Interview 私としごと

アイドルをバズらせる、仕掛人。

株式会社つばさレコーズ
渡辺 淳之介(音楽レーベル事業部 制作部門 A&R)

現在、アイドルグループ「BiS」のマネージャー兼仕掛け人としてメディアへの露出も増えている渡辺さん。中学2年で不登校になり、バンド活動と遊びに明け暮れ、高校中退ながらも、現役で早稲田大学政経学部に入学した異色の経歴の持ち主だ。BiSの「全裸PV」や「偽新曲ドッキリ」など次々と個性的なプロモーションを行う渡辺さんの発想の源はどこにあるのか。「本当にやりたい事じゃないなら、今すぐ辞めた方がいい」と話す、彼の仕事に対するスタンスとは?

プロフィール

渡辺 淳之介

1984年生まれ。中高一貫式の私立校に進学するもほとんど授業に出ていなかったため、高校2年時に進級できず退学。その後、音楽業界への就職を志し、大検取得を経て学歴のために早稲田大学政経学部へ進学。卒業後、つばさレコーズに入社。A&Rとして若手アーティストの発掘やプロデュースを手掛ける。現在はBiSのマネージャーとして、自らも積極的にメディアに露出し、独特のプロモーション活動で注目を集めている。

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ここ1年は2週間に一度、何か仕掛ける事を考えてきた

—それで、卒業後に念願の音楽業界に入った訳ですね。現在のつばさレコーズではA&Rという肩書きですが、このA&Rというのはどういう仕事なんでしょう?

渡辺:A&Rは「アーティスト・アンド・レパートリー」の略称で、会社によっても変わると思うんですが基本的にはアーティストに関わる全ての責任者という感じです。もともと僕はレコード会社に入る前から、アーティストの裏方で戦略部分に関われることがやりたくて。今はBiSというアイドルを担当しているんですが、発掘からCDの制作、マネージメントまで全てを担っています。

—もともとアイドルをやろうと思っていたんですか?

渡辺 淳之介

渡辺:最初は(BiSのメンバーである)プー・ルイというソロアーティストをプロデュースしていたんですが、あんまり売れないので「もうプー・ルイに好きなことをやらせよう」ということになったんです。そしたら彼女が「アイドルグループをやりたい」って言ってきた。「今までアーティストとして頑張ってきたのになんでアイドル?」と思ったんですけど、泣かず飛ばずだったので試してみるか、と。当時プー・ルイは僕のことがすごい嫌いだったらしくて、僕を困らせようとして言ったみたいですけどね(笑)。

—それでアイドルをやることに抵抗はなかったんですか?

渡辺:ほとんど知識もないので不安はありましたが、漠然とやってみたいなとは思っていました。実際アイドルのマーケットに参入してみると、地下アイドルの現場がすごい盛り上がっていることに気付いたんです。ライブをブッキングしても5〜10人くらいしかお客さんが来なかったのが、アイドルという形で打ち出した途端に最初から3〜40人来てくれた。それまで、自分の中で戦略としてプー・ルイにはアーティストぶって「ニルヴァーナ聞いてましたって言え!」とか言ってたんですけど、それが戦略じゃなかったということに気付いた瞬間でしたね。ソロでやってた時と音楽性は一切変わってないのに、違うマーケットに入ると全く別の捉えられ方をする。こういうことがあるんだって思いました。

—今BiSでは個性的な仕掛けをたくさんやってますよね。

渡辺:一応こうなったら嬉しいよねと思ってやっていますが、大概失敗してますね。今までで一番プロモーションになったのは、BiSが全裸で出演するPVを作ったときなんですけど、あれを戦略として仕掛けたかというと難しいところです。こうやったら面白いよね、くらいで1日1万PVいけばいいかなと思ってたら、30万PV位いっちゃって、完全に試算を間違ってた。だから思うように仕掛けが成功した事例って1回もないんです。僕らはインディーズメーカーなので、予算が無い中でどれだけメジャーの人たちに負けないプロモーションができるか、トライアンドエラーでやっていくしかない。だから2週間に1回は何か話題になるようなことを仕掛ける、というのを目標にこの1年間はやってきました。

—実際に、色々と話題性が出ていると思います。では予算が少ない中で、現実的な売り上げや結果とのバランスはどうやってとっているんですか?

渡辺:絶対に赤字にならないということはもちろん、基本的に超シビアに売り上げは見てますね。ただお金をかければいいものになるとは思っていないので、いかに安くあげるかというのは一番考えている部分でもあります。レーベルの中でもコストカッターって言われてるくらいですから(笑)。

本当にやりたい事じゃないなら、今すぐ辞めたらいい

—渡辺さんが仕事をしていく上で大切にしているポリシーはありますか?

渡辺:常に「面白いか」「面白くないか」は考えてますね。やっぱり少ない予算の中でいかにバズらせるのかを考えると、今は口コミに頼るところが大きい。そのためにはみんなに面白いと思ってもらえるようなアイデアを出さないといけない。ただ、お金があったとしても仕掛けの規模が大きくなるだけで、やっぱり基本スタンスは変わらないと思います。以前は「IDOL」という曲のプロモーションでファンの人を巻き込んだドッキリを仕掛けたんですが、もっと売れたら「日本総ドッキリ計画」とかやってみたいですね(笑)。

—最近では、渡辺さん自身の露出も多いですよね。

渡辺:もちろん、求められて出る事が多いですけど、僕が何しているのかは分かりやすく見えるように意識してやってます。僕もこの業界に入る前は、裏方の人が何やっているのか見たかったので。アーティストを売っていくのは前提として当然ですが、いつかはアラン・マッギーやマルコム・マクラーレンみたいなレジェンドな裏方になりたいんです(笑)。

—では最後に、渡辺さんにとって「仕事」ってなんですか?

渡辺 淳之介

渡辺:そうですね……。これは今、ようやく思えるようになったんですけど、「遊び」ですかね。これで飯食ってるのにこんなこというのもあれですけど、「遊び」みたいに働きたいと思っていますし、そう見られたいとも思っています。だから今は、プライベートの約束をすっぽかしてまで、仕事に取り組んじゃってますね。僕にとっての仕事とは、もうどっぷりと浸かって離れる事ができない薬…、麻薬みたいなものです(笑)。

—それくらい、生活の中で一番のことだと。

渡辺:そう、ほんとどっぷりですね。だから、本当にやりたい事じゃないと思って仕事をやっている人がいるなら、今すぐ辞めた方がいい。だってこの世の中、何してでも食っていけると思うんで。僕は今、自分がやりたい事を仕事にできるって、こんなに楽しいことないなって思うんですよ。だからなにごとも「できない」って言わないで、どんどんやってみて挑戦したほうがいいと思います。「暗いと不平を言うよりも、すすんであかりをつけましょう」って、朝やってる宗教っぽい番組でも言ってましたしね(笑)。

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渡辺 淳之介
上條淳士『TO-Y』
パンクバンドのボーカルがアイドル歌手になる漫画です。大学の時に読んだんですけど、マネージャーがアイドルを育てる裏事情が描いてあって「こういう仕事なんだ」ってイメージを持つきっかけになりました。それまではデヴィッド・ボウイが「火星から来た男」とかいってるのを見て、かっこいいと思ってたんですけど、それを戦略として仕掛けてるレコード会社がいるってことにも気付いた。それを自分でできたら楽しいんじゃないかって思いましたね。今の仕事を目指すきっかけにもなった僕のバイブルです。

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