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音楽フェスや映画祭まで“クソ真面目”にやる理由

株式会社エンタクルグラフィックス

「デザイン会社が映画祭や音楽フェスを開催」「社内のデザイン賞で大賞を獲れば海外研修」。そんな企画が次々と飛び出すのが、設立10年目を迎えるウェブを軸とするデザイン会社「エンタクルグラフィックス」だ。一見すると、“イケイケ”なように思える企画の数々だが、その裏には「ゼロからイチを作り出すことを大切にしたい」という“クソ真面目”な想いが込められている。クライアントワークとプライベートワークが、公私混同することによって生まれるエンタクルグラフィックスのクリエイティブとは。代表の岩田文人さん、制作部マネージャーの相山敏明さん、チーフデザイナーの官川泉さんにお話しを伺った。

取材・文:宮崎智之 撮影:豊島望(2013/11/11)

クリエイティブを濁らせないために

エンタクルグラフィックス(以下、エンタクル)は2004年設立。代表の岩田さんが23歳の時に面接を受けた広告代理店の面接官が、その後同社を一緒に設立した現・取締役の斎藤雅人さんだった。岩田さんは当時、アルバイトとしての入社だったが、すぐにグラフィックデザイナーとして頭角を現してチーフに昇格。その後、役員になる話しが持ち上がったものの、ウェブデザイナーへの転身を決める。

株式会社エンタクルグラフィックス 代表取締役 岩田文人さん

株式会社エンタクルグラフィックス 代表取締役 岩田文人さん

岩田:当時、「紙」から「ウェブ」へと時代がまさに移行しているときでした。ウェブデザイナーとしてはアシスタントに戻ったわけですから、当然給料も落ちましたが、まだ20代だった自分が経営側にまわるのは早いと思いましたし、いろんなことに挑戦したい、という想いもありました。それで必死で新しい知識を吸収し、貪欲に力を付けていって。その後、齋藤と二人で会社を作ることになったのが、この会社のはじまりです。

エンタクルは、斎藤さんがゲーム畑のデザイナー出身だったこともあり、コンシューマー向けゲームなどを中心としたコンテンツやサイト制作に強みを持っている。ゲームコンテンツはリッチであることが前提のため、そうした“魅せる技術”を駆使して手掛けるエンタテインメント系コンテンツの評価も高い。

岩田:エンタクルを立ち上げた時に考えたのが、「できるだけクリエイティブを濁らせたくない」という想いです。様々な人達が介在して、デザイナーやエンジニアは言われた作業をするだけ、という業界にありがちなスタイルは取りたくなかった。もちろん、プロジェクトの進行を管理するディレクター的なポジションは必要でしょう。でも、なるべくならクリエーターを前面に立たせて、クライアントの近くに置きたいという思いがありました。僕はこの会社をつくる前にフリーでも仕事をしていたので、店舗デザインなどを通してお客様と直接やり取りする楽しさを知ったんです。その時に感じた、「クライアントとクリエーターが一緒に作品を作っていく感覚」を自分の会社に持ち込みたかったんです。

エンタクルは社交的なオタク集団!?

「クライアントとクリエーターが一緒に作品を作っていく感覚」を実践するため、エンタクルが採っている制作体制を「一列の発想」と岩田さんは表現する。

岩田:制作にあたっては、上からタテにおりてくるワークフローを採るのではなく、関わっている人すべてが「ヨコ一列」であるべきだと思うんです。デザイナーはデザイン、エンジニアは開発だけをやっていればいいのではなく、それぞれに意見を言えるようにしたいし、デザイナーが音楽好きだったら曲を作ってみてもいいと思う。「デザイナーだから」「エンジニアだから」という役割ありきの発想ではなく、自分の軸を広げていく感覚が大切。だから、「開発しかしないエンジニア」みたいな人は弊社には少ないかもしれませんね。やっぱりチーム全体がフラットな立ち位置で制作に向き合えるようにしたいと、常々思っているんです。その方が、思ってもいなかったようなアイデアが生まれてくるでしょうし。

そこで、いくつかの案件を紹介していただいた。実際に岩田さん自身も既存の役割にとらわれないクリエイティブをいくつも手掛けているのだ。

岩田文人さん

岩田:アクションゲーム『喧嘩番長3~全国制覇~』の公式サイトで公開するFlashの音楽ゲームを手掛けたことがありました。音楽に合わせマウスをクリックするとリーゼントが増えていくというゲームなのですが、それだけでは魅力が伝わらないと思い、『喧嘩じゃないよアタシだよ』という楽曲を作り、ゲーム内で流れるMVをつくりました。作詞は僕で、出演は弊社のスタッフという(笑)。もちろん予算外で勝手にやったことだったんですが、「最高にくだらなくて面白いですね(笑)」と評価していただいて、そのまま採用されることになったんです。

また、ゲーム『侍道3』のCMを公募する企画を手掛けた際にも、シンガーソングライター兼タレントで知られる、やしきたかじん氏の世界観を意識したサンプルムービーを制作し、そこで使用される楽曲で岩田さん自身がボーカルを務めた。このように、できることなら何にでも手を出すのがエンタクル流だが、一方で、コアとなる強みや技術も必要だとも話す。

