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東京にいながら、世界レベルのクリエイティブな刺激を。monopoが実践する「グローバル」な働き方

2020年の東京五輪開催を受けて、インバウンドに目をつけた企業が新しい取り組みに着手している。「世界を代表する制作会社」を標榜するmonopoもそのひとつだ。最近では外国人のスタッフを積極的に登用し、6月に東京のグローバル発信プロジェクト『poweredby.tokyo』を立ち上げた。プロジェクトの経緯と達成したいビジョン、monopoとしての狙いを代表の佐々木芳幸さん、クリエイティブディレクターのチェイス・フェダーさん、制作のリオ・コミンズさんらに話を聞いた。
  • 取材・文:冨手公嘉
  • 撮影:永峰拓也

「世界に通用する制作会社」は、海外進出しなくても実現できる

monopoは数年前から、「世界でも通用する企業」を標榜し海外へ打って出るプランを模索していた。しかし最初からロンドンやニューヨークといった欧米の大都市で日本のいち制作会社がビジネスに関わることに難しさを感じていた。そんな矢先、東京オリンピック開催が決まり、訪日外国人が増えたことに目を付けたという。

佐々木:これまで、国内では大企業をクライアントとしたWEBサイトの制作やブランディングなどを行ってきました。しかし海外、特にクリエイティブの先端をいくロンドンやニューヨークでいきなりビジネスを始めようとしても、僕たちが現地のコミュニティに根ざしているわけではないので、突然割って入ることはできない。存在感を示すには、随分時間がかかると感じたのです。しかし、東京オリンピックの開催が決定して、海外から人の流れや関心が東京に向かっていくことに気がつきました。逆転の発想ですが、僕たちは東京にいながらにして、世界に自分たちの取り組みをアプローチすればいいと確信したのです。

時をほぼ同じくして、佐々木さんの英語の講師を勤めていたチェイスさんから、あるメディアの構想を持ちかけられたという。その話に共感した佐々木さんはチェイスさんをmonopoの社員として迎え入れた。これまでの受託制作ではなく、自社プロジェクトとして、その構想を実現することにしたのだ。

代表取締役 佐々木芳幸さん

代表取締役 佐々木芳幸さん

チェイス:世界から見た東京の印象といえば、浅草、舞妓、寺、相撲、寿司といったキーワードばかりが並べられます。これらは、あくまで既存の伝統的なイメージにすぎません。一方、東京で生活してみると、どんな日本の観光ガイドを見ても、実際に東京で今暮らしている人たちの考え方や気質がダイレクトには反映されていないと感じました。それなら、今の自分たちが東京で生活していて面白いと感じる場所、魅力的なスポットを等身大の目線で紹介していけば海外でも喜ばれると思ったのです。幸い英語の講師を務める前は、クリエイティブディレクターやコピーライターをしていた経験があったので、話を持ちかけてから始動するまであまり時間はかかりませんでした。

制作会社でありながら、海外に目を向けたメディアを自社で運用する。それが制作面で優秀なクリエイターを集める引力になると、佐々木さんは睨んだ。優秀な人材を海外に送ることだけが海外進出というわけではない。「パリジャン」や「ニューヨーカー」という言葉があるように、東京に住むことがクリエイター達にとってステータスになるような街だと、世界にアピールしていきたいという。

佐々木:チェイスの言う通り、東京に住む日本人が観光ガイドを見て違和感を抱くのは、きっと表層的な古いスタイルだけが切り取られているだけで、実際に住んでいる人の視点や、そこから生まれるユニークなカルチャーが軽視されているからだと思ったのです。今自分達が生きている東京という場所のことを、東京に暮らす私たちが世界に向けて正しく提案できていないことにも問題があると思いました。そうであるなら、東京で独自のライフスタイルを持つ人々を出身国や人種を問わず集め、彼ら自身が東京の魅力をダイレクトに発信していくとで、世界の人々にもっと振り向いてもらえるのではないかと考えたのです。

今、世界に打ち出すべき「本当の東京らしさ」とは?

チェイスさんは、「東京の街は15分移動するだけで、まったく違った雰囲気になり、それぞれのカラーがあること」に面白みを感じていた。本当の東京らしさは、「アーバンダイバーシティ」という言葉で形容できると考えたという。そんな背景から立ち上げたプロジェクトが『poweredby.tokyo』だ。

クリエイティブディレクター チェイス・フェダーさん

クリエイティブディレクター チェイス・フェダーさん

チェイス:東京の中でも住む場所や街によってライフスタイルが全然違う。ニューヨークのような「人種の多様性」はなくても、「東京の街そのものに多様性」がある。その多様な価値観を紹介することができれば、実際に東京に生きている人の肌感覚を理解してもらえると思ったのです。ですから『poweredby.tokyo』は単なるショップ紹介にとどめず、「人」を通じて場所・そしてカルチャーを想像させることを意識して運営しています。

あくまでも会社として目指すのは「世界を代表する制作会社」。このプロジェクトの主題は、世界の人々に真の東京の魅力を理解してもらうことですが、monopoにとっては、東京の優秀なクリエイターと繋がりやすい環境をつくることに役立っています。そして、まだ海外にいる優秀なクリエイターを東京に招くことによって、monopoのクリエイティビティ強化にもなると考えています。

佐々木:まだコンテンツを作りはじめたばかりですが、それでも外国人を中心に感度の高いクリエイターたちから「何か手伝えることがないか、このプロジェクトに関わりたい」と、メールが寄せられてきています。きちんと刺さるべきところにリーチしている実感がありますね。

