Interview 私としごと

「好きなものを、つくる」から「世の中のために、なる」へ

ドローイングアンドマニュアル株式会社
小原 穣(ディレクター)

人が大きな決断にいたるとき、石橋を叩いて渡るか、直感を信じて突き進むか。大きく言って、この2つのタイプがあるとすれば、今回ご登場いただく小原 穣さんは、間違いなく後者だろう。プロダクションマネージャー、映像ディレクターのアシスタント、WEBデザイナーを経て、現在はドローイングアンドマニュアルで映像ディレクターとして活躍中。その都度立場は違えど、常に小原さんを突き動かしてきたのは、映像に対する強い想いと、「この出会いはチャンス」という自分の感覚を信じた行動力だった。さまざまな現場に飛び込み、たゆまず積み重ねてきた彼だからこそ見える景色を、垣間見させてもらった。

プロフィール

小原 穣

1981年神奈川県生まれ。2004年慶応義塾大学卒業後、CM制作会社である株式会社スプーンに入社。その後、フリーのCM・映像ディレクター菊池久志氏に師事。映像業界を経験していく中で、インタラクティブな表現に興味を持ち、株式会社ティー・ワイ・オーに入社。WEBデザイナーとして、サイトのデザインやコンテンツ制作に携わる。2011年ドローイングアンドマニュアル株式会社に参画。企業や商品のコンセプト厶ービー、CM映像の制作・ディレクションを務める。

インタビュー・テキスト:大森菜央 撮影:すがわらよしみ(2012/3/16)

憧れの人と仕事をするために会社を選んだ

—高校卒業後、美大ではなく慶応大学へ進学されてらっしゃいますが、映像の世界を志したきっかけを教えてください。

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小原:大学に入るまで、何をやりたいとか特に決めていなかったんです。ただ、もともと音楽が好きだったのでPVなどはいろいろ見ていたんですね。ちょうどそのころはインターネットで海外の作品などが見られるようになってきた時期で、そこから興味をもつようになっていったというのはあります。ミシェル・ゴンドリーやスパイク・ジョーンズなどが頭角をあらわし始めていて、彼らのワンアイデアってすごくおもしろいなって。それと大学では環境情報学部に在籍し、社会学を専攻していたんですが、そこではコンピュータや建築、デザイン、映像など、さまざまなカリキュラムがあって、メディアクリエイター佐藤雅彦さんの広告の授業などを受けていくなかで、映像っておもしろいなあと思うようになっていったんです。

—なるほど、最初に入社されたのはどのような会社だったのでしょうか?

小原:いくつか映像の制作会社を受けたんですけど、新卒でスプーンという会社に入社しました。そのころ、スプーンがつくった資生堂「uno」のCMなどで井上雄彦さんを起用していたんです。僕、『スラムダンク』とか『バカボンド』とか、井上さんの作品がすごく好きで、ここに入ったら井上さんと仕事ができるかもな……って安易な考えもありつつ(笑)。でもそしたら本当に、井上さんが新聞各紙に「1億冊の感謝をこめて。」という全面広告をうった企画や、高校の黒板に『スラムダンク』のアフターストーリーを書いた『あれから10 日後』のメイキングなどに運良く関わることができて。当初の目標はだいぶ早めに達成されました(笑)。

―いきなり、すごいですね。具体的にはどんなお仕事をされていたんですか?

小原:スプーンはいわゆるCM制作会社になるんですけど、僕はプロダクションマネージャーとして働いていました。業務としては、スタッフィングやスケジュール管理をはじめとする、いわばCM制作におけるなんでも屋。わりと監督に近い立場で映像制作に関わることができる、サポート的な立場でしたね。ここでは、映像に必要な基本的な知識やフローを学ぶことができたのが、とても大きかったです。仕事の依頼がきて、どうやって撮影までもっていって、最終的な編集を行っていくかまでの流れ。学生時代も友人と映像をつくったりはしていましたが、そういったプロセスを全然わかっていなかったので。

それぞれの可能性を信じて、突き進んだ道

―かなり順風満帆に見えますが、その後フリーの映像ディレクターのもとでアシスタントになられたそうですね。

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小原:もちろん迷いはありました。もともとディレクターになりたいという気持ちはありましたが、スプーンにいれば、いわゆる業界的にいい仕事ができて、さまざまな監督との仕事を通じて自分の幅を広げることもできる。でも、何回か仕事をした菊池久志さんという映像ディレクターの方に「アシスタントをやらないか」って声をかけてもらって、なりたい職種にいちばん近いポジションにいることで、ディレクターとしての道が開けるかな、と思ったんです。それでひとまず後先考えずに飛び込んだほうがいいだろう、って。菊池さんのもとでは、モーショングラフィックやアニメーションの制作、編集の技術など、いろいろなことを学ばせていただきました。特に教えてもらえるわけではないので、「これやっておいて」って言われたら、たとえやったことがなかったとしても、自分でイチからやってみる。だから本当に叩き上げです(笑)。厳しい方であることはわかっていたし、給料をきちんともらえるかたちでもなかったんですけどね。でも、そんななかで、ものづくりにおける姿勢や丁寧な仕事ぶりなど、菊池さんには背中から多くのことを学ばせていただきました。

—目標に近い環境にいながら、次にWEBデザイナーとして転職されたと伺いましたが、どのような心境の変化があったのでしょうか?

