよ。むしろ知ろうともしなかった。なので最初はとにかく自分のやりたいことを100パーセントやって、村田さんに投げてしまう。できるかできないかは考えないんです。たとえば僕が変にFLASHが使えたりしたら、逆にアイデアの段階でそこにとらわれてまって、クリエイティブが下がると思うんです。だからもう、とにかく映像クリエイターとしての自分100パーセントでいることだけを考えているし、それが面白みでもある。

村田:結果的に、映像の話をするときは映像に集中したいし、音楽なら音楽ばかり考えた方がいい。技術的なことは後の仕事だと割り切ってしまうんですね。困難にぶつかったときも、こっちの都合で「無理だ」と言いたくはないので、それを可能にするために技術力は備えていたいと思ってます。それに、お互いに知らないからこそ冒険できるというのもあります。それがいい方向に働けば、お互い意外なものが生まれていくチャンスにもなりますし。

なんかうるさい人がいるんだな、と思ったら、村田さんだった(笑)(山崎)

山崎 功

山崎:音楽をつくる側としては、今単純にWEBでの音楽は面白くなってきていると思います。実はWEBにおける音楽の立ち位置って、最近ようやく日の目を見ている感じなんですよ。というのも、昔はWEBサイト自体の許容容量が少なかったので、5秒とか10秒の音源をとにかくループさせて作っていた。短いだけに抑揚がついているとうるさくなってしまう場合もあるので、音楽的な変化の少ない曲を求めらるケースが多かったんですよね。でも今は単にループだけではなく、動画などのコンテンツも当たり前になってきたのでよりダイナミックな表現が出来るようになりました。

村田:そう。昔は単にWEBサイトの“色づけ”として音楽が位置づけられている時期があったんです。何でもいいからとにかく鳴ってればいいという。僕は自分で音楽をやっているからかもしれませんが、そういうのが嫌なんです。だから「WEBなのにここまでやるか!」と思われるくらいクオリティ上げてやりたいというのがあって、それが今も染みついている。しかもデジタルでできることはみんなできるので、生でもやってみたくなる。

山崎:そういえば僕と村田さんが最初に出会ったきっかけは、8年くらい前のインテリアメーカーさんのサイト制作でしたよね。当初ソニックジャムとのやりとりは村田さんではなかった。音楽の制作をしてくれということで、いつも通り作って出したら、知らない人からメールが返ってきた。すると「イコライザで何百ヘルツあたりを少し削ってくれ」とか、やたら専門的なことを言ってくる。

一同:(笑)。

北山:それがいきなり知らない人から来たら驚きますね。

山崎:まぁ、詳しいひとがいるんだな、と思いつつ本心は、なんかうるさい人がいるんだな、と。そしたらそれが村田さんだった(笑)。

謎の採用基準と“一芸入社”がソニックジャムをつくる

「普段どういうWEBサイトを見ていますか?」って聞いたら「ヤフーです」と即答してくれた(村田)

—ユニークな会社には、やっぱりユニークな採用方針があるものです。先日岩波書店が「岩波書店(から出版した)著者の紹介状あるいは社員の紹介があること」という採用方針を出したことは話題になりましたが、ソニックジャムではどんな方針で採用を行っているのでしょうか?

村田 健

村田:最近おもしろかったのは、社員が「なんで私この会社に入社できたかわからない」と話題にしていたことですね。つまり働きだしても採用基準が謎のままなんです。
たとえば、今バリバリ働いてくれている女の子がいるんですけど、その子は面接に来たときに僕が「普段どういうWEBサイトを見ていますか?」って聞いたら「ヤフーです」と即答してくれたんですよ。

一同:(笑)。

村田:そりゃそうだろうって(笑)。っていうか、WEB制作会社に面接に来てるんだったら、普通ちゃんと考えてくるよねっていう。っていうか、考えて来いよって(笑)。でも結局、彼女には別の部分で魅力を感じたので、採用したんです。

—(笑)一体どういう基準の採用なんですか?

村田:小学校のクラス替えを思い出してみてください。とにかく新しいクラスになったら、こいつとは仲良くなれるなという人と、こいつはべつに嫌いじゃないけれど、仲良くはならないなと思う人がいるはずです。そして、それに頭の善し悪しや成績は関係無いんです。結局、仲良しになったのはバカばっかだったりする。

山崎:そうだった!

村田:こういった感覚を面接の時も大切にしています。たとえば、学歴も能力も経験も何もかも最高でも、クラスにいたときに友達になるかな? というところです。

—そうなってくると、同業者以外の人も入ってくるわけですから、社内が多彩になりますよね。

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村田:そうですね、“一芸入社”というのも特徴だと思います。もちろん、即戦力の採用とのバランスは取っていますが。でも、会社の未来への投資として、何か人と違う特技や経験を持った人の入社には積極的です。だからうちには元編集者やイベンターなど、実に様々な人種がいます。

北山:そういえば『ねむれんニュース』の番組でも、社員さんがエキストラとして出てくれていて、街頭インタビュー風に話しを聞いてる演技とかしてもらっています。僕は技術系の人って根暗なイメージがあったんですけど、みんな色々と個性があって、ノリがよかったかも。

村田:そう、“ノリ”。それも大切だと思いますよ(笑)。

Profile

株式会社ソニックジャム

SONICJAMはWEB・インタラクティブコンテンツの制作で20年以上の実績を積んできました。最近では、デジタルサイネージ、イベント演出、デバイス開発、IoT、VRなどの相談が増えている中、未来につながる価値あるコンテンツを提供していきたいと考えています。

・クライアントのブランディングとサービスをデザインとテクノロジーでサポートする
・クライアントと新しいサービスを開発する
・自社プロジェクトで新しいコンセプトを提案する

……など、さまざまなプロジェクトにチャレンジし、ポスト・インターネット時代のクリエイティブ業界をリードする存在を目指します。

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