Column 連載

その仕事、やめる?やめない?

人事からコピーライターへ。電通・阿部広太郎が実践した、社内転職という選択

「君はコピーライターに向いていない」。先輩にそう言われてもコピーライターになることへの夢を諦めずに叶えてみせた、株式会社電通の阿部広太郎さん。かつては人事局に所属していたが、いまでは広告コピーだけでなく、作詞、映画のプロデュースなど幅広い仕事を手がける売れっ子のコピーライターだ。人事とコピーライターはまったくの異職種だが、どのようにして夢を叶えたのだろうか。好きなことと仕事のどちらを取るかで悩むすべての人に贈る連載、「その仕事、やめる?やめない?」の第三回目。新卒から同じ企業にいながらも、「やりたいこと」を体現し続けてきた阿部さんに話を聞いた。

プロフィール

阿部 広太郎

株式会社電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター コピーライター/プロデューサー。1986年生まれ。人事局に配属後、入社2年目からコピーライターに。コピー、作詞、脚本などの「言葉」を企画し、エンタメ領域からソーシャル領域まで境界を越えてコンテンツのプロデュースを行う。映画『アイスと雨音』『君が君で君だ』、舞台『みみばしる』プロデューサー。BUKATSUDO講座 「企画でメシを食っていく」主宰。著書に『待っていても、はじまらない。-潔く前に進め』(弘文堂)。

取材・文:辻本力 編集・撮影:吉田真也(CINRA)(2019/12/3)

コピーライターの「コ」の字も頭になかった。アメフト男子がクリエイティブに目覚めた瞬間

阿部さんは広告のコピーライターだけに止まらず、企画する力をはぐくみながら仲間を見つけられる場「企画でメシを食っていく」を主催するなど、クリエイティブな活動をオンオフ問わず行なっている。しかし、かつては、「自ら何かを生み出す仕事」には縁がないと思っていたそうだ。

阿部:学生時代は、コピーライターの「コ」の字も頭にありませんでした。中学からアメフトをやっていて身体がデカかったぼくは、OB訪問とかでも「君は体力ありそうだから、営業が向いてそうだね」などとよく言われていました。ぼく自身もそう思っていましたね。

株式会社電通 コピーライターの阿部広太郎さん

株式会社電通 コピーライターの阿部広太郎さん

アメフトをとおして、チームやスタッフ、観客たちと一体になる感覚に魅力を感じていたことから「世の中に一体感をつくる仕事がしたい」と考えた。広告業界ならそういった仕事ができそうだと感じ、2008年に電通に入社。就職した阿部さんが最初に働くことになったのは人事局だったという。

阿部:人事での仕事に不満はありませんでしたし、やりがいも感じていました。でも、入社1年目の夏に担当した学生インターンシップが、のちのぼくの人生を大きく変えることになったんです。

自分と2、3歳しか変わらない学生たちが、おそろしく輝いて見えたんですよね。講師からもらった課題に対して企画を立てて、キラキラした目で積極的にプレゼンテーションしている。そんな彼らを、ぼくは後ろからビデオカメラでただ撮影しているだけ……。

そのときの自分が感じていたのは、猛烈なジェラシーでした。勝手に「自分はつくり手に向いてない」と決めつけて、挑戦することすら諦めていた自分が情けなくて。心の奥底で火種がくすぶるように、ずっとクリエイティブなことがやりたいと思っていた自分に初めて気づいた瞬間でした。

「君はコピーライターに向いてない」。先輩にそう言われながらも、もがき続けた日々

自分の考えたアイデアや企画で、世界の温度が上がるようなことをしてみたい——。そうした思いに突き動かされた阿部さんは、クリエイティブ系の部署への転局を目指すことにした。約4か月後に迫った、社内の転局制度「クリエイティブ試験」突破が当座の目標となり、猛勉強を始めた。

阿部:人事という立場上、大先輩のクリエイティブディレクターと知り合う機会があったんです。その人に頼み込んで、課題を出してもらい、コピーを書いて、ランチの時間に講評をもらうという特別レッスンをしていただいて。

