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プラスディーが常に考えるのは「仕事を通してどんな価値をつくるか」ということ

WEBや映像の企画・制作、そうしたクリエイティビティを活かした地方創生事業など、ジャンルを横断した活躍をみせるプラスディー。2008年の設立から10年足らずの間に「単なる制作ではなく、価値をつくりだすこと」を軸に事業を拡大し、近年は株式上場を目指すなど、今も変化し続けている。彼らが今後なにを目指すのかについて、チーフプランナー兼コピーライターの田中康紘さん、プランナーの脇慶太朗さん、アソシエイトディレクターの井出史香さんの3人に語ってもらった。
  • 取材・文:梶山ひろみ
  • 撮影:鈴木渉

制作はあくまでも手段。私たちが関わる意義は、本質的な価値をつくることにある。

プラスディーは、CEOの本田晋一郎さんとCOOの白井淳さんのふたりによって設立された。本田さんはWOWOW、カフェグルーヴを、白井さんはソニーミュージック、リクルートエージェントを経ての起業であり、どちらも制作会社の出身ではない。

田中:代表が制作会社出身ではないこともありますが、自分たちのことを制作会社とは名乗ってきませんでした。社是に「世の中をもっと楽しませる」とあるので、制作が絡まないものも含めて、世の中に何かしら新しい価値をつくりだすことを目指しています。もちろん、制作は価値づくりのコアな部分を担う重要なパートですが、あくまでも目的は本質的な価値を生むことだと考えています。

スピーディーな事業拡大も、世の中に提供する価値をより大きくしようという考えによるものだ。2014年には映像コンテンツへの需要拡大を見越して映像会社と合併、現在は地方の企業や自治体にも価値を届けられるようにと地方創生事業に取り組みはじめている。

プランナー 脇慶太朗さん

プランナー 脇慶太朗さん

脇:僕自身、ただ良いものを制作するだけでは満足せずに、それ以上を目指す姿勢に惹かれて入社を決めました。クライアントが自覚している課題に施策を提案するだけでなく、「気づいていらっしゃらないかもしれませんが、これも課題なのでは?」と、こちらから働きかけることもおもしろいですね。

「本質的な価値」が何なのかは、顧客の業界や生活者の好みの変化などによって変わる。評価基準は一概に断定できないため、何を達成すればクライアントのためになるのかをその都度立ち止まって考えるのだという。

田中:デジタル系のプロジェクトで成果を評価するとき、必ずと言って良いほどKPI云々の話が出ますが、個人的にはKPIだけを強調して報告するのはあまり好きではありません。KPIは良かったけれど、本当の価値に繋がらなかった、ということもよくあるからです。たとえば、採用サイトのお手伝いをさせていただくときに、よくKPIにされる数字がエントリー数です。でもエントリー数が増えたとしても、その会社にマッチしない応募者が大半だったり、最終辞退率が高かったりしたら意味がありません。目指すべきは、優秀な人材が必要な人数入社すること。採用サイトの本質的な価値はそこにあるはずです。一般的な評価指標をそのまま受け入れるのではなく、「ちゃんと価値をつくれただろうか」と常に内省的に考えます。

ただの「受託仕事」ではない。あえて顧客の期待からはみ出す提案もする。

どのようにクライアントとの関わりを深めているのか、実際の事例に沿って話を伺った。

2017年2月に、主婦と生活社が発行する女性誌『ar』のWEBマガジンがリニューアルオープン。プラスディーはサイトデザインはもちろん、オープン後のコンテンツの企画・制作まで担当していく。プロジェクトのディレクションを担当した井出さんは、2016年に新卒で入社したばかり。「早く仕事を任せてもらえそうな社風」が入社の決め手だったと語るように、すでにいくつもの案件に携わっているが、今回は新たな発見があったと振り返る。

井出:デザインの提案はすでに何度か経験しているのですが、自分も読んだことのある雑誌の編集部に企画提案するのは新鮮な経験でした。好評だったのはWEBから誌面へと派生する企画。本誌のコンテンツがWEBに転載されることはありますが、WEBから誌面へというコンテンツはまだほとんどありません。そんな新しい流れをこれからつくっていこうと話しています。

アソシエイトディレクター 井出史香さん

アソシエイトディレクター 井出史香さん

『ar』のWEBマガジンリニューアルでは、成果物だけでなく、クライアントとの関係性にも新しさがあったという。

井出:このプロジェクトではひとつうれしいことがありました。通常、WEBサイトには制作者のクレジットは載らないものですよね。でも今回は、雑誌の奥付のようにクレジットページを設け、そこに編集部メンバーと並べてプラスディーの担当メンバーの名前を掲載しようと提案したんです。一緒にメディアをつくっていくパートナーとしての意気込みが伝わり、実際に掲載いただいています。

雑誌とWEBを、真の意味で融合させようという動きは、いわゆる「受託仕事」ではなく文化をつくる糸口を世に提示しているようにも見える。脇さんも、携わった仕事で「WEB」と「リアル」をクロスするアイデアを実現しつつあるという。

