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「働きたくなかった」気持ちも動いた、意外なところから繋がっていく未来

学生の頃から音楽にどっぷり浸かった生活を送り、今ではアーティストのプロモーションに携わる遠藤さん。取材前に見せて頂いたレコードのコレクションもレアな逸品ばかりで、まさにこの業界が天職のように思えます。しかし話を聞けば、その歩みは紆余曲折の連続。「働きたくなかった」と考えていた学生時代から現在に至るまで、エンタメ業界に20年間携わって来た遠藤さんの仕事観とは。
  • インタビュー・テキスト:田島太陽
  • 撮影:木下夕希

Profile

遠藤泰

1964年生まれ。新卒でNECに入社し、放送機器の製造部署に勤務。27歳でビクターエンタテインメント㈱に転職してから37歳まで、家庭用ゲームの制作ディレクターとしてジャンル問わず数多くの作品に携わる。その後、ミュージシャンの楽曲配信・WEB展開を担当するネットビジネス部に配属。2007年~2010年は傘下の「タイシタレーベルミュージック」でサザンオールスターズの楽曲配信を担当。つい最近までは、並行して女性ボーカルとパンダのプロデューサーによるユニット「PANDA 1/2」のA&Rも担当していた。

学生の頃から音楽にどっぷり浸かった生活を送り、今ではアーティストのプロモーションに携わる遠藤さん。取材前に見せて頂いたレコードのコレクションもレアな逸品ばかりで、まさにこの業界が天職のように思えます。しかし話を聞けば、その歩みは紆余曲折の連続。「働きたくなかった」と考えていた学生時代から現在に至るまで、エンタメ業界に20年間携わって来た遠藤さんの仕事観とは。

社会人3年目、ふと浮かんだ「一生残る体験を与えたい」

—学生の頃はどんな業界に就職活動をされていたんですか?

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遠藤:そもそも「就職する」という感覚が一切なかったんですよ。周りが就活をしている時も、自分がなにをやりたいのか全然分からなかった。というか、一生働かないで生きていたいと思ってたんですよね(笑)。でもそれじゃ食いっぱぐれてしまうから仕方なく採用の資料を見ていたら、NECのパンフレットでリビアとか南極にアンテナを立てている写真を見つけたんです。こうやって世界各地で働くのは面白いなぁと思って採用試験を受けたら、すんなり合格してしまって。

―それで実際に海外に行かれたんですか?

遠藤:いや、いざ入社したら海外に行くのも面倒になって、テレビ局向けの放送機器を作る部署に入りました。でもしばらく働くうちに、映画や音楽のような自分の生活に関係する仕事に携わりたくなったんです。それで、転職活動をしてビクターに入りました。

―生活に関係するものは他にもたくさんありますが、なぜ映画と音楽だったんでしょうか?

遠藤:やっぱり中学・高校時代からずっと接していたというのが大きいと思います。ビートルズから始まってパンクムーブメントも体験していたし、ちょうど国内でも「東京ロッカーズ」が盛り上がっていた時期だったので、どこを見ても刺激だらけだった。映画も名画座なら300円で入れたので、年間200本くらい観てましたね。転職を考えたのも、自分がそれらからインパクトを受けたように、若い人たちに一生残る体験を与えることができたら楽しんじゃないかと思って。

面接での機転が功を奏した? 予想外の配属先

—ビクターに入社してからはどんなことを担当されたんですか?

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遠藤:面接の時に、志願者の中には音楽が好きな人なんて腐るほどいるだろうから、合格するためには他の部分をアピールしなきゃと思って「前職で放送関連機器を扱っていたので、映像や技術の知識もあります」って言ったんです。結果、採用はしてもらえたんですけど、その発言のせいか配属されたのはゲームの部署で。えー!? って思いました(笑)。それが27歳の頃ですね。

—ビクターがゲームを作っていたんですね。

遠藤:当時はファミコンが流行し始めた頃で、そこにビジネスを見いだしたレコード会社も参入していたんです。結局10年くらいはゲームのセクションで制作ディレクターをやっていたのかな。アクションもスポーツも作ったし、あるシューティングゲームでは、せっかくだからウチの新人アーティストに声優をやってもらおうと、当時まだ10代だった菅野美穂さんに声をいれてもらったこともありました。僕は家庭用ゲームについてはまったく無知だったけど、新しい作品を一から生み出してく作業は、どれもすごく面白かった。

—その間、音楽の部署に移りたいとは思いませんでしたか?

遠藤:最初は多少あったけど、音楽部署の場合は歴史もあるから、営業から始めて経験を積んでステップアップしていくという仕組みが確立されてるんです。制作・宣伝・営業それぞれの役割分担もしっかりされているし、ゲームの部署から僕が急に移っても、営業の基本からやらされることはわかっていたので。30歳になってまた一からスタートするんだったら、せっかくディレクターという肩書きも頂けたし、何よりゲーム作りが楽しかったので、このままの部署を続けようという心境でしたね。

—でも30代後半で音楽の部署に移られるんですよね。

遠藤:ビクターがゲームから撤退することになったので、社内の音楽セクションに異動したんです。音楽の世界はまったく未経験だったし、付き合いのあったゲーム会社さんに誘って頂いたりもしていたから、会社を移ってキャリアも生かす選択も考えて、葛藤はかなりありましたね。

—ビクターに残った決め手はなんだったのでしょうか?

