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早帰り? 表参道手当? インターセクション流、感性を磨き続ける働き方

洋服ブランドをはじめとした「ファッション」や、スキンケア・コスメブランドなど「ビューティー」と呼ばれるジャンル。これらの領域を軸に多くの広告を手がけるのがインターセクションだ。実績を見ると、名だたるブランドが並び、「これだけ高品質の仕事を続けていたら、さぞかし忙しい会社なのでは?」と疑ってしまう。しかし、実情を聞くと、残業はほとんどなく、むしろ意図的に早く帰る習慣をつけているのだとか。クライアントとの信頼関係を築いてきたからこそ維持できる「メリハリをつけた働き方」の秘密や、良いデザインが生まれる理由について、代表である中野剛さん、グラフィックデザイナーの若江菜奈さん、古川絵里奈さんに伺った。
  • 取材・文:小沢あや
  • 撮影:飯本貴子

日によっては15時に退社!?

今年、設立9年目を迎えるインターセクションは「無理な残業をしない」という社内ルールを貫いている。スタッフにはきちんと自分の時間を持つことを大切にして欲しいと考える、代表の中野さんたってのこだわりだ。

中野:みんな真面目なので、放っておくと働き続けちゃうんですけど、それがすごく嫌で(笑)。うちはビジュアルの企画段階からクライアントと一緒に行うので、半年から1年くらいかけて丁寧にコミュニケーションを取っていきます。長期的なプロジェクトも多いので、忙しい時期がなんとなくわかるというか。「ここが山だから、その前に休んでおこうね」とスタッフへ声をかけたりして調整しています。

代表取締役 中野剛さん

代表取締役 中野剛さん

古川:先週は15時くらいに中野から「来週は忙しいから、今日はもう帰りなよ」と言われました(笑)。そのおかげで、結構時間には余裕ができるんです。普段も平日に好きな映画を観ることができるし、美術館にだって行ける。ファッションやビューティーなどトレンドに影響される仕事なので、本当に嬉しいです。

スタッフのインプットを高めるために、いくつもの工夫を施すインターセクション。彼ららしいワークスタイルは、福利厚生にも表れているのだとか。

中野:なるべく早く帰っていますが、もちろん常に仕事のことも考えています。海外とのやり取りも発生するので、多少時間がズレることもありますけど、そこはうまく調整していますね。あと、月に7000円支給する「表参道手当」という制度があるんです。デザインを磨くためであれば何に使ってもOK。オフィスが表参道ということもあるので、いろんなところに遊びに行って、トレンドを吸収して欲しいと思っていて。

若江:この制度を利用して、普段は手が届かない割高なランチに行ったり、お洒落なところへ足を運んだりするように意識しています。そのせいか、「来月はここ行こう」って、いつの間にか事前にリサーチをするようになりました。余暇で得たインスピレーションが、仕事にも良い影響を与えると思います。アイデア出しの際も、頭の中にストックがたくさんあれば、それを活かせますしね。

日本より、海外と多くやりとりすることも

アパレル関連の広告予算削減など、業界を取り巻く環境は決して良いとは言えない。そんな中、インターセクションは安定した売上を保っている。多くのクライアントから支持され続ける背景には、これまで築いてきた国内外の強固なネットワークと、それに伴うハイクオリティなデザインがあった。

中野:僕は、新卒でアーティストエージェントに就職しました。その会社は、当時日本のファッションエージェントの走りと言われていて。社長や先輩たちに相当鍛えられましたね。今こうして仕事ができているのも、その時に得たノウハウや人との繫がりが大きいです。カメラマンとか、業界内の社長とか。特に親交が深かったのは、エルメスやティファニーの広告を手がけるブラジル人のイラストレーター、フィリペ・ジャルジン。彼とは当時、ルイ・ヴィトンのカタログを一緒に制作していました。現在はパリに住んでいるんですけど、Skypeやメールでよく情報共有をしています。彼のクリエイター仲間が来日すると、僕に会いに来てくれたり。こちらからお仕事を依頼することも多いですね。

イラストレーターであるフィリペ・ジャルジンの作品集

イラストレーターであるフィリペ・ジャルジンの作品集

国内に留まらない交友関係で培ったスキルや人脈が、インターセクションの礎となっているのだ。中野さんはこうも続けた。

中野:日本よりも海外のアートディレクターと交流を図る方が多いです。例えば海外のアーティストが別のお仕事で来日する時に、その日程の前後を調整して、僕たちの仕事を引き受けてくれたり。おかげで、こちらは渡航費の負担なく、ギャランティだけでお仕事を依頼できることもあります。日本の企業は予算が少ないから、海外の人気モデルをなかなか起用できないんです。一流モデルの「そっくりさん」はたくさんいるけど、本人はなかなか呼べない。そんなときは、相手が海外の人であっても僕が直接交渉してブッキングを行うことも多いですね。

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クライアントワークに必要なのは圧倒的なホスピタリティ

クライアントワークに必要なのは圧倒的なホスピタリティ

一般的にデザイン会社では企画が通るまで、何層にも渡るチェック体制がある。社内プレゼンが終わった先にも、代理店やクライアントへのプレゼンが待ち構えているものだが、インターセクションの場合はそれまでの意思決定が早い。その強みはフラットな組織体制にあった。