小原:菊池さんのもとで働いているときに、自分でポートフォリオサイトやFlashでアニメーションをつくったりしていたんですね。そこでだんだん映像とインタラクティブ表現を絡めたようなことをしてみたい、と思うようになって。ちょうどそんなタイミングで子どもができたということもあり、アシスタントのままでは食っていけない、という現実にも直面したんです。そこで、いい機会だからWEB業界にいってみよう、って。まあ、また思いつきでもあるんですけど(笑)。

—映像とWEB業界では、けっこう畑も違いますよね?

小原:WEBが持つ可能性って、すごく大きいと思うんですね。ただ、純粋にいいものをつくりたいという想いでWEB制作を行ってる人たちって、案外少ないような気もしていて。たとえば新しい技術が出てきたら、いち早くそれに飛びついておもしろいプロモーションができた人の勝ちで、結局業界のなかにいる人にしか響いていかないような。本来そうではなくて、その先にいるユーザーを意識することが大切で、技術ではなく人の心に響くか響かないか。その純粋なところだと思うんです。とはいえ僕もWEB業界に入ったときは、実際そういう新しい技術に憧れていた部分もあったんですけど(笑)。どんどん新しいものが出てくる業界で、それをしっかりとキャッチして発信していくことで、爆発的にいろんな人に支持されるおもしろさといいますか。

—ええ、WEBの特性の一面かもしれませんね。

小原:WEBって、コンテンツや技術を入れる箱のようなものだと思うんです。おもしろい使い方はできるけど、人を感化させるようなことはなかなか難しい。やっぱり自分自身影響を受けたり感動したものって、映像が多かったんですよね。もともと映像が好きでこの世界を目指してきたわけで、次第にその想いの根底に立ち返りたい、と思うようになっていったんです。

これからの道筋を照らしてくれた、一つの作品

—そんなときに「もう一度、映像に」という想いにさせてくれた作品との出会いがあったそうですね。

小原:はい。その作品がドローイングアンドマニュアルで制作を手掛けたNTT docomoのCM「森の木琴」でした。この作品を見たとき、心のなかでつかえていた何かがすべて払拭された気がしたんです。もう何日も帰っていない状態でこの作品を目にして、まさにグサッと刺さったというか……。うまく言葉にできないんですけど、「やっぱり映像をやりたいんだな」って。映像の世界を志したあのときの想いと、いま自分が本当につくりたいもの、それらを結びつけ、これからの道を照らしてくれる力を感じたんですよね。それでその後すぐに連絡をして。映像業界に戻るというよりは、「森の木琴」をつくったドローイングアンドマニュアルで働きたい、そう思ったんです。

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—WEB制作の経験を経て、また映像をつくりはじめるわけですが、何か変化はありましたか?

小原:WEBの仕事をしているときは、たくさんのものをつくってはいるけど、大して誰のためにもならないものをつくってるんじゃないか、という疑問が常にあったんですよね。でも、たとえば間伐材を利用した携帯電話のプロモーションとしてつくった「森の木琴」では、木を間伐することで森林が元気になるというメッセージが映像の先にあり、見た人に訴えかけてくる。震災の影響もあると思いますし、自分自身に子どもができて家族を持ったことも大きいと思うんですが、最近ではとくに「世の中のためになること」や「次の世代に何かを残していくこと」を意識していないと、やっている意味がないと感じるようになってきています。「おもしろいものをつくりたい」という想いが、「世の中のためになるものをつくりたい」という考えに結びついたんですね。もちろん仕事ですから、すべて世の中のためにというわけにはいきません。でも、日々そういった意識で取り組んでいれば、クライアントだって動かすことができるし、結果として目指したものがカタチになっていくと思います。

—なるほど。本当に小原さんはスタンスが一貫されてますよね。

小原:僕は幸運なことに、これまでその瞬間瞬間でいつも、出会うべき人やモノに出会っていると感じていて。そして、その出会いをチャンスに変えるために、なるべくすぐに行動してきました。そこで足踏みをしてしまうと、せっかくのチャンスも逃げていってしまうと思っているので。きっといろんな考えがあると思うんですけど、その仕事に足を踏み入れたいという気持ちが1mmでもあったら、自分の感覚を信じてみる。そう思ってここまでやってきましたし、その想いはこれからも変わらないと思います。

—では最後に、小原さんにとって映像とはどんな存在ですか?

小原:自分が影響を受けてきたものであり、これからもいろいろな人に影響を与えていくもの。映像っていちばん人の心を動かせるものなんじゃないかなって思うんです。「映像」って英語でいうと、“MOVE=動かす”、そこに“I”を加えて、“MOVIE=動画”になるんですよね。この単語の成り立ちを、僕は“感動させる”という意味からきていると思っています。

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小原 穣
Baths / Cerulean
LA出身のアーティスト、ウィル・ワイゼンフェルドによるソロプロジェクトBaths。僕がいまいちばん行きたいのが彼のライブ。エレクトロニカに若干ポップなテイストがプラスされたような感じで、昔のThe Soft Pink Truthにちょっと近い雰囲気かな。声もすごくきれいなんですよ。先日、渋谷のタワーレコードに行った時に、久しぶりに買ったCDです。視聴して即、衝動買いしてしまいました。

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