Interview 私としごと

イチから立ち上げたライブハウス、全力で目指す『最高の環境』

株式会社スペースシャワーネットワーク
三條 亜也子(ライブハウス事業室 WWWプロジェクト Booking & PR)

CDが売れないと言われて久しいが、ライブハウスでは最高潮のステージが繰り広げられ、両手を挙げてそれを楽しむ観客の姿を毎夜見ることができる。2010年11月に誕生した、スペースシャワーTVが運営するライブハウス「渋谷WWW」もそんな現場のひとつだ。CD不況の影響から「ライブ」を重要視する声も高まるなか、その現場を職場にすることにはどんな苦労や楽しみがあるのか。正社員として「渋谷WWW」に勤務し、プッキング・PRを担当する三條亜也子さんに話を聞いた。

プロフィール

三條 亜也子

1987年2月生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、新卒で株式会社スペースシャワーネットワークに入社。夏フェスやライブイベントを企画する音楽事業部を経て、2010年より新設されたライブハウス事業部に配属。オープン以前より「渋谷WWW」に携わる。この取材を受けることを、WWWとも縁のあるアーティスト・渋谷慶一郎氏に話したところ「お前で大丈夫かよ!」と心配されたそう。

インタビュー・テキスト:田島太陽 撮影:柏井万作(2011/10/11)

入社の決めては、開口一番の「ダメ出し」

—まず、スペースシャワーTVに入社した理由から教えてください。

三條:学生の頃、好きなミュージシャンの故郷を訪ねる旅をしていて、Sigur RósやBjörkが好きだった影響でアイスランドに旅行したことがあるんです。首都のレイキャビクから車で7時間かけて氷河湖に向かっていた時に、外の風景を眺めながらiPodで音楽を聴いていたら、いつもとは全然違う聴こえ方がして。環境や一緒にいる人によって音楽はこんなもに変わるんだ!ということを改めて実感しました。そこから、最高の環境で最高の人たちと音楽を聴ける場所を作りたいと思うようになったことがきっかけですね。その時の圧倒的な体験に突き動かされてきた感じです。

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—音楽以外の仕事に就くことはまったく考えなかったですか?

三條:映画も好きだったので配給会社も受けていて、内定も頂いていました。それでどちらに入社するか悩んだんですけど、スペースシャワーTVの面接では部屋に入るとすぐ、面接官の方が私の履歴書に対して「こんな文章の書き方じゃ人生損するぞ!」と言ってきて。本当にいきなりだったのでびっくりしたんですけど、ショックよりも大幅に興味が上回りました。こういう人がいる会社で働いたら面白いだろうなって。そこで今の会社に入ることを決めました。

—はじめはどんな業務を担当されていたんですか?

三條:入社後は、毎年夏に山中湖で開催される野外イベント『SWEET LOVE SHOWER』やライブイベントの『スペースシャワー列伝』などを企画する音楽事業部(当時名称)というところに配属されました。「音楽が鳴る現場を作りたい」という希望通りの道に進めました。

—その後、ライブハウス事業部への異動は自ら志願したそうですね。その理由なんだったんでしょうか?

三條:入社して半年経った頃にライブハウス事業部について話を聞く機会があり、ライブ会場を内装からプランニングする、一から環境を作るということに興味が湧いたんです。そんな経験はなかなかできないと思ったし、そこでなにが起こるのか見たくなりました。

室温、照明のタイミング、些細なことで変わる居心地の良さ

—そこからオープンに向けて準備を進める中で、大変だったことはなんですか?

