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どうやったらバンドが売れるのか、その道筋を「組み立てる」

10代の頃からCDショップに勤務し、バイヤー業務などを経験した後、現在は、銀杏BOYZ、the telephones、黒猫チェルシー、住所不定無職などのリリースで知られる老舗インディーズレーベルで営業を担当している伊東さん。若さゆえの勢いでここまできたと語る楽観的な彼女ですが、根底にはずっと色褪せない「音楽が好き」という気持ちがあります。インディーズならではの幅広いお仕事、そして入社5年目の葛藤とは?
  • インタビュー・テキスト:栗本千尋+プレスラボ
  • 撮影:木下夕希

Profile

伊東 玲衣

昭和61年生まれ。栃木県宇都宮市出身。栃木県立 白楊高等学校 食品科学科卒業。新星堂、タワーレコードのアルバイト勤務を経て2006年に株式会社ユーケープロジェクトへ入社。現在は営業の傍ら、「THE★米騒動」「your gold, my pink」の2バンドを担当。華やかな風貌は本人曰く、「人と同じファッションが嫌」というこだわりが色濃く反映されている。

バンドを広めるには? アーティストと一緒に考えていく仕事

—まずは、伊東さんのお仕事の内容を教えてください。

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伊東:インディーズレーベルのレコード部門に所属し、営業を担当しています。発売を控えたCDをお店にプロモーションしたり、売り込みに行ったりするのがメインの仕事ですね。他にも、新人発掘から事務雑用まで色々とやりますよ。また、自分が担当しているバンドもいて、CD制作にも関わっています。

―営業としてCDを売るだけではなく、担当のバンドがいて制作にまで携わるというのは珍しい形態ですね。

伊東:そうですね。マネージメントからCD制作、プロモーションまで何でもやる会社だからこそだと思います。もちろん、それぞれに専門の部署はあるんですが。

―伊東さんは現在2つのバンドの制作に関わっているんですよね。そのお仕事は、何をするのですか?

伊東:簡単に言うと、現場の担当窓口です。CDを作ってもそれだけでは売れないので、どんなジャケットがいいのか、どういうところに宣伝や営業をして、どういうライブハウスでどんなアーティストと共演して、それがどのように広がっていくのか…アーティストと一緒に色んなアイデアを出し合っていきます。「ストーリーを考える」という言い方もできるかもしれません。

中学生の頃から、音楽一筋。やる気では誰にも負けなかった

—では、音楽業界を目指しはじめたのは、いつ頃からですか?

伊東:中学生のとき、姉の影響で日本のインディーズバンドが好きになり、ライブに行きはじめて。その頃はタワーレコードのようなCDショップに憧れていました。店員さんのコメントが書かれたポップを見て、実際に試聴してみて買うというのが楽しかったんです。私もみんなが知らない音楽を伝えたいと思いました。

—数年前はネットなどでCDを買うより、ショップで実際に購入するのが主流でしたよね。影響も大きかったんでしょうね。

伊東:その頃は、特にインディーズのバンドだとお店のポップくらいしか情報源がなかったので、貴重な存在でしたね。それで高校生のときに、地元の新星堂でインターンシップをさせてもらったんです。その後、やる気を買ってくれた副店長がアルバイトとして雇ってくれて、販売やポップ作り、インディーズコーナーのバイヤー業務も担当しました。

—̶高校生でバイヤーの仕事もできたのは貴重な体験でしたね。卒業後の進路はどのように決めましたか?

伊東:音楽関連の専門学校に行くか悩んだ時期もありましたが、現場に近い方が業界にも入りやすいのではないかと思い、新星堂に残りました。昼はアルバイトをかけもちして、夜はライブハウスに行く生活を2年ほどしていました。

—では、東京に出てきたのはどのようなきっかけだったんですか?

伊東:実家にずっといてもしょうがないし、自立したいという思いもあったので、20歳になったとき上京することに決めました。すぐに、憧れていたタワーレコードで働くことが決まり、そこでは店頭ではなく裏方の業務をしていました。その半年後に今の会社に入社して、現在に至ります。

—なるほど。CDショップの勤務を経て、レーベルに勤めはじめたのはどんな心境の変化が?

伊東:最初にあったCDショップへの憧れは、徐々に薄れてきて。ゆくゆくは音楽を作る側やレーベルに行きたいという欲が出てきたんです。

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そんな時期に、東京に出てきてから、新星堂でお世話になっていたレーベルの方に「今東京で仕事しています」と連絡をしたところ、「新人のバンドをリリースするから、ライブを見においでよ」と言われたことがあって。そのライブの帰りに一緒に食事に行ったら、そこに現れたのが今の会社の社長でした。私も世間知らずだったので、ため口でベラベラ喋りましたね(笑)。その後、「会社で若い子探しているんだよね」と声をかけてくれたんです。

—その食事会が実質、就職試験のようなものだったのかもしれませんね。

伊東:営業職で元気のいい子を探している中で、ショップの事情をある程度わかっていたのも良かったのかもしれません。レーベルに誘ってもらえるチャンスはなかなかないので、申し出を受けました。

入社5年目、勢いの先をこれから探していくところ

—これまでCDショップ一本で来たわけですが、レーベルに勤めてみてどうでしたか?

伊東:店舗の営業というそれまでとは逆の立場になってみて、壁にぶち当たることも多かったです。「話を聞いてもらえない」という難しさや、「売らなきゃいけない」というプレッシャーもあり、くじけることもありました。会社という組織に入ったのも初めての経験だったので、いろんなことがわかっていなかった。上の人は相当大変だっただろうなと思うし、よく育ててくれたと感謝しています。

—伊東さんは明るくてとてもパワフルな印象を受けますが、くじけるときもあるんですね。

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伊東:ありますよ。特に落ち込むのは、「センスがない」と思ったとき。決められた事だけをやっている分には問題ないのですが。別の人間が担当していたらバンドやCDがもっと売れていたのではと思い、自信がなくなる瞬間があります。会社内でも、「この人はこういうところに長けている」とか、「この人がいなければここは成り立たない」と思うような人はいるんですが、まだ自分にはそれが見つけられていなくて。

—では、どんな人がこの仕事に向いていると思いますか?

伊東:自発的に行動することができる人。好きな気持ちがあれば、無茶なことでも切り開いていけると思うんです。あとは人との繋がりが大事なので、お店の人と仲良くできる人。最終的な「売れる/売れない」の判断はお店の人がするわけですが、「この人がオススメするんなら、話を聞いてみようかな」と思ってもらえることも大事だと思うんです。

—勢いも大事ですが、地道にコミュニケーションをとっていくことも重要なんですね。安全圏を選ぶ人も多いけど、好きだという気持ちに真っ正面からぶち当たれる人は少ないのかもしれません。最後に、伊東さんの今後の目標を教えてください。

伊東:自分が関わっているバンドでたくさんの人を感動させたいですね。もちろん新人発掘や、いいバンドとの出会いもどんどんしていきたいですし。それから、これまでは勢いに乗っかってきましたが、その勢いの先をこれから探さなければいけないと思っています。

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自分にとって音楽は、欠かせない生活の一部。今のお気に入りは、ももいろクローバーZと快速東京。通勤中、移動中、家でも着替えているときなど、様々なシーンで音楽を聴いています。
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