岩田:少し逆説的ですが、いろんなものに手を出そうとすればするほど、本来持っている専門性を尖らせていかないといけない。やっぱり、デザインや技術でこれだけは誰にも負けない! という部分を己に持っていないと、他のプロ達と一緒にモノはつくれないですからね。だからうちの社員は、それぞれ自分の好きなことを、マニアックなくらい追求していると思います。僕らをどんな集団かって一言で表現するとしたら、「社交的なオタク集団」と例えることがあります(笑)。皆でいるときは「リア充」で音楽フェスも開催するし、いろんなことに首を突っ込むけど、一人でいるときは自分の専門分野にひたすら没頭しているような。

「ゼロからイチをつくる」ための自社主催の映画祭

さらにもう1つ、エンタクルが大切にしているスピリットがある。それは、「ゼロからイチをつくる感覚」だ。

岩田:僕を含めデザイナーもプログラマーも、もともとはモノを作ることが好きで仕方がない人たち。でも、仕事になるとそのことを忘れがちになってしまって、「やらされている」という感覚に陥ってしまう。僕はなるべくそれを払拭したくって。さきほどの「ヨコ一列」を機能させるためにも、「ゼロからイチをつくる」という姿勢が大切だと思っています。デザイナーの仕事って、1の素材を与えられて、それを10や100にしていくというものがほとんどです。もちろん、それはそれでプロフェッショナルではあるんですが、そもそも1の素材をゼロから考え直す、そういったマインドこそが本来クリエーターには必要だと思うし、その方が楽しいと思うんですよ。

とは言え、実際の仕事レベルで「ゼロからイチをつくる」のはそう簡単ではないし、いざ実行してみると「戸惑う」のが大多数かもしれない。そこでエンタクルが社員の「ゼロからイチをつくる」ための能力を養うために行っているのが、プライベートワークの推奨や、自社発信の映画祭や音楽フェスの実施だ。

過去の映画祭のポスター

過去に主催した映画祭のポスター

岩田:映画祭は、ほぼ毎年行っている企画の1つです。社内外から作品を募集し、映画祭当日はお酒を持ち寄って、来場者とコミュニケーションを取りながら作品を楽しみます。普段のクライアントワークとは違い、自分自身の作品をつくる取り組みでもあるので、「ゼロからイチ」を生み出すトレーニングになるんです。また、映画は一人では作れないので、いろんな人を巻き込む必要が出てくるから、自ずとチームワークも鍛えられる。あらかじめメンバーがアサインされているわけでもないし、すべてのゴール設定を自分で決めなければいけない。映画祭自体は、もちろん外に対し「エンタクルはこんな面白いことをやっているんだ!」とアピールする狙いもありますが、社員それぞれがリーダー(監督)となって、ものづくりを成し遂げる、っていう社員教育の意味も大きいんです。

与えられた枠組みだけで仕事をしていると、「この企画にとって本当に適したクリエイティブとはなにか」ということをゼロから考える気持ちは薄れていく。しかし、自社の活動はすべてをゼロから生まなければならず、さらに協力者を募る情熱とバイタリティが要求される。そんな過程を通して、枠組みにとらわれずに作品を産み出す力が養われていくのだ。また、こうした会社全体のイベントを業務として取り組めるようにしているため、忙しい業務の中でもこなすことができ、社員の成長のボトムアップにもつながっていると話す。

やりたいことは、本能的に実践する

そして今年は、エンタクルが主催する音楽フェス「Ciao Festival2013」を開催した。「もちろん、ごっこですよ」と笑って謙遜するが、フェスまで開催するデザイン会社を耳にしたことはあるだろうか。ここでチーフデザイナー官川泉さんと、制作部マネージャーの相山敏明さんにも加わっていただいた。話を聞くと官川さんはこのフェスのために急遽、知人たちとバンドを組んで参戦したという。

官川泉さん

チーフデザイナー 官川泉さん

官川:岩田に「出演してみない?」と声をかけられて、すぐに金髪に染めてアーティストっぽくして(笑)。自分が関わることによって企画が面白くなったり、一緒に取り組む人の技や考え方を盗めたりして楽しかったです。つながるはずがなかった人とつながれるのも、こうした活動の醍醐味ですね。

一声掛けられたから、と言ったら単純ではあるが、好奇心からフェスのステージに立つ。官川さんは今回の参戦に当たって、自身がボーカルを務めるバンドのサイトも制作した。

官川:このサイトでは、菱形のなかに光が動くことによって顔の表情がかわるGIFアニメを埋め込むという表現に挑戦しました。特殊な表現なのでクライアントワークでは提案し切れなかったため、まずはプライベートワークで試してみたんです。サンプルを作ってクライアントに見せることもできますが、せっかくなら成果物として残したい。クライアントワークでできなかったことを個人の活動でやったり、個人の活動でやったことをクライアントワークに活かしてみたり。その双方でフィードバックし、良い循環を生み出しているとは思います。