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広告コンテンツはやらない。
目利きとなるクリエイターが面白いと思えるものだけを提案する

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『poweredby.tokyo』は、クリエイティブディレクターのチェイスさんと制作陣であるリオさん、写真家のロバートさんの3名が中心となり、進められている。『poweredby.tokyo』の肝となっている映像や写真へのこだわりは、並大抵のものではない。

写真家 ロバートさん

写真家 ロバートさん

ロバート:僕は元々幼稚園の先生をしていて、個人でフォトグラファーとして作品を撮っていました。今回、チェイスの伝手で紹介してもらって、夏からジョインすることになりました。

リオ:最終的な決定権はチェイスにありますが、企画や場所を提案して問題が無ければそのまま撮影にうつります。週の半分くらいは撮影に費やしていますね。僕ら以外にもサポートしてくれるインターンなどのメンバーもいて、その人達からの提案も受けています。

チェイス:やりたいと言ってくれる人達の感度を信じているので、基本的に信頼のもと、ある程度裁量を持ってもらっています。今はメディアとしてコンテンツを作ることに力を注いでいますが、このWEBメディアをプラットフォームにして、これから実現したいことはたくさんあります。たとえば、ホテルやライブハウス、バーなど、リアルな場づくりもしていきたい。『poweredby.tokyo』のプロジェクトは可能性があるので、そのために今やるべきことをひとつひとつやるという段階です。

一方、代表の佐々木さんは、『poweredby.tokyo』の動きを俯瞰している。ローンチから半年足らずで、Instagramのフォロワー数は既に1万5000人を超えているが、彼の言葉は冷静だ。

制作 リオ・コミンズさん

制作 リオ・コミンズさん

佐々木:僕はクリエイターの“まかない仕事”ほどスゴいものはないと感じています。たとえば、本当はビデオグラフィーを発表したいけど、仕事の場においてはクリエイティブディレクターのポジションを任されて、なかなか発信の機会を持てなかった人が、『poweredby.tokyo』を、色々なチャレンジや実験の場として活用してくれたりもしています。そのようなモチベートされた人達が面白がってメディアを作っているからこその、ダイナミズムを感じていますね。既にいくつかの企業や団体からも、タイアップで広告コンテンツを入れていきたいといった話も持ちかけられつつある。しかし今のところ、従来のWEB広告記事のようなものを作る気はないんです。

とはいえ、長期的に運用していくプロジェクトとなれば、マネタイズは避けられない問題だ。

佐々木:既存のメディアのやり方で回してもきっとこういう純度の高いモノは濁ってしまう。そんなことをしてしまったら、『poweredby.tokyo』のコミュニティの人たちは冷めてしまいます。だからまずは、この純度を落とさずに、一緒になって物事を起こしていこうと支援してくれるパトロンをつけて、運営資金に回していくことを実践していきたいと考えています。既存のWEBメディアの定石に縛られずに、実践しようとしていることの価値を理解してくれる人たちと一緒に作り上げていくことが、本プロジェクトで最も大事にしていることです。

世界中の優れたクリエイターと出会うならmonopoに

『poweredby.tokyo』を立ち上げことで、既存のクライアントワークにも良い波及効果を実感しているようだ。

佐々木:ありがたいことに、『poweredby.tokyo』をみて、「これを作っているメンバーと仕事がしたい」とご連絡くださる方もいます。実際、今クライアントワークを手伝っているスタッフもそのうちのひとりで、ロンドンから東京に移住してきたタイミングで、monopoに連絡してくれました。これまでお付き合いしてきたクライアントさんからの見え方も変わってきたように感じています。世界と同期したクリエイティブが発信できるチームだと認められはじめたことで、別のお仕事の相談をいただけるチャンスも増えてきています。

クライアントワークと自社プロジェクト、2つの両輪が上手く回り始めたことで、monopoを介した人の動きが加速しているのだ。

佐々木:僕が『poweredby.tokyo』を立ち上げて感じたのは、東京には優れた外国人のクリエイターがいるスポットがあるにも関わらず、小さなコミュニティに収まっていて、日本の企業やクリエーターとコラボレーションする機会がまだまだ少ない、ということです。たとえば先日、チェイスと一緒に東京の外国人が集まるバーに足を踏み入れたんです。その時たまたま隣になった人が、世界中で有名なスターばかりを撮影している写真家でした。それにも関わらず、日本企業や団体とのコミュニケーションは少なく、暇を持て余しているような場面に出くわして心底驚きました。一方で、国籍を問わず優れたクリエイターを求めている企業はたくさんある。同じ東京にいるのに、知らないだけで接点がないのはもったいないじゃないですか。だからmonopoが企業と外国人クリエイターの橋渡しの役割を果たしたいですね。面白い人がmonopoを通じてつながるように、世界レベルのクリエイティブな刺激が常にある会社にしていけたらと思います。

Profile

株式会社monopo

ブランディング・広告・PRを中心にさまざまなアイデアを形にし、東京を拠点に世界で戦うクリエイティブエージェンシー。

“A Brand of Collective Creativity”をビジョンに掲げ、皆が持っているアイデアや創造性を共に発揮できるようなコミュニティづくりを目指す。

自社プロジェクト「poweredby.tokyo」では、東京の知られざる魅力を発信。

株式会社monopo

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