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三條:私が配属になった段階ではまだ賃貸の契約が済んだだけで、環境づくりに関してはほとんど手つかずの状態だったんです。そこから少しずつ作り上げていったので、正直大変なことばかりでした。特に防音対策には想像以上に骨を折りました。上の階が映画館なので、深夜に爆音で曲を流してみて、劇場でチェックしたり。当時はわからないことだらけだったので、ただ無我夢中に取り組んでいました。

—では、現在の業務を教えてください。

三條:ブッキングと広報が主ですね。主催イベントを企画したり、プレスリリースを作成してニュースサイトなどに公演の告知をお願いしたり。一つ一つの公演のブッキング窓口としてスケジュールの管理をしたり、内覧の方の案内や公演終了後の精算を担当しています。

—WWWは、客席が階段状になっていたり、他のライブハウスとは違う独特の雰囲気がありますよね。

三條:そうなんです。ほかにも、グランドピアノがあったり、天井が高いのでプロジェクターで投影する映像が映えやすいって利点があったりと、特徴のあるライブハウスだと思うんです。特に音響にはこだわっていて、フジロックやDOMMUNEでも使われている「FUNKTION-ONE」というイギリス製のスピーカーを、本国と同じ240Vで鳴らしているので、音を肌で感じることができますよ。最近流行っているダブステップは、イギリスだとライブ会場で耳栓が配られることもあるくらい大音量で鳴らすのが主流らしいんですが、その環境にかなり近い空間が作れると思います。

—学生の頃に「最高の環境で音楽が聴ける場所をつくりたい」と考えていた理想通りの道に進めているんですね。

三條:そうですね、でも本当にタイミングがよくてラッキーだっただけです。すごく恵まれたこの環境の中で、毎日果てしなく思える失敗と反省を繰り返しています(笑)。

—それは例えばどんなことですか?

三條:お客さんとしてライブを観ていた頃は、なんとなく居心地がいいと感じることはあっても、その理由をちゃんと考えたことはなかったんです。でも今は運営する側として、居心地の良さの理由や、どうしたら理想の環境ができるかを丁寧に一つ一つ突き詰めなきゃいけない。例えば室温が少し低いだけでも、照明がお客さんの顔を照らす明るさひとつでも、音に集中できないことがあります。それら全てをコントロールすることはもちろんできませんが、気持ちよくなるセッティングに細かいところまで気を配る。最近はTwitterでライブの感想をツイートしてくれる人も多いので、それも参考にしています。

間近で見た、アーティストがアーティストになる瞬間

—ホスピタリティを考えるのと同時に、お客さんを集めることも大事な仕事かと思うのですが、PRや集客で難しいことや、プレッシャーを感じることはないですか?

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三條:それはもちろんあります。スケジュールがなかなか埋まっていかない時もそうだし、主催イベントでの集客は特に気になります。前売券が開催日直前まであまり売れないこともあるので、ギリギリまでずっとドキドキです。初めて私が企画したイベントの時も前売りがほとんど動かなくて、色々な人に相談したりアイディアをひねり出して、とにかく最後まであきらめず1人でも多くのお客さんにいらしてもらえるよう努力した結果、当日だけで100名以上の方が来てくれました。

—そう思うと、毎日が緊張状態ですね。

三條:そうですね。ただ、その初めての企画の時に、楽屋に出番前のアーティストさんを呼びに行ったら、リハーサルとは全然違う顔つきになっていて、アーティストってものを初めて間近で感じた気がしたんです。その時、上司に言われたのは「アーティストはお客さんが多くても少なくても、ベストなパフォーマンスをすることに集中する」という一言。ライブはステージ上の人間、楽器、お客さん、スタッフ、それらの環境全てのバイブレーションの交換によって発生する生き物です。私はそこにお客さんを呼びたいと思って企画を組みます。だから最後までお客さんを入れることを諦めちゃいけない、できることは全部やるんだと改めて思いましたね。

—「好きなことは仕事にしないほうがいい」とはよく言われますよね。三條さんは学生の頃から好きだった音楽に関わる仕事に就いてみて、音楽がイヤになることはないですか?

三條:大変な事はたくさんあるけど、嫌いになったりイヤになったことは一度もないんです。何の経験もないのに企画を組ませてもらったり、素敵なアーティストさんをブッキングさせてもらったりしていて、これは今の環境があってこそなんです。私だけの力では絶対にあり得ない状況にいる。だからこそ、どんなことがあっても、最高のイベント、最高のパーティだった!と自信を持って誇れるイベントをたくさん成功させてからじゃないと、離れられません。

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Ryoichi Kurokawa - rheo: 5 horizons, Audiovisual Installation 2010

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