Interview 私としごと

技術は、「面白さ」を作るためにある

株式会社TBSテレビ
石堂 遼子(技術局 制作技術部)

幼い頃から好きだったテレビの世界で、音声の仕事を担当している石堂遼子さん。彼女は、「面白いテレビを作りたい」という熱い思いを持つことが、技術職にとっても必要だと語る。では、視聴者からは見えづらい、すぐれた番組作りにとって欠かせない「音声」の仕事とは、いったいどんなものなのだろう? 大変だけれど、やりがいも大きいテレビ業界で生きる彼女に、この仕事ならではの楽しさを語っていただいた。

プロフィール

石堂 遼子

1983年、東京都出身。慶應義塾大学 大学院理工学研究科卒業後、株式会社TBSテレビ入社。現在は、技術局 制作技術部にて、音声技術のミキシング業務等を行う。おもな担当番組に『有田とマツコと男と女』、『火曜曲!』、『ライブB』などがある。

アーティストの気持ちに寄り添えた瞬間

—スタジオ収録が中心とお伺いしましたが、石堂さんはどんな番組を担当されているのでしょう?

石堂:バラエティや音楽番組が中心ですね。音声の仕事は、制作にくらべると早い段階で一人立ちするんですが、私が入社2年目の冬に初めてチーフになり、ミキシングも任された番組が『有田とマツコと男と女』です。演者さんたちはもちろん、50人ほどのお客さんがランダムにしゃべる声を拾わなければならないハードな現場だったんですが、番組の立ち上げからチーフを任せてもらっているので、とても良い経験になっています。他には、深夜に月に一回放送している『ライブB』、毎週火曜日に放送中の『火曜曲!』といった音楽番組などを担当しています。

—では、これまでで特に印象的だったエピソードなど教えていただけますか?

石堂 遼子

石堂:印象的となると、テレビ業界を志すきっかけにもなった『水曜どうでしょう』の大泉洋さんとお仕事をさせていただいたことですかね。ずっと憧れていた大泉さんとご一緒したいと周囲にアピールしていたんですが(笑)、ある時「石堂、仕事取ってきたよ」と先輩から言われたんです。そして大泉さんが声優をなさっている、「レイトン教授」というゲームとタイアップした特番のナレーション収録を担当できることになりました。

—大ファンだった方と仕事ができるのは、嬉しいものですよね。

石堂:前の晩から「明日は何を話そう……」って、すごくドキドキしていたんですが、結局「おはようございます」と「おつかれさまでした」という、たった二言しか発せなくて(笑)。

—でも、大泉さんのナレーションを石堂さんの手で世に送り出すことは、出来たと(笑)。

石堂:はい(笑)。音声を担当していて良かった、と思える瞬間でしたね。あと最近も、とても嬉しい出来事があって。『ライブB』でベッキー♪♯さんの「MY FRIEND 〜ありがとう〜」という曲を収録したとき、ミキシングをしながら、その曲と私の気持ちがぴったりシンクロした瞬間があったんです。アーティストの表現と、自分の感性が響き合ったというか、これって言葉ではあまり伝わらないかもしれないんですが、私にとって凄く嬉しい体験でした。

—まさに、ミキサー冥利につきる瞬間というか。

石堂:とはいえ、私がミックスした音とアーティスト自身が気に入ってくれる音は、もちろんイコールではありません。でも「こういう気持ちを伝えたいんじゃないかな」という想像をしながら作るのは、とても楽しいことですね。アーティストの気持ちに寄り添って、できるだけそれを汲み取って伝えていける音声担当になれればと思います。

—そう考えると音声の仕事って、すごく奥が深そうですね。

石堂:あまり目立つ仕事ではないんですが、「音」って視聴者の深層心理に訴えていると思います。ライブのミキシング作業にしても、素人が行うのと、ベテランのミキサーが行うのとでは、テレビに映っている「空間」のイメージまで変わってくるほど違いが出るんですよ。実際の会場が狭かろうと、すごく広い空間に見せることもできる。さらには暑そう、寒そうといった気温の感触まで伝えられるんじゃないかと思っています。視聴者の方は、あまり意識して聴いていないかもしれませんが、「こういう空間なんだろうな」と無意識に感じている印象って、じつは音声が作っていると思うんです。