このような好循環が生まれれば、より高い意識を持って目の前のことに取り組むことができる。社員それぞれが1人のクリエーターとして「ヨコ一列」になったときに、互いの力がより発揮できるともいえよう。そんなエンタクルのスタンスについて相山さんは、こう話す。

相山敏明さん

制作部マネージャー 相山敏明さん

相山:正直言うとアイデアを出すのは誰にでもできます。でも、いろんな人を巻き込みながら、そのアイデアを実際の成果物や形に落とし込んでいくのは、相当骨が折れる(笑)。例えばエンタクルの面接を受けにきた人に、僕はよく「なんでもできる会社です」と紹介します。でも、実際に入ってみると「こんなこと、やっちゃっていいのかな」と自分の殻を破れない人が多い。初めは戸惑うかもしれませんが、フェスをやってみたければ開催すればいいし、サイトで使う曲を自分で作曲しちゃってもいい。もちろん、自由な発想を現実の仕事に落とし込むのにはスキルや経験が必要だけど、それを誰にも頼まれず本能的に実践しちゃうのがエンタクルなんです。

1人では出来ない、エンタクル流マネジメント

もちろん、会社である以上、自由なことばかりではないのも事実だ。売上げを確保しなければ従業員の給料を出すことができない。そこで、エンタクル流のマネジメントとはどういうものなのか聞いてみることにした。

社内風景

社内風景

岩田:もちろん、「ここまでは売り上げてほしい」というラインはあります。僕の仕事は会社を潰さないことですから、その辺はシビアに見ています。ただ、いわゆる「ノルマ」のようにはしたくなくて、「あなたのスキルなら、1か月間働けば、これくらいは稼ぐことができるはず」という目安を提供しているつもりです。やはり1人1人がプロとして、自分の仕事量と時間のバランスを意識して働いてほしいとは思っています。

エンタクルでは、オーバーワークにならぬよう労働時間が標準以上だった場合、アラートを出し、自分の状況を認識させるという。社員それぞれが自身のタスク/進捗状況の判断基準として、理解して欲しいといったことなのだろう。

岩田:やっぱり労働時間が長いのは、この仕事だったら当然みたいな風潮はありますが、「ではなぜ、自分はここまで時間が掛かったのか」ということをもっと意識して欲しい。そうすることで、今自分になにが足りなくて、なにが必要なのかがわかってくれるでしょうし。そういう管理については、徹底してやっていますね。そしておおざっぱな感覚ですが、全体の仕事を100すれば20は自分なりのチャレンジの時間として使ってもらいたいです。僕もそうですがデザイナーであれば、自分のつくりたいものがあるはず。だったら、それをつくれる時間を会社で設けてバックアップするべきだと思うんです。

毎日が文化祭の前日のように

それぞれの「チャレンジ」を評価するためにも、エンタクルでは一年の成果物を対象に審査する社内のデザイン賞を設けている。今年の賞品はアメリカ西海岸への海外研修だ。賞を目指し、社員それぞれが競い合いつつ、より「チャレンジ」に対してのモチベーションを上げるような環境づくりをしている。そんなエンタクルが目指すものとは、なんなのだろうか。

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岩田:理想は文化祭の前日がずっと続いているような状態ですね。みんなで知恵を出し合って、自分たちが本当に良いと思う作品を世に送り出していく。フリーランスで働くのも、仕事の厳しさや責任を勉強する上ではいいと思いますが、会社でやる醍醐味はみんなで力を合わせられるということだと思います。今の僕のミッションは、もっと会社の名前を広めることだと思っています。会社の個性が認知されれば、クライアントも含めて共感してくれる仲間が増え、あの文化祭前日のようなドキドキしたモノづくりを一緒にできるはず。そのためにもスタッフには、それぞれの得意な分野で1等賞をとりつづけてもらいたいです。

相山:いわゆるナショナルクライアントのような仕事も弊社にはありますが、そういった大型案件だけを手掛けたいという人にはエンタクルは向かないかもしれません。それよりも、「こんなことも、あんなこともやってみたい」というバイタリティがある人に向いているでしょうね。そこに制限をかけるようなことは、絶対にないですし。実はエンタクルは、一回辞めた人の出戻りが多かったりするんですよ。それは、自身が「やりたい」ということに関しての機会を与える環境づくりをずっとつくってきた結果だと思っています。

まとめ

“くだらないこと”に対しても、“クソ真面目”に取り組むエンタクルグラフィックス。「プライベートワークとクライアントワーク」という一見、両立しそうにない二つの事柄を上手く絡み合わせることで、クリエイティブに化学反応を起こすマネジメントは見事だと言える。最後に岩田さんは「デザインという考えをもっと広げていきたい」とも話した。それは、“モノ”、“考え”、“人”、“場所”……と、これからもやったことのない未知なる挑戦をやり続けたい、といった想いの表れからだろう。強者がひしめき合うクリエイティブの世界でエンタクルグラフィックスがどのような活躍を見せてくれるのか、今後の飛躍が楽しみで仕方がない。