古川:私は指導を受けるというよりも、気軽に中野とコミュニケーションを取り合っている感じですね。日々作業していて、わからないことが出てきたら、その都度相談する。だから「デザインがすべて完成してから確認する」ということはほとんどありません。

グラフィックデザイナー 古川絵里奈さん

グラフィックデザイナー 古川絵里奈さん

若江:今まで私が働いてきたデザイン会社では、まず社長は手が届かないというか、話せない存在でした。自分の上にはシニアデザイナーがいて、その人のOKを貰う。その後にアートディレクターにOKを貰う。そしてようやく社長へ。企画から決定まで相当な時間がかかりますし、最後に意見が覆されることもありました。今は、相談しながら進められるので、とにかく早いし、効率的だと思います。だから早く帰っていても、デザインのクオリティが担保できているのかもしません。

中野:インターセクションを、誰か1人のトッププレイヤーで成り立つようなチームにはしたくない。みんなが優秀で、みんな違うことを考えていて、全員が集まると強い! みたいなチームを作りたいですね。関係はフラットなんですけど、ダラダラするのではなくて、緊張と緩和をうまく使い分けられるスタッフが多いような気がします。

先生と生徒のような「教える / 教えられる」の関係ではなく、あくまでフラットな関係を築くインターセクション。それは社内だけの話でないという。

中野:制作会社というと下請けのイメージがありますが、弊社のフラットな関係はクライアントに対しても同じ。うちは付き合いの長いクライアントがほとんどです。担当者も、社長や役員のような決定権を持つ方が多いですね。みなさん家族みたいな関係なので、無理のないスケジュールを組むようにしています。

古川:前職では、仕事量が単純に多かったんです。だけど、今は中野が仕事を絞ってきたなかでメンバーに割り振ってくれているので、本当に仕事がやりやすい。だからその分、プレッシャーもありますが(笑)、企画やデザインに集中できるんだと思います。

長期的に付き合うクライアントが多いため、スタッフとの信頼関係を築けているインターセクション。果たして、その秘訣は何なのだろうか。

中野:単発の仕事だけで関係が切れちゃうことがほとんど無いんですよね。うちのホスピタリティは半端ないですよ(笑)。求められたことだけではなく、「こんなものも用意してあげたら喜ばれるんじゃないか」と先回りして提案するんです。

グラフィックデザイナー 若江菜奈さん

グラフィックデザイナー 若江菜奈さん

若江:もちろんデザインありきですが、例えば「このカメラマンが良いですよ」とか「このロケ地は最高です」とか。デザインの周辺だけでなく、その先の展開も示してあげるような。そういうのもまとめてプレゼンテーションするんです。せっかく良いものをつくるなら、お互い気持ちよくお仕事していきたいじゃないですか。

中野:真剣にクライアントやそのブランドの方向性について考えているので、自然とその先の将来まで提案してしまう。逆の立場だったら、そんな人に任せたいなって思いますしね。だから、長く良い関係が継続できているんだと思います。

「魅力的な個の集合体でありたい」、インターセクションの次なる展望とは

「新規クライアントは、年に数社くらい増えればいい」と話す中野さん。量より質を重視するインターセクションだが、新しい取り組みに対して貪欲だ。今後は、若手スタッフを中心としたプロジェクトも増やしていきたいという。

中野:小さく留まっているつもりはないのですが、急激に会社を大きくすることも考えていません。組織としての大きさよりも、お仕事の質をあげていきたい。ホスピタリティもそうですが、動画やWEBなど、アプローチの方法を増やしたいですね。

若江:他にも最近では、コーポレートブランディングのお仕事も増えています。例えば、IT企業をお洒落に見せたいという依頼だったり。ファッションとビューティーが得意だからこそ、そういう新しいお仕事も増えていて。その三輪がうまく回りはじめた感じですね。

中野:今、僕らはアートディレクションをベースにしていて、映像編集やWEB制作に関しては外部の方と組んでお仕事をしています。今後、いろんな専門性のあるスタッフを迎えて、将来的には内製できたらベストですね。

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若江:個人的には企画からプレゼンテーション、そして納品まで全部1人で担当できるようになりたいと思っていて。中野の手を煩わせないデザイナーになるのが直近の目標です。

古川:私はビジュアルディレクションやデジタルサイネージなど、ファッションに関わることにどんどん挑戦していきたいですね。

中野:若江にも古川にも、どんどん前に出ていって欲しい。僕とクライアントが直接話すばかりだと、全部を任せられなくなっちゃうので。もっと積極的に若手を紹介して、彼らへの仕事が増えるといいなと思っています。個々の成長なくして、インターセクションの成長はありません。今後彼らがどんなデザイナーになっていくのか、とても楽しみですね。

Profile

株式会社インターセクション

INTERSECTION TOKYOは、ブランドのシーズンビジュアルの企画・アートディレクションおよび、デザインフィニッシュが主な仕事です。今回は、アシスタントアートディレクターと、グラフッックデザイナーの募集となります。

グラフィック、動画、WEB、SNSなど枠にとらわれず、格好が良く、お洒落なものが好きで、真面目で、ミーハーな方を募集します。「プライベートの時間の充実は、仕事の質を上げる」という意識を全員で持ち、残業、休日出勤を無くし、明るく、デザインに集中出来る環境を心がけています。

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