脇:SUUMOのキャンペーン『Pops in the City』という企画は特に印象に残っています。この時は18~25歳の若い方々へのブランディングが目的だったのですが、音楽×街をテーマに、アーティストに思い入れのある街の路上や公園など、リアルな場所で歌ってもらったんです。街自体に何があるというよりも、住んでいる人がかっこいいから住みたくなるという動機ってあるじゃないですか? DOTAMA×赤羽、吉澤嘉代子×新代田など、若者に影響力のあるアーティストを起用して、WEB動画コンテンツを展開しました。SUUMOの価値を広げられたと、クライアントからも好評で。このとき、実現は難しそうだなと分かりつつ、リアルライブも提案したんです。クライアントも喜んでくれて、いつかやりたいと盛り上がりましたね。

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企画力を鍛えてきたから、自分の脳ミソを頼られる仕事ができる。

企画力を鍛えてきたから、自分の脳ミソを頼られる仕事ができる。

田中さんもまた、他社ではあまり経験できないユニークな案件を抱えている。現在の職種はプランナー・コピーライターということだが、世に出る文章を書くだけではなく、企画自体を実現させるために必要な「裏方として重要なライティング」にも関わっている。

田中:今年7月に公開予定の映画『銀魂』は、プラスディーの映像事業部で制作を行っています。この映画化の話が上がったときに、関係各所にプレゼンするための企画書づくりに関わりました。映画プロデューサーからプロットやキャスト案、予算規模などの情報を聞き、それを資料化する業務です。作品の特徴が分かるようなコピーを付けたり、作中の重要なアイテムをモチーフにデザインを工夫したりしました。ひとつのプロジェクトでも、企画書は芸能プロダクションや配給会社、版元など、それぞれに宛てて書き分けるのもおもしろかったですね。

チーフプランナー兼コピーライター 田中康紘さん

チーフプランナー兼コピーライター 田中康紘さん

また、最近ではWEBや映像の制作に限らず、その感度や発想力が買われて珍しい仕事の引き受け方もしているそうだ。

田中:あるSNSメディアを運営する会社から、そのメディアの広告主に提案する企画づくりを代行する仕事を請けています。企画が採用されたかどうかに関係なく企画費をいただきますが、採用になったとしても制作発注は確約されていません。昔から「自分の脳ミソを頼られる人になりたい」と思ってきたので、制作とは切り離したことで、純粋に自分のアイデアに金額が付くのはプランナーとしての自信にもつながりますね。

よりスピーディーに、より大きな価値をつくり出すために。

WEBと映像に加え、2016年からは地方創生事業にも参入。クライアントへの本質的課題の解決から、社会的課題の解決へとキャパシティを広げ、これまで培ってきた制作ノウハウを活かしてアプローチしていく予定なのだという。その背景にあるのは「納品したら終わり」になってしまいがちな業界を変えたいという想い。

田中:日本各地には、ECで販売したらヒットしそうな商品を持っているのに人的・金銭的に余裕がなく、足踏みしている企業がたくさんあります。そんな会社に対して、僕らなりにできることがあるんだと気付いたところから、それを事業化していこうという流れが生まれました。そこで始めたのが、サイト制作の初期費用をいただかず、毎月の売上からマージンをいただくモデル。売上が伸びなければタダ働きになるので、僕たちも売上向上に本気になります。お金の代わりに、「時間」や「制作力」を投資している感覚です。

さらに、会社としては今後数年以内にはIPOを目指しているそうだ。会社の設立から合併、事業の拡大と数年単位で急激な進化を遂げるプラスディー。上場を機に、さらなる進化を見据えている。

脇:これまでも様々な事業に手を伸ばしてきましたが、どんなチャレンジにもお金はかかります。自分たちで稼いだ分をその挑戦に投資していくだけでは、どうしても速度に限界がある。だからこそ、上場という形で外部から資本を得て、加速していけたらと思っています。

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田中:IPOは、世の中から求められる価値をつくるために足りない力を、スピード感を持って身につけるための選択です。資本以外には、知名度とそれに紐づく信用も手に入ると考えています。誰かと何か新しいことをしようと持ちかけるとき、相手が自分たちを知ってくれていると反応が全然違いますから、信用は重要な資産だと思っています。

最後に、将来を見据えてどんな人たちと働いていきたいかを伺った。

田中:変わっていくことを楽しめる人がいいですね。会社自体、変化が激しいですし。ものすごく尖っている会社であれば、「今やっていることがベストだし、変える必要はない」というのもアリだと思いますが、僕たちは、自分たちの色を出したいというよりは、世の中に価値を生むというのが起点なので。

脇:僕は、基本となる部分の精度を上げてくれるような人と働きたいですね。いろんなことに手を出していますが、やはりコアな手段は制作で、そのクオリティはとても重要。デザイナー、エンジニアは、常に自分が会社のクオリティを引っ張り上げるんだという意識でいてほしいと思っています。欲を言えば、顧客要望に応えるだけではなく「今はこういうものを使うと世の中にインパクトを与えられますよ」といった提案ができる人たちと働いていきたいですね。

Profile

株式会社プラスディー

プラスディーは、クリエーティブの力でクライアントのビジネスをお手伝いしています。企画・制作するものは、WEBサイトやアプリなどのデジタル領域を中心に、映像や印刷物、リアルイベントなど、多岐にわたります。

これまで、「すべてに“プラスデザイン”を」という理念のもと、ビジュアルのデザイン、ビジネスのデザイン、体験のデザイン、プロセスのデザインなど、あらゆる対象を“デザイン”してきました。テレビ局出身者とレコード会社出身者の2名の代表者が創業したこともあって、いわゆる“制作会社らしい”案件は少な目で、コンテンツやビジネスそのものにまで踏み込んだものづくりを得意としています。

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