家族の誰もが楽しめるテレビ番組を

—音声をふくめ、普段見るテレビ番組にはそういった工夫が、たくさん詰まってできあがっているんでしょうね。

石堂:今後はインターネットなどのメディアがさらに台頭してくるのでしょうが、テレビ局が持つ面白い番組を作り続けてきたノウハウは、これからも求められると思うんです。そういった「コンテンツを作る力」はもっともっと活かしていくべきだと思いますね。

—テレビ局が制作した番組が、インターネットなどのいろんな媒体で観られる機会も増えていきそうです。

石堂:ただ、やっぱり私にとっては、一家が集まってお茶の間でテレビを観る、という環境が理想的なんですね。その番組が放送されているときだけは、なんとなくリビングに集まってしまう、そんな番組を作りたいとずっと思い続けています。それは個人的な体験からくる思いもあって。昔、私の家族は、あまり仲が良くなかった時期があったんですが、『水曜どうでしょう』を放送している時間帯はみんなが自然に集まってきて、大笑いしながら観ていたんです。それが私にとっては、ものすごくホッとする時間だったんですよ。

—テレビが家族の絆を深めていたと。

石堂:ああ、お茶の間って、こういうことなんだな、って。そういう思いを抱かせてくれるのが、私が好きなテレビ番組に共通している「良さ」なんです。若い世代も、母親も、サラリーマンも、みんなそろって楽しめるという。今でも、仕事をしていて迷ったときは『水曜どうでしょう』のことを思い出します。すると、テレビにとって大事なものは何なのか、という「本質」のようなものを、もう一度捉え直すことができるんです。

—その「本質」と言いますと?

石堂 遼子

石堂:テレビは面白いかどうかが一番大事だと私は思っていて、面白いものを作るためには、切り捨ててもいい要素もある。その選択をするうえで、『水曜どうでしょう』は基準になるような番組だと思っています。たとえば、この番組には音声スタッフがいませんので、演者さんの声が聞こえづらいこともあるんですが、その際はセリフを字幕スーパーに出して処理したりしてしまいます。でも、面白ければそれで問題ないんです。それを、音声が聞こえないような撮り方はできない、などとこだわってしまうと、かえって面白い場面を逃してしまう危険性もあるんじゃないかと。

—技術ばかりを追い求めると、「面白いものを作る」という、本来の目的を見失ってしまうと。

石堂:もちろん技術的なクオリティを高めることも大事ですし、プロとして恥ずかしくない、良質な音声に仕上げることを心がけていますが、そこだけが本質ではないと思うんです。たとえば、番組の予算が限られていた場合に、音声班でお金を使ってしまうことで他の何か大事な要素に予算が回らなくなるのは意味がないでしょうし。技術スタッフは、私だけでなくみんなが、そういう考えを持っていると思いますよ。

—そうした面白い番組を作っていこうという気持ちが、支えていると。

石堂:もちろん、キツいときもありますけどね。でも、大学のとき一緒にアカペラサークルにいて、他のテレビ局に入社した友達が、「テレビの仕事ってライブの準備の100倍大変だけど、10,000倍面白いよ!」って言っていたんですよ。いまでもその言葉は、「まさに!」って思うし、大変かもしれないけど、そのぶん楽しいことが待っているから、頑張ることができるのかな。

—では今の石堂さんにとって、仕事とはどんな存在でしょうか?

石堂:完璧に人生そのものになっていますね。番組作りは面白いですし、先輩も楽しい方ばかりなので、飽きることがないんです。楽しいと思える仕事で、お金をもらえているなんて、私ってラッキーだなって思いますよ。なので、そんな現状に感謝しつつ、これからも頑張っていきたいですね。

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石堂 遼子
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アクセサリーやネイルアートが好きなんですが、いまハマっているのはイヤリング作りです。私が好みのアシンメトリーのイヤリングって、買おうと思っても全然見つからないので、じゃあ自分で作ろうと。部品だけを買ってきて、夜中に一人でペンチでくっつけたりしています(笑)。ふだん目まぐるしい生活を送っているので、そうやって無心になれる時間は貴重なんです。「自分で作ったように見えない!」って言われるのが、一番嬉しいですね。

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