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遠藤:決め手というか、社外に出る決断をしなかったというほうが正しいかな。ただ、タイミングはとても良かったと思ってます。

—タイミングと言うと?

遠藤:そこからずっとWEBを対象にしたデジタルプロモーションに関わっているんですけど、僕が異動して来たのが、インターネットが普及して面白くなり始めたのと同時期だったんですよ。どうせ仕事をするなら前例のないことをやったほうがいいと思っているし、運良くそれができる環境に入れたことは本当に恵まれていたと思う。だから巡り合わせの運がたまたまよくて今がある、というのが正直なところなんですよね。

仕事をすれば、未来は意外なところから繋がっていく

—音楽の部署に移ってからはいかがでしたか?

遠藤:主に音楽配信に関する業務を担当したんですけど、ちょうどiTunes Storeの日本版がオープンするタイミングだったり、業界的にも大きな変革期だったんです。PHSへの配信があったり、コンビニでMDに音源を落とすような配信があったり、色んなものが登場しては淘汰されていった時代でしたね。そうした仕事をしていた流れで、2007年からの3年間は、ビクターとアミューズがサザンオールスターズのために立ち上げた「タイシタレーベルミュージック」という合弁会社にいって、サザンの楽曲配信を担当していました。

—変革期の中で、サザンのように業界を代表するアーティストが配信に対してどう舵を取るのか、注目されていたでしょうね。

遠藤:そうですね。もともとサザンは革新的なことを好んでやるアーティストですが、そもそも「音楽を配信で売る」ということについては、パッケージ(CD)を売ることでビジネスを行ってきた業界だけに、大手各社はかなり懐疑的だったんです。そういう「CDの売上げが下がるようなことはしたくない」という考えが主流だった中で、サザンは2008年のデビュー30周年のタイミングで初めて着うたのフル尺配信を解禁したんですよ。それも一気に100曲(笑)。でも、それは大きなプロモーションにもなって、結果的にはCDの売上げにも相乗効果を生み出せたんです。

—大きな業界の中で前例のないことをするのは、本当に難しいんでしょうね。

遠藤:もちろん新しいことは大変だし理解を得られないこともあるけど、それをどうしたら乗り越えられるか考えるのは楽しいですよ。僕はビクターでの20年間で、売れる作品と売れない作品をたくさん見てきたけど、個人的には売れないけど尖っているものがすごく好きなんです。そして、それを売れるように工夫することが面白い。それが原動力だと思っています。

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—遠藤さんが学生の頃考えていたように、働きたくない、働きずらいという感覚を持っている人たちは今もたくさんいると思います。その人たちに向けてなにかアドバイスを頂けますか。

遠藤:僕は学生の頃に触れた映画や音楽のように、自分にとって刺激があるものを作ったり発信したりしてきただけなんです。それを新しい世代の人が見て、将来「あの作品があったから」って思ってもらえたら嬉しいじゃないですか。そんな単純な動機だけで続けてきたけど、不思議と今まで繋がっているんですよね。色んなピンチも悪い時もあったけど、振り返ってみればそれがチャンスだった。ゲーム業界にいた10年間だって、今振り返れば黎明期でしたけど、当時は先行きの分からない不安定な業界でしたから。難しいことはなにも考えずにいた僕が未だにこうして生きているんだから、不安に思う必要なんてないと思うんです。とりあえずなにかしら仕事をすれば、将来は意外なところから繋がっていくものですよ。

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The Pop Group「Y」

色んな映画や音楽の影響は受けたけど、1番インパクトがあったのがこれですね。ファンクベースのリズムにフリーキーなボーカルが乗っていて、アヴァンギャルドになりそうな構成なんだけど、曲としてすごくまとまっている。当時まだ全員10代のメンバーが、スタンダードやセオリーを無視して、とにかく自分たちがやりたいことをブチ込んだっていう思いがビシビシと伝わるんですよ。ここまで生の情熱が詰め込まれた刺激的な音楽がなかなか日本で生まれてこないことに寂しさも感じますね。 ただ、最近一部で話題の八十八ヶ所巡礼というインディーバンドには、何か似たような混沌とした面白さを感じて注目してます。 八十八ヶ所巡礼 Official Site

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ビクターエンタテインメント

創業以来、私たちが一途にやり続けてきたことは、素晴らしい音楽とそれを生み出す魅力的なアーティストを世に発信すること。アーティストに寄り添い、時代の声に耳をすませ、“ここぞ”というタイミングで世の中に送り出してきました。

正直、これからの音楽業界は「今まで通り」のやり方を続けていくだけで生き残っていける世界ではありません。それでも、私たちは「音楽」を軸に、ビジネスを続けていきたい。そのための手段や方法には、マニュアルもなければ、正解もないと思っています。

・いかにしてアーティストの才能を伸ばし、世の中に広めていくのか?
・アーティストの世界観が最も伝わる方法は何なのか?
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今、ビクターには、きっと音楽ファンからも想像つかないいろんな職種で働いている人たちがいます。音楽の聴き方が変化・多様化している今だからこそ既存のやり方に囚われず、柔軟に考えていく必要があります。それに対応できるだけの「仕事」がここにある。だからこそ、「音楽」を軸にした会社であり続けられる。そう信じています。

世界から音楽がなくなることはありません。人が新たな音楽に出会い心を震わせる、その瞬間を、私たちは生み出し続けます。

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