でも、ダメ出しを食らうばかりでしたね。ある日の帰り道、「君は向いてないね」「クリエイティブの気持ちがわかる営業になってよ」なんて言われて……。相当へこみました。

けれど、簡単に良いコピーが書けてしまうほど、たやすく叶う夢ではないこともわかっていました。だからこそ、「自分の可能性を決めるのは、他人じゃなくて自分である」という信念は揺らがず、「なにくそ! 向いてるか向いてないかじゃなくて、やりたいかやりたくないかだ!」と思いながら勉強を続けました。

そして、入社2年目の春。努力の甲斐あって、無事試験を通過した阿部さんは、2009年にコピーライターのセクションに異動することになる。一見すると順風満帆なように見えるが、目標だったコピーライターになった彼を待っていたのは、日に日に募る焦りともどかしさをやり過ごす日々だった。

阿部:コピーライターという肩書きを手に入れて、周りからも「すごいね」と言ってもらえて嬉しかった。ですが実際は、「同期のコピーライターの企画が採用された」なんて話を聞いては焦る日々でした。

同じ案件を担当する先輩の書くコピーに圧倒させられるばかりで、自分のコピーは採用されるどころか、かすりもしない。このままで大丈夫なんだろうかと思いつつ、社会人になって社外の同期と会うのが楽しくもあり、週末は飲み会ばかりしていましたね。

で、ある夜、帰り道に猛烈に虚しくなって、火照った顔に夜風がめちゃくちゃ冷たくて……。その後、音楽ユニットMOROHAの『革命』という曲を知るんですが、歌詞がまさにその頃の自分のことを歌っているようで、いまでも苦しいときに聞いてます。


MOROHA『革命』

阿部:そんなやりきれない日々を過ごしていくなかで、次第に「誰がどんな仕事をしてるとか、噂をしている場合じゃない」と気づいたんです。「飲み会で瞬間の気持ちを消費するばかりではダメだ。ちゃんと胸を張れる仕事をしなきゃ」と。社外の同期たちとも飲み会じゃなくて、いつか仕事の場で出会いたいと思うようになり、気持ちを新たにふたたび勉強の毎日が始まりました。

週末はコピーライター養成講座にかよって、時間があれば過去の名作コピーを読み、ひたすら書き写しをしていました。いまでもそのノートはカバンに入れて持ち歩いています。

ノートには、当時コピー年鑑から写経したコピーがびっちりと刻まれている

ノートには、当時コピー年鑑から写経したコピーがびっちりと刻まれている

同じ会社に在籍し続けるという選択もある。「理想の職場」は自分でつくるもの

そうした地道な努力が実り、2012年には全国統一高校生テストのポスターで、コピーライターの登竜門ともいわれる「TCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞」を受賞。以降も、優れたコピーと企画力を武器に、広告業界の最前線で活躍を続けている。新卒で入った電通にいまも在籍しているが、阿部さんなら独立やフリーランスになることも可能なはず。これまで、電通から離れることを考えたことはないのだろうか。

阿部:もちろん、可能性として頭をよぎる時期もありました。うまくいかないこともたくさんありますし、長く働いていて、ずっと楽しいなんて、そうないですよね。「この仕事が本当に自分のやりたいことなのか?」と、不貞腐れたことだってあります。

人間関係だって難しい。人と人との関係性の上に成り立っているのが「仕事」ですから、当然働いていれば摩擦だって起こります。でも、そういうときに思うのは、「働く」意識を、「働きかける」というふうに変えていかなければ、理想の職場など存在し得ないということです。

阿部:もし、「もっとこうだったらいいのに」「こういうことがしたいのに」という思いがあるのなら、そうなるように社内に働きかけたり、提案したり、人に相談したりといった行動を自分から起こすことも重要だと思うんです。

もちろん、根本的に思想が合わない集団や、無理難題ばかりを押しつけられるような環境だったら、いち早くそこから逃げてほしいと思います。でも、もしそうでなければ、「自分からこの環境を変えてみせる」というチャレンジをしてみるのもアリなのではないでしょうか。

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もう、周りの環境のせいにしない。「やりたいこと」を会社に理解してもらうためには?

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