Column 連載

誰とするか

『カメラを止めるな!』のタッグが語る。良作を生むための「熱量合戦」とは

会社に属していても、いなくても、個人指名で仕事が取れるクリエイターがいる。いったい、ほかの人となにが違うのだろうか。その秘訣に迫るべく、「誰と仕事するか」を重視するクリエイターたちをお招し、選ばれるクリエイターになるためのヒントを探る新連載をスタートすることにした。 記念すべき第1回目は、2018年に大旋風を巻き起こした映画『カメラを止めるな!』(以下、『カメ止め』)に携わったクリエイター鼎談。本編の映画『カメ止め』に楽曲提供し、日本アカデミー賞の優秀音楽賞を受賞した音楽ユニットの謙遜ラヴァーズと、同作の公式グッズのデザインを担当したキャラクターデザイナーのリックだ。 3月8日に発売された『カメ止め』の公式スピンオフアルバム『Pondemix』で、共作することになった彼ら。そこには、「誰とするか」を重視する熱い想いがあった。

プロフィール

謙遜ラヴァーズ
謙遜ラヴァーズ

鈴木伸宏氏(ill hiss clover / NOBLAND)と伊藤翔磨氏(SHOWMA)による楽曲制作・提供を中心に活動する音楽ユニット。映画『カメラを止めるな!』のメインテーマと主題歌を手がけ、『第42回 日本アカデミー』で優秀音楽賞を受賞した。『カメラを止めるな!』の公式スピンオフ音楽作品『Pondemix』が3月8日に発売。

https://www.kensonlovers.com/
リック
リック

キャラクターデザイナー / グラフィックデザイナー。映画『カメラを止めるな!』の公式イラストグッズを手がける。スピンオフCD『Pondemix』においては、CDジャケットデザイン、アニメーションMVを担当。そのほか、ももいろクローバーZの公式イラストなど、エンタメ分野で多岐にわたり活動。

http://rickgraphics.tumblr.com/

取材・文:宇治田エリ 撮影:きくちよしみ 編集:吉田真也(CINRA)(2019/3/29)

もともとは知らない者同士でしたが、『カメ止め』が縁をつないでくれました

—まず、謙遜ラヴァーズの鈴木さんと伊藤さんに伺いたいのですが、どのような経緯で『カメ止め』の楽曲提供に携わることになったのでしょうか?

鈴木:もともと『カメ止め』で監督を務めた上田慎一郎は滋賀県出身で、ぼくの幼馴染でした。昔から親しい関係なので、ぼくが音楽活動をしていることも、彼が映画を撮っていることも、以前からお互いに知っていました。ただ、これまで楽曲提供を頼まれたことはなかったんです。

でも『カメ止め』のときは、上田監督から「トイレに入っていたらふと思いついたんだけど、今回の映画に曲を書いてくれない?」っていきなり連絡がきて(笑)。それで楽曲提供が決まりました。ぼくもいつか一緒に仕事したいと思っていたので、嬉しかったですね。

伊藤:提供したのは、メインテーマ『zombeat』と主題歌『Keep Rolling』の2曲。楽曲提供の話がきてから制作期間が1か月くらいしかなかったので、この2曲だけでも手いっぱいでした(笑)。

謙遜ラヴァーズ(左:伊藤翔磨さん、右:鈴木伸宏さん)

謙遜ラヴァーズ(左:伊藤翔磨さん、右:鈴木伸宏さん)

—一方、リックさんはどのような経緯で『カメ止め』の公式グッズを手がけることになったのでしょうか?

リック:ぼくの場合は、話すと長くなるんですが……(笑)。『カメ止め』を初めて観に行ったのが、6月の劇場公開から1か月後のことでした。その頃から話題になっていたので「どれどれ見てやろうか」という軽い気持ちで観に行ったんです(笑)。でも、映画を観たら本当にめちゃくちゃ良くて。爆笑しただけじゃなくて、なによりつくり手側の熱い想いが詰まっているところに感動しちゃったんです。

仕事ではいつも悩んだりもがいたりしながらデザインを生み出すので、「楽しむこと」を忘れてしまいがち。でも、この映画は「純粋にものづくりって素晴らしくて、楽しいものなんだよ!」ってあらためていってくれた気がして。同じクリエイターとして、作中のキャストや制作スタッフの姿勢にすごく感銘を受けたんです。いろんな意味で自分が解放されました。そしたら自宅に帰る途中も、涙が止まらなくなってしまって(笑)。

リックさん

リックさん

—『カメ止め』に対する愛がすごいですね(笑)。

リック:そこから純粋に『カメ止め』の絵が描きたいなと思って、登場人物のイラストを趣味で描き始めました。仕事ではなく、自分の好きなテイストで自由に描くことができたので、楽しかったですね。それを「#カメ止め絵」としてSNSにアップしていたら、ほかのファンアートを描く仲間たちとの交流もできてどんどん盛り上がっていったんです。

こうして周りからも認知されるようになってきたある日、映画館のユジク阿佐ヶ谷さんから連絡がありました。この映画館は館内に巨大な黒板があって、上映する作品に合わせてクリエイターにチョークアートを描いてもらうというユニークな取り組みをしているところです。それで、『カメ止め』愛がある方に作品の絵を描いてほしいと。

実際にユジク阿佐ヶ谷で展示されたチョークアート

実際にユジク阿佐ヶ谷で展示されたチョークアート

—趣味が仕事につながった瞬間ですね。

リック:依頼をいただいたときは、プレッシャーも感じましたがとにかく嬉しかったです。SNS上のファンアートから一歩踏み出せるチャンスだと思って、心からワクワクしましたね。このユジクでの黒板アートの展示を経て、株式会社インドアというグッズの制作会社から、オファーをもらい公式グッズをつくることになりました。

—なるほど。謙遜ラヴァーズのお二人とリックさんが知り合ったきっかけは?

鈴木:まさに黒板アートのタイミングぐらいで知り合いました。リックくんの『カメ止め』関連のイラストをTwitterで見かけて、すごくいいなと思って。そのときは、具体案はなかったんですけど、いつか彼と一緒になにかをつくりたいなと思って連絡を取りました。

リック:もともとは知らない者同士でしたが、『カメ止め』が縁をつないでくれましたね。

公式スピンオフCDの制作は、映画の人気に乗っかるみたいで最初は抵抗がありました

—そして、今回発売された『カメ止め』の公式スピンオフCDアルバム『Pondemix』。楽曲は謙遜ラヴァーズさんで、CDジャケットのデザインと、リード曲『ポンデミックスガール』のアニメーションMVの制作を担当したのが、リックさんでした。どのような経緯でこのMVは生まれたのでしょうか。


『ポンデミックスガール』(謙遜ラヴァーズ feat.渡辺リコ)のMV【MV制作:リック、ふっしー、ぁんず、しまんちゅ】

鈴木:最初は単純に、イラストと音楽でなにかやれたらいいね、と話していたんです。ぼくらが音楽をつくって、リックくんがそれに合わせて映像をつくれたらいいなという構想がぼんやりとありました。あと、『カメ止め』つながりで出会った縁だし、せっかくだから上田監督も誘って監修というかたちで巻き込めたらなと。

それで、どんな作品にしようか考えたときに、『カメ止め』を多くの人に広めるためにしてきた活動が思い浮かんだんです。キャストやスタッフがビラ配りをしたことや、舞台挨拶を100回以上したことなどをもとに「熱のこもったストーリー」を映像や楽曲で表現したいなって。上田監督にもそのアイデアを話したら、賛成してくれて話が進んでいきました。

伊藤:じつは当初、ぼくはこのアイデアをしっかりと理解できていなくて。映画の影響力が大きいので、本当に「自分たちの音楽」といえるものづくりができるのか少し不安でした。『カメ止め』の人気に乗っかるだけの音源になってしまうのは嫌だなと。

でも、ファンミーティングなどのイベントに参加させていただくうちに、作品に対する関係者や周りの方々の熱量をあらためて目の当たりにしたんです。それでやっと、「『カメ止め』現象を表現するサウンドトラック」というスピンオフテーマの真髄を理解できました。それからはノリノリでしたね(笑)。

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不格好でもいいから、自分の武器で戦えばいい。未経験の仕事でも